家政夫のミタゾノ:「神回」と話題 リモートドラマ制作の裏側 「常識を捨てる勇気と覚悟が…」

人気グループ「TOKIO」の松岡昌宏さんの主演ドラマ「家政夫のミタゾノ」のロゴ画像(C)テレビ朝日
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人気グループ「TOKIO」の松岡昌宏さんの主演ドラマ「家政夫のミタゾノ」のロゴ画像(C)テレビ朝日

 人気グループ「TOKIO」の松岡昌宏さんの主演ドラマ「家政夫のミタゾノ」(テレビ朝日系)の初のリモートドラマ「『家政夫のミタゾノ』特別編~今だから、新作つくらせて頂きました~」。出演者同士が顔を合わさずにリモート撮影された60分の完全新作で、5月29日に放送されると、視聴者からは「リモートであのクオリティ凄すぎる」「神回」「めちゃくちゃ面白かった」など絶賛の声があがった。今回のリモートドラマの発案者で、ドラマを第1シーズンから手がける秋山貴人プロデューサーは、「今までやってきたこととは180度違う形で挑まないといけなかった。常識を捨てる勇気と覚悟が(必要だった)」と振り返る。リモートドラマ制作の裏側を聞いた。

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 ◇約3週間で制作 「通常よりもすごくタイトなスケジュール」

 「家政夫のミタゾノ」は、家政婦紹介所に所属する派遣家政夫の三田園薫(松岡さん)が、派遣先の家庭で隠された秘密に気づき、依頼人の化けの皮をはがしていく……というストーリー。毎回、三田園が家事の“裏技”を披露することも話題になっている。

 特別編は、PC画面上で物語が進行するスタイルで、「むすび家政婦紹介所」の家政婦たちのミーティングや依頼人とのやり取りも、リモートで行われた。松岡さんが、「テレワーク中の家政夫のミタゾノでございます」とあいさつする場面や、音声がミュートになって聞こえない……など、リモート会議の“あるある”も登場し、今ならではの会話劇も楽しめた。

 さらに、ウィンドウがいくつも登場したり、テンポ良く切り替えられたりするなど、巧みな編集方法で視聴者を飽きさせない工夫がされていた。恒例の家事テクニックも健在だった。

 秋山さんによると、4月7日の緊急事態宣言発令直前に、撮影はストップ。撮影ができない日々が続く中、「何か(通常の撮影とは)違う手段がないか」と考えていたという。キャスト同士をからませず、リモート映像だけで60分もたせられるのかと悩んだが、スタッフと会話をしていく中で、「PC画面の設定ということにしたらいけるんじゃないか」と方向性が決定。5月頭に企画がスタートした。

 すぐに脚本家と打ち合わせをして、脚本ができあがったのは5月半ば。撮影開始の直前だった。通常は2~3カ月かけてしっかりと脚本を作るというが、今回は約10日で完成。「通常のレギュラー放送よりもすごくタイトなスケジュールの中でやっています」と明かす。

 放送ギリギリまで編集作業などが続いていたというが、企画開始から約3週間で放送された。秋山さんは、「時間のない中で初めてのことをやっていたので、『これ、(本当に)やれるのかな』ってずーっとみんなで(言っていた)」とスタッフの様子を明かす。放送後、松岡さんは「チャレンジしてよかったね」と話していたという。

 ◇松岡昌宏は「いつもと変わらず」

 今回の撮影では、主にスマートフォンのカメラと遠隔で撮影できる小型カメラを使用し、監督がビデオ会議ツールで指示を出す方法で行われた。現場にいるスタッフは最小限にした。なかには、衣装も自前、撮影も自宅で自撮りして、スタッフとは一回も会うことなく、クランクアップを迎えた役者もいたという。

 出演者に録画を依頼する場面が多かったので、音声トラブルが頻繁に起こるなど苦労も多く、ほぼ全シーンでなにかしらのトラブルに巻き込まれた。「役者さんが、撮影を失敗したり、音声トラブルがあると、『申し訳ないです』っておっしゃっていただくんですけど、いや、それを無理やりお願いしているこっちが『その気持ちにさせてしまって申し訳ない』という若干いたたまれない……」と振り返る。

 また、撮影が終わった後に、撮影した動画をアップロードする作業を役者にまかせないといけないこともあったという。「実際の芝居はビデオ会議ツールで確認できるんですけど、撮りあがったものを僕らが見るには、その役者さんが(動画を)アップロードして、我々がダウンロードして映像を確認するという時間がかかる。WiFi環境も人によって全然違うので、ずーっと待っても、『あれ? これ画角が(違う)……』ってことが結構ありましたね」と明かす。

 通常の撮影と比べると、ひとつひとつのシーンを作っていくことが「ものすごく時間がかかる作業だった」と話す。制約も大きく、結構な労力がかかったというが、「最初から無理なことをやっているので、(役者も)みんな笑いながら」と撮影現場を振り返る。松岡さんについても、「(松岡さんが)アドリブを本番で入れて、スタッフが笑いをこらえたりとか、いつもと変わらなかったですね」と話す。

 ◇リモートドラマの可能性

 長年ドラマを制作してきたからこそ、「ドラマの常識を全部一回捨てる」という作業をする必要があった。「通常ですと、大きなレンズのついたカメラを使っているところ、(今回は)それを捨てないといけなかったり、照明も最小限にしないといけなかったり。それまで培ってきたものを一回捨てないといけない作業、“当たり前”をどんどん捨てていく作業というのがあった」と振り返る。

 視聴者からの「本当に面白かった」という反響に「うれしかった」と話す秋山さんに、リモートドラマにまた挑戦したいかどうかを尋ねてみた。「かなり覚悟が必要ですね!(笑い)。突発的な、今まで経験したことのないトラブルを含めて、ドラマの常識も捨てないといけなかったり、今までやってきたこととは180度違う形で挑まないといけない。常識を捨てる勇気と覚悟(が必要)。折れない心を持たないと……」と率直な思いを明かす。

 一方で、リモートドラマの可能性については、ネットワークの改善で「表現の幅は変わってくる」とし、「(今の段階では)リモート収録は役者を撮影するアングルが限定されますけど、いろいろなことがこれからできていくんじゃないかなとは思います」と話す。

 「今回の撮影も、おそらく3~4年前ぐらいは、できなかったと思うんですよね。放送に遜色ないレベルまでできるというのは、この時代だからこそできたものなのかなと思います」と話す秋山さん。これまでとは180度違う形で挑み、苦労も多かったというリモートドラマの制作だが、役者の熱演、魅力的な脚本、これまでにない工夫を凝らした編集などを通して、視聴者は十分に楽しむことができた。今回の経験は、既存のドラマ演出に一石を投じたが、さらにそこから「神回」と呼ばれる作品が生まれたことも、制作サイドにとっては非常に示唆に富んだ経験だったといえるだろう。“アフターコロナ”でどんな新しい表現が、そしてどういった作品が生まれるのか。大いに期待したい。

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