映画「万引き家族」(是枝裕和監督、2018年)や「勝手にふるえてろ」(大九明子監督、2017年)など数々の話題作に出演し、順調にキャリアを積み重ねている女優の松岡茉優さん。7月17日公開(動画配信サービス「Amazon Prime Video」で同日から配信)の映画「劇場」(行定勲監督)では、山崎賢人さん演じる主人公・永田をいちずに支え続けるヒロイン沙希を演じている。松岡さんは、笑顔を絶やさず、どんな状態でも永田を受け入れる沙希のせりふや感情には共感しつつも、自身とは異なる性格の人物ゆえに、撮影中はフラストレーションをためることもあったという。松岡さんに撮影中の思いや自身を支えるものについて聞いた。
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映画はお笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんの同名の恋愛小説(新潮文庫)が原作で、永田と沙希の生涯忘れることができない恋を描いた物語。中学からの友人と作り上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田だが、劇団は上演ごとに酷評され、解散状態となっていた。ある日、永田は街で、偶然、女優になる夢を抱き上京した学生・沙希と出会う。いつしか恋に落ち、一緒に暮らし始めた2人だが、永田は理想と現実のはざまを埋めるようにますます演劇に没頭していく……というストーリー。
演じる沙希は、永田の才能を信じて、笑顔を絶やさず支え続ける女性。役作りでは、“甘えやすい人”に見えるように工夫したという。「私はよく『気が強そうだね』といわれるので、そういうところを見せないように、髪の毛をいつもより明るく染めたり、眉毛を細く薄くしたり。お化粧もメークさんと相談して、優しい感じにしていきました。永田くんは甘えべたな人だと思ったので、永田くんでも甘えやすいような人にしたい、と思っていました」と松岡さんは語る。
「『これはちょっと分からない』というせりふや感情が一個もなく、すべて共感できたし、理解もできました。『誰かにとっての誰か』になりたい、と思いました」と松岡さん。特にお気に入りだったのは、「梨があるところが一番安全です」というせりふだ。「この2人にとってのキーアイテムの一つが、梨。このせりふは、梨を食べたり、食べなかったりする中で、永田くんが『ここは安全か?』と沙希に聞くことへの答え(のせりふ)で。『私、このせりふ絶対に言いたい!』と思って(出演を)お引き受けした部分もあります。なんてキューッとなるせりふなんだろう、と思いました」と笑顔を見せる。
台本のせりふに共感できた、という松岡さんだが、どんなときも笑顔で相手を受け入れる沙希は、自身の性格とは異なる部分も多いという。それゆえに、撮影中はフラストレーションをため込むこともあったという。
「私は、はっきりくっきり、意思を伝えるように育ったんです。友達に対しても両親に対しても『ん?』と思ったら、ちゃんと言う。でも彼女(沙希)は言わないから、(撮影中)そういうフラストレーションがたまっていきました」と語る松岡さん。
そのため「家に帰って『今日も何にも言えなかった!』と……。だから家で、抱きしめられるぐらい大きなお気に入りの熊のクッションがあるんですけど、それに肩を抱きしめてもらって、熊のおなかに向かって『うわーーー!』って言っていました(笑い)。『勝手にふるえてろ』という映画のときもかなり心が乱れながら撮っていたのですが、心の乱れっぷりは、それ以来かなと思います」と自己分析する。
劇中で、永田役の山崎さんと息の合ったお芝居を見せている松岡さん。今回は過去にないほど、相手役の俳優と“共通認識”を突き詰めたという。クランクイン前は、知り合いを通じて山崎さんの連絡先を聞き、話し合った。「台本についてどう感じたか、どう思ったか、どこで2人の歯車が狂い始めたと思ったか……とか。今まで、相手役の方とこんなに突き詰めたことは私の中ではないぐらいで。それぐらい共通認識というものを大事に思っていました」と語る。
同い年の山崎さんとは、直接一緒に芝居をするのは初めて。2人で話をしていく中で、松岡さんは「こんなに真っすぐ育つ人がいるんだ」と驚いたという。
「この業界に限らず、25歳にもなれば癖がついていたり、ちょっと悪知恵がついたりする。私の地元の友達でも、小学生のときのようなピュアな心かと言うと……(笑い)。なのに山崎さんは、キラキラ、ツヤツヤな、誰も傷つけないハートを持っていて……『こんな人間、神様のギフトじゃないか』と思いました」と松岡さん。
「神様からもらったルックスを持ち、圧倒的な身体能力とお芝居の能力を持ち……こんな人が生まれてきてくれて、山崎さんがいる限り、この世代の作品は作られ続けるのではないかな、と思いました」と同じ世代の役者として、絶大な信頼を寄せる。
劇中では沙希として、葛藤し苦悩する“表現者”としての永田を支え続けた。では、一人の表現者、女優としての松岡さん自身を支えるものは、いったい何だろうか。そう問いかけると、「携わった作品でもらえる感想ですね」という。
「引きこもりの役を演じたときは『学校には行けないけど、家族と一緒にご飯を食べてみようと思いました』と言ってもらえたり、産婦人科のドラマに出演したときは『助産師さんになりたいと思いました』と言ってもらえたり……。『作品が人の人生を変えるようなことがありえるんだ』ということが、私の中ではすごく希望です」と松岡さんは目を輝かせる。「今回も『誰かに届け』と思って演じています。作品にはそういう希望がある、ということが、とても支えになっています」と一人の表現者として力強く語った。
※山崎賢人さんの「崎」は「たつさき」。
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