少年ジャンプ+:ヒット作が続々生まれる理由 SPY×FAMILY、怪獣8号も

「少年ジャンプ+」の細野修平編集長
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「少年ジャンプ+」の細野修平編集長

 集英社のマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+(プラス)」が好調だ。今年1月に発表された「マンガ大賞2021」では、遠藤達哉さんの「SPY×FAMILY」、松本直也さんの「怪獣8号」とオリジナル作品が2作品ノミネートされ、「SPY×FAMILY」のコミックス第6巻の初版発行部数が、同アプリ発の作品では初めて100万部を突破したことも話題となっている。テレビアニメ化されることも話題の「地獄楽」「終末のハーレム」や、「チェンソーマン」作者・藤井タツキさんの連載デビュー作「ファイアパンチ」など過去にも続々とヒット作が生まれてきた。「ジャンプ+」の細野修平編集長に、ヒット作が続々と生まれる理由を聞いた。

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 ◇初回無料で作品の面白さに追いつける 加速する人気 

 「ジャンプ+」は、2014年9月のリリースから今年で7年目。ダウンロード数は約1600万、月間アクティブユーザーは約380万人に達し、ブラウザーも含めると700万人を超える。ここ数年で、右肩上がりで成長を続けているという。

 近年の成長の転機として、細野編集長は2019年3月の「SPY×FAMILY」の連載開始、同4月にアプリを改修し、全てのオリジナル作品を全話初回無料にしたことを挙げ、「『SPY×FAMILY』が読みたくて訪れた読者を全話無料でつかまえ続けられた」と話す。

 数あるマンガアプリ中で「無料」を謳(うた)うものは多いが、実際は一日に無料で読める話数に制限があり、時間を置かなければいけないケースが多い。「ジャンプ+」の場合は、時間さえあれば、一気に最新話に追いつくことができる。面白いと感じる作品を見つけた時、読みたいという熱を下げることなく、作品に没頭することができる。

 「シンプルにお金を儲けることを考えれば、もっと違うやり方があるのかもしれませんが、僕たちの目的は『ジャンプ+』という場所から人気作、ヒット作を出すこと。そのためには読者を集めなければいけない。初回無料で作品の最新話に追いつけるのであれば、作品のファンにもなってくれやすいと考えました。初回無料とほぼ同時に連載が始まった『SPY×FAMILY』のヒットが、そのやり方が間違ってなかったと証明してくれました」

 2020年7月に連載がスタートした「怪獣8号」も、初回無料の効果を実感させられた作品の一つだという。2月に更新された第25話で同アプリ史上最速で累計7000万閲覧を達成し、「SPY×FAMILY」と並び、毎話100万閲覧を超える人気作となっている。2020年12月に発売されたコミックス第1巻の電子版を含めた発行部数は55万部を突破している。

 「『SPY×FAMILY』『怪獣8号』などヒットする作品の特徴は、驚くほどのスピードで人気が加速していくこと。読者が作品に『ハマった』と実感するのは、恐らく何話も続けて読んだ時で、最新話まで追いついた時に『作品のファンになった』と感じるのではないかと。初回無料で読者が作品の面白さにすぐに追いつけることが人気を後押ししているのではないかと思います」

 ◇とがった才能、若手編集者の感覚を大事に

 「ジャンプ+」の人気作は「SPY×FAMILY」「怪獣8号」だけではない。テレビアニメ化されることも話題の「地獄楽」「終末のハーレム」「サマータイムレンダ」や、「チェンソーマン」作者・藤井タツキさんの連載デビュー作「ファイアパンチ」など、過去にも数々のヒット作を生み出してきた。どのようにして新たなヒット作は生まれているのか?

 新作読み切り、新連載を生み出す新たな才能の発掘の場として、「ジャンプ+」と同時期に誕生したマンガ投稿・公開ウェブサービス「ジャンプルーキー!」がある。365日24時間、いつでもマンガが投稿できるサービスで、2020年は過去最多となる月平均3000話の投稿が集まった。

 「『ジャンプ+』と同じく『ジャンプルーキー!』も右肩上がりに成長しています。『ジャンプルーキー!』に投稿された作品は、基本的には全て新人編集者が目を通すようにしていて、そこで声がかからなかった作品も別の編集者が狙って取りに行くこともあります」

 細野編集長が新人発掘のもう一つの柱とするのが、マンガ賞だ。王道少年マンガの描き手を募る「次世代少年漫画賞」や「部活」をテーマにした「青春×部活漫画賞」、アナログ原稿のみで応募できる「アナログ部門賞」など多くのマンガ賞を創設してきた。

 「マンガ賞は、各編集者が案を出しています。基本的に審査をするのは現場の若手で、彼らが『面白い』と思ったものが入賞する。現場の作家さんと一緒に頑張るのは、現場の編集者なので、彼らがほれ込んだ才能をピックアップしていきたい」

 細野編集長は、新作読み切り、新連載の掲載を決定する上では「若い編集者の感覚を大事にしたい」といい、実際に“とがった”作品が生まれているという。そして、さらなる斬新な作品を生み出すべく創設されたのが、「インディーズ連載枠」だ。編集部員が担当に付くことはなく、連載内容は投稿者が自由に考えて執筆できる。「ジャンプルーキー!」内のランキングで読者の支持を得て1位を獲得すると連載権を獲得でき、閲覧数が上がると原稿料にボーナス金が付与される。

 「インディーズ枠を創設した理由は、『ジャンプルーキー!』の投稿作家さんにアンケートを実施した際に『自由に描きたい』という声があったからです。『自分の作品を多くの人に読んでもらいたい』が一番のモチベーションではあるのですが、だからといって編集が手を加えてコミットするのは好まない。そういう作家さんを逃すのはもったいないと考えました」

 「ジャンプ+」では、新人はもちろん、マンガ賞受賞歴のある作家や連載歴のある作家に対しても、新たな作品、チャレンジングな作品を求めているという。その結果生まれた新作読み切り、新連載を読者がキャッチできるよう初回無料で届ける。今後どんなヒット作が生まれるのか、注目だ。

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