村川絵梨:大切にしているのは「凝り固まらない」柔軟さ 「個性がない」も武器に

オフ・ブロードウェイミュージカル「The Last 5 Years」でキャシー役を演じる女優の村川絵梨さん
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オフ・ブロードウェイミュージカル「The Last 5 Years」でキャシー役を演じる女優の村川絵梨さん

 6月28日から上演されるオフ・ブロードウェイミュージカル「The Last 5 Years」に出演する女優の村川絵梨さん。同作はニューヨークに住む女優の卵・キャシーと成功し始めた小説家・ジェイミーの出会いから別れまでの5年間の関係を、それぞれ逆行する時間軸で表現したミュージカルで、村川さんは駆け出しの女優として奮闘するキャシーを演じる。吉沢亮さん主演で放送中の大河ドラマ「青天を衝(つ)け」(NHK総合ほか)でも主人公・渋沢栄一の姉・渋沢なか役で注目を集めるなど舞台、テレビドラマともに活躍中の村川さんに、女優として大事にしている思いや演じる役について話を聞いた。

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 ◇11年ぶりの再演「やっとできる日が」

 「The Last 5 Years」は、2001年の初演以降、世界中で繰り返し上演され続けている人気ミュージカル。駆け出しの女優として奮闘するキャシーと新進気鋭の作家のジェイミーが、恋に落ち、別れるまでの5年間の姿を描く物語。キャシーは結婚生活の終わりから出会いに向かって時間をさかのぼり、ジェイミーは2人が初めて出会った時から別れまでを順を追ってつづる。今回は3組のペアがそれぞれジェイミーとキャシーを演じ、村川さんは俳優の木村達成さんと共演。ほかには水田航生さんと昆夏美さん、平間壮一さんと花乃まりあさんがペアを組む。演出は演出家の小林香さんが務める。

 11年ぶりの再出演となった村川さん。2010年の公演に引き続きキャシーを演じることについて「11年前に出演させていただいてから、定期的に『またやりたい』と言っていたので、『やっともう一度、再演できる日が来た』という気持ちでした」と喜びを語る。

 前回の出演時は舞台経験はあったが、ミュージカルは初挑戦だった。村川さんは当時を「無知だから飛び込めた」と振り返り、今回の再演について「あのときは若いエネルギーをぶつけていたけれど、今回はもうちょっと深い解釈でこの役と向き合えることが楽しみです」と以前とは異なる思いを明かす。「人間って、何事も経験だと思うので、11年経って何も変わっていなかったら自分でも残念だから(笑い)。前回の出演後、10本以上の舞台を経験させていただいたり、年齢を重ねてきたことが、『こうしたい』と意識せずとも全然違う形で自分から出てくるんだろうなと思っています」と声を弾ませる。

 演じるキャシーは女優の卵。村川さんは「ちょっと“痛い”んですよ、自信満々で(笑い)。から回っちゃうタイプで、ちょっと天真爛漫な女の子」と説明し、「11年前はめちゃくちゃ共感しやすかったですね。同じような感じのテンションだったので(笑い)。『未来に向けてがんばるぞー!』と。その勢いでキャシーという役を乗り切ったところがありました」と以前は自身と重ねられる部分もあったという。ただ、そのころから多くの経験を重ね、変化した部分もある。「今はもっと現実的になっているので、この天真爛漫なキャシーにどう挑むか、という感じです」と気を引き締める。

 村川さんならではのキャシーをどう表現するか。「ミュージカル全編、歌でつづられ、歌の中にお芝居要素が詰め込まれているんです。だから“せりふをしゃべるように歌う”ことが大事になってくる。美しい音を聞かせるというより、思っていることをメロディーに乗せて、伝える。前回は『言葉を伝える』ことがきちんとできていなかったので、まずはそこかな、と思います。ちゃんと物語を伝えられるキャシーを演じたいです」

 ◇「舞台は主軸として持っていたい」

 舞台のみならず、テレビドラマや映画などの映像媒体でも活躍する村川さん。それぞれ異なった魅力があるが、村川さんはコロナ禍で、舞台の持つ生の魅力を改めて実感したという。「今までも感じていましたが、舞台に対しての緊張感をより感じるようになりました。演じるときもより緊張感が出てきたし、(見るときも)やはり生で見るエネルギーを受けたい。エンターテインメントってすごく大切だな、と思えるのが舞台なんです。もちろん映画もテレビドラマもすばらしいけど、うまく言えない感動って、舞台から引き起こされることが多い。女優を続けるうえで『絶対、舞台は主軸として持っていたい』と、より思いました」と舞台への強い思いを語る。

 もちろんドラマ、映画も、自身にとって欠かせない場所。村川さんは「映像は単発勝負で、瞬発力が大事なので、バランスよくお仕事させてもらえるのはありがたいな、と。偏ってしまうと、どちらかの脳になっちゃうから。これからもまんべんなく、いろいろな場所でお芝居に向き合える環境を作っていきたいなと思います」と言い、さらに「いろいろな場所で必要とされる30代後半、40代の役者になりたい」と前を見据える。

 「必要とされないと意味のない仕事なので。何歳になっても役はあるから、どうすれば必要としてもらえる存在になれるかは、一生のテーマですね。そのためには『一人の女性として、ちゃんと生きる』ことが大事だと思っていて。“老ける”ことも美しい、という人生を歩んでいけるように。それは最近すごく意識しています」と語る。

 33歳の今は、人生について考える機会が増えたといい、「周りに結婚する人も増えて『私はいつまで、仕事にこんなに向き合っているんだろう』と思ってから、人生について考えることが増えました。分かれ道が一気に増えるのが30代。何が必要か精査していくことが大事なのかなと思います。40代はきっともう少し落ち着いて、自分がやっと理解できるんだろうな、と。いろいろな人に出会い、いろいろな考えを持ちたいなと思っています」とほほ笑む。

 ◇“弟”吉沢亮にも「勉強させられました」

 テレビドラマでも活躍する村川さんは、吉沢さん主演で放送中の大河ドラマ「青天を衝け」では主人公・栄一の姉・なか役で出演。縁談の問題でふさぎ込んでしまう姉を熱演し、注目を集めた。反響を聞くと、「そんなには……」と控えめに明かしつつ、「家族は、周りから結構連絡が来たと言っていました。妹がいるので、『いいお姉ちゃんだね』と。(なかも)お姉ちゃん役なので(笑い)」と楽しそうに打ち明ける。

 そんな村川さんが女優として、大切にしていることは「凝り固まらないこと」。そのために柔軟な目線を持ち、さまざまな人を見ることを意識している。「いろんなことを感じて、いろんな人を見て。だから、昔は人に対して好き嫌いが激しかったけど、なくなりました(笑い)。『嫌だな』と思っても『なぜこんなに嫌なのか』とか『面白いと思わないと』という観点を持てることが、この仕事のポジティブなところ。『これは生かせる』とポジティブにいかないと、やっていられない仕事じゃないですか(笑い)。だから鈍感力と柔軟さが大事かな、と。なるべく自分をほぐして、柔らかくして生きていきたい。それが大事だと思います」と爽やかな笑みを浮かべる。

 柔軟であるため、固定の役者像で自らを縛ることもない。「『自分はこうだ!』と決めたほうがいいんでしょうけど、分からないんです。他人からこうだ、と思われていることが違うこともある。『個性があまりない』と言われることがコンプレックスだったんですけど、逆にそれが個性じゃないか、と。普通の人を演じられるから。私、感覚も見た目も普通だと思うんです、買い物は近くのスーパーに行くし(笑い)。感覚が普通の人間だな、と思う。だけど、見ている人に共感してもらえたらうれしいから、それを武器に、役をいただいていけたらうれしいですね」と前向きだ。

 凝り固まらない、という考えは、女優として経験を重ねてたどり着いた。また、大河ドラマで“弟”役の吉沢さんを見ていても改めて実感したという。「柔軟さって大事だなと。たとえば吉沢君も、柔軟で、すごくそういうタイプだと思うんです。だからあんなに忙しくてもいろんな役をできるんだな、と思う。栄一への向き合い方もそうで、『大河の主役だから』みたいなところが、いい意味でないタイプ。そういう姿勢を見ていて、『いろんな役に向き合うためにはそういうのが大事なんだな』と、“弟”に勉強させられたりもしました(笑い)」と役に重ねて楽しそうに語る。

 実は「 利(きき)酒師」の資格を持ち、プロデュースも手掛けるなど日本酒が好きな一面を持つ村川さん。今後も役者と日本酒、2つの柱を大事にしていこうと考えている。
「普段から日本酒のコミュニティみたいなこともやっているので、それをメディアで発信できたら、自分も楽しいし、日本酒業界も盛り上がるかなと思う。役者と日本酒、“二本柱”で人生を楽しみたいなと思っています」とにこやかに語った。

「The Last 5 Years」は6月28日~7月18日にオルタナティブシアター(東京都千代田区)で上演。

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