小野憲史のゲーム時評:大作化で加速するM&Aと出版社によるインディー支援

「集英社ゲームクリエイターズCAMP」のサイト
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 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、大作とインディーの二極化と、それに伴う各社の施策について紹介します。

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 ゲーム機の世代交替に伴い、プラットホームホルダーを中心に、M&A(企業の買収や合併)が加速している。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が2021年3月、世界最大規模の格闘ゲーム大会「The Evolution Championship Series(Evo)」を、Endeavorグループ傘下のRTSと共同買収したのは一例だ。今後の運営はSIEとRTSとの間で新設された合弁会社が行うことになる(買収額は非公開)。

 SIEを含むソニーグループもゲームエンジン「Unreal Engine(UE)」などで知られる米Epic Gamesに対して、投資を繰り返している。2020年7月には2億5千万ドル(約270億円)、2021年4月には2億ドル(約216億円)の出資を決定した。UEはゲームに留まらず、建築・自動車・映画産業などでリアルタイム3DCG制作に活用される中核的技術の一つだ。最新版「5」の本リリースが2021年に予定されており、PS5向けゲームの開発でも使用される。

 マイクロソフトも2021年3月に「Fallout」などの人気ゲームを所有するZeniMax Mediaを75億ドル(約8千100億円)で買収した。2021年4月には人工知能(AI)や音声認識ソフトを手がけるNuance Communicationsを197億ドル(約2兆1千276億円)で買収すると発表。同社はゲーム関連企業ではないが、音声入力が普及していく過程で、ゲーム開発においても新たな中核技術になる可能性がある。

 このようにプラットフォームホルダーが大型投資を繰り返すのも、ゲーム開発のさらなる大作化を見越してのことだ。分岐点になったのが2013年に発売された「グランド・セフト・オートV」で、開発費とマーケティング費が2.65億ドル(約286億円)、推定売上は約60億ドル(約6480億円)以上となる。2021年11月にはPS5とXbox X/S版の発売も予定されており、クリスマス商戦の目玉タイトルの一つだ。

 この例に限らず、ゲームの開発費用はハリウッドの大作映画と肩を並べつつある。求められるのは全世界でヒットが期待される、普遍的なテーマと高い技術力だ。これは裏を返すと、国別・市場別にニッチなゲームを作るメリットが、大手企業で薄まっていることを意味している。東京に開発拠点を持つSIEジャパンスタジオが、2021年4月に再編されたのは、その象徴だ。多くの名物クリエーターが退職し、新天地で活躍をはじめている。

 SIEは1993年に東京で設立されたソニー・コンピュータエンタテインメントを源流に持ち、PSの成功にあわせてグローバル企業に成長した。2016年に米サンマテオにSIE LLCが設立されると、米主導による経営に移行。これに伴い「サルゲッチュ」「ワンダと巨像」など数々の名作タイトルを手がけてきたジャパンスタジオの存在意義が低下し、今回の再編につながった。現在は社員数を減らし、VR・AR系のゲーム開発や研究開発に注力しているとみられる。

 もっとも、一部の大作ソフトだけで満足するほどユーザー心理は単純ではない。この合間を埋めるように勃興してきたのがインディー(独立系)ゲームだ。稲作をテーマにした和風アクションRPG「天穂のサクナヒメ」は好例で、数名の開発チームで5年以上の開発期間をかけ、50万本を越えるヒットを記録した。他にオープンワールド・サバイバルアクションゲーム「クラフトピア」など、日本からもさまざまなインディーゲームのヒット事例が見られる。

 興味深いのは、インディーゲームの開発支援に伝統的な出版社が乗り出していることだ。2020年9月に講談社が立ち上げた「講談社ゲームクリエイターズラボ」が先鞭をつけた。開発チームを作家集団と見立てて、マンガ制作で培ったノウハウをもとに、ゲーム制作を支援する仕組みだ。開発チームには年間1000万円が2年にわたって支給され、権利も開発チームが所有する。2021年4月には集英社も「集英社ゲームクリエイターズCAMP」を立ち上げている。

 他に「サクナヒメ」を販売したマーベラスが2021年3月に「iGi indie Game incubator」を開始するなど、国内でもインディーゲーム支援の動きが進みつつある。もっとも、ゲーム業界全体でみれば、まだまだ傍流だ。法人間での契約が中心で、個人クリエーターとの契約経験に乏しい業界慣習が背景にあると見られる。大作ゲームのすき間をインディゲームが埋めつつある中、こうした動きが業界の新たなルールチェンジャーになるのか、注目していきたい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011年からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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