呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変
第36話「鈍刀」
11月14日(木)放送分
アニメ「電脳コイル」などで知られる磯光雄監督の新作オリジナルアニメ「地球外少年少女」。磯監督は独創的な発想で、アニメの歴史を変えてきたスーパーアニメーターでもある。「地球外少年少女」で、メインアニメーターを務める井上俊之さんもまたスーパーアニメーターとして知られている。井上さんに、磯監督のアニメーター、監督としての魅力について聞いた。
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「地球外少年少女」は、2007年に放送された「電脳コイル」以来、約15年ぶりとなる磯監督の監督作。AIの発達により、誰もが宇宙空間へ行けるようになった2045年を舞台に、月生まれの子供たちと地球から宇宙旅行にやってきた子供たちが、日本製宇宙ステーション・あんしんで出会うことになる。全6話構成で、前編(第1~3話)が1月28日から、後編(第4~6話)が2月11日から、それぞれ2週間限定で劇場上映される。上映と同時に劇場公開版のブルーレイディスクとDVDが劇場で販売。Netflixでも1月28日から世界同時配信される。
磯監督は1980年代半ばからアニメーターとして活動。「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」「紅の豚」「新世紀エヴァンゲリオン」など数々の作品に参加。メカや人物描写、爆発などでアニメの新たな表現を開拓し、多くのクリエーターに影響を与えてきた。井上さんは、「AKIRA」「魔女の宅急便」「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」「千年女優」などに参加し、リアルな表現を追究してきた。“カリスマ”と呼ばれることもある。井上さんは、アニメーターとしての磯監督を「天才的」と表現する。井上さんという達人が、磯監督という達人について語る。レベルが高い話だ。
「自分が描いたものの欠点を見透かされているように感じるところもあります。能力の高い人は、高いところから見ている。明らかに僕の方が下にいます。天才というのはイメージする力が根本的に違う。普通の人が生み出せないイメージを発明できる人が天才なんだと思います。僕は普段書く字はとてもヘタなんですが、実は書道はうまいんです。書道だと手本を“模写”する感じで絵を描くように書けるので。それと似て作画でも具体的な見本を提示してもらえると、努力で肉薄はできる」
井上さんは「電脳コイル」では総作画監督を務めた。監督として磯監督の魅力、特徴をどのように感じているのだろうか?
「磯君の作画は人物の動きが特に優れているんですが、監督作では大事にするのは意外なことにキャラクターの表情で、そのストライクゾーンが狭いんです。僕が組んだ監督の中でも一番厳しいかもしれません。『電脳コイル』の時もそうでした。彼の作品では特に絵コンテから表情のニュアンスを読み解き、表現することが求められるのですが、初めての人には難しいかもしれません。怒っている表情でも、あきれているなど微妙な別のニュアンスが含まれていて、そこを表現するのが難しいんです。作品全体のキャラクターの動きを(自身のレベルで)コントロールするのは困難だけど表情ならなんとか可能と考えているのかもしれません。商業アニメの監督としては合理的なのかもしれません」
さらに「磯君はエンターテイナーなんでしょうね」と続ける。
「見た人が楽しめることを大事にしています。商業アニメの作り手にとっては必須なことですが、残念なことに日本のアニメーションの現場ではまれです。『電脳コイル』もやっぱり楽しい作品になりました。先見性に驚かされるところもあります。『電脳コイル』では、電脳のペットなんかに果たして思い入れが生まれるのかな?と最初は思ったんですけど、最後には、デンスケとの別れがこんなに切ないなんて……と感じるようになりました。現実でも同じようなことが起こり始めています。本当に勉強家なんですよね。『地球外少年少女』も時間がたってから気付くことがあるかもしれません」
「地球外少年少女」で、井上さんに並ぶキーパーソンが吉田健一さんだ。吉田さんはスタジオジブリで「もののけ姫」などに携わった後、「OVERMANキングゲイナー」「交響詩篇エウレカセブン」「ガンダム Gのレコンギスタ」などのキャラクターデザインを担当してきた。井上さんは、吉田さんのデザインを「本当に魅力的」と絶賛する。
「僕は1981年にアニメーターデビューしました。1970年代に多くのアニメーションがある意味ずさんに作られていた中で、1980、90年代は、ちゃんとした空間でキャラクターが生きているように感じられるアニメーションを作ろうという時代になっていました。ちゃんと動かそうとしたら、デザイン的にどのアングルからでも描けないといけない。そうすると、立体的に整合性のある絵、矛盾がない3D的な絵になっていきます。それ自体はいいことだけど、結果的に同じようなデザインになり、アニメーションの進歩の中で何かが失われていきました。70年代には、立体的にはちゃんとしてないけど、いい絵がいっぱいありました。80年代以降、洗練されていったけど、70年代的な魅力が失われていったんです。吉田君はそのことに気付き、意識的に70年代的な魅力のある絵も描こうとした。描く能力もあったんです。アニメ業界が失ったものを復権させようとしたと感じています」
復権ではあるが、懐古ではない。偉大な先人たちが築いてきたものを受け継ぎつつ、新しい表現を目指したのが吉田さんのキャラクターデザインだ。
「いい絵は古くならないんですね。安彦(良和)さんの絵も古くならない。アニメの影響からなのか、最近ではマンガの絵もアニメっぽくなっている気がします。マンガの世界にあった本来豊かだった表現の世界が失われつつあります。バラエティーがなくなり、均一化していると感じています。そんな中で、吉田君のやっていることはすごく魅力的です。知識が豊富で、引き出しも多い。僕ももっとそれを表現していきたい」
最後に井上さんに「アニメーターとして大切にしていること」を聞いてみた。
「絵が動いていることの強み、“らしさ”ですね。動き、たたずまい……リアリティーと言ってもいいのかもしれない、写実的なリアルというよりも、“感じ”が出ていると思ってもらえることが大事だと思っています。実写を撮って、なぞって絵に起こせば、リアルは手に入るけど、それでは元の実写以上にはならないし、その実写が不出来な場合その再現以下のものにどれほどの意味があるでしょう。実写以上のリアリティーといえばいいんでしょうか、、磯君は、そこがうまい人なんです。アニメーションは本物以上の“らしさ”を出せるはず。印象派の絵は、本物よりも素晴らしく感じることがあります。『アルプスの少女ハイジ』のチーズが溶ける表現は、実際のチーズよりもおいしそうに見えます。余計な情報をそぎ落とし、いいところを誇張できる。磯君は、そういう可能性を気付かせてくれた。自分には不可能なことかもしれないですが、いつかそういうことができるといいなと思います。アニメーションの力を信じているので」
「地球外少年少女」は「アニメーションの力」を感じる作品になっている。豪華スタッフによるアニメだからできた新たな表現を感じ取ってほしい。
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