センゴク:仙石秀久が主人公になった理由 歴史を描く責任感 連載18年でついに完結 

「センゴク」シリーズ作者の宮下英樹さん
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「センゴク」シリーズ作者の宮下英樹さん

 「週刊ヤングマガジン」(講談社)で連載中の宮下英樹さんのマンガ「センゴク」シリーズが、約18年の連載に幕を閉じる。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康に仕えた武将・仙石秀久を“史上最も失敗し挽回した男”として描いたマンガで、宮下さんは膨大な史料を調べ、古戦場などを取材し、斬新な視点が歴史ファンのみならず、学者や研究者からも熱い支持を集めている。仙石秀久は三英傑の天下取りに貢献した武将ではあるが、一般的に知名度は高いとは言えず、戸次川(へつぎがわ)の戦いでの大敗などから評価が高いわけでもない。なぜ、仙石秀久を主人公としたのだろうか? 約18年という長期連載の中で見えてきたものとは? 宮下さんに聞いた。

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 ◇三英傑から好かれる仙石秀久 作者は理系出身!?

 「センゴク」シリーズは、2004年に「週刊ヤングマガジン」で連載を開始し、第2部「センゴク 天正記」、第3部「センゴク 一統記」と続いてきた。終章となる第4部「センゴク権兵衛」が連載中で、2月28日発売の同誌第13号で最終回を迎える。シリーズ累計発行部数は1059(センゴク )万部を突破するなど人気を集めている。

 主人公の仙石秀久は、豊臣秀吉の子飼いの武将で、秀吉の家臣団ではいち早く大名に出世するが、秀吉の九州平定の緒戦の戸次川の戦いで大敗して改易され、その後の小田原征伐の活躍により大名に復帰した。小田原征伐での武功は「仙石原」という地名の由来にもなったという説がある。一方、司馬遼太郎の小説「夏草の賦(なつくさのふ)」などでも描かれた戸次川の戦いでの大敗もあり、評価が高いとは言えない。

 「センゴク」では、そんな仙石秀久を“史上最も失敗し挽回した男”として描いている。なぜ、主人公に仙石秀久が選ばれたのか? 宮下さんは「連載が決まってから主人公を探しました」と話す。

 「“憧れられる信長”を描こうとした時、信長を主人公にするのではなく、信長の部下の視点でないと難しいと考えました。信長の部下の中から絞っていくと、三英傑と関わりがあって、不思議と三英傑から好かれている人物がいるなと気付いた。それが、仙石秀久でした。下の世代の(徳川)秀忠にも好かれているのも面白い。浮き沈みがあるところもドラマにしやすいですし」

 多くの歴史ファンを虜(とりこ)にしているが、意外にも作者の宮下さんは理系で工学部出身。「連載するまで、歴史の知識は教科書やゲームで覚えていたくらいしかありませんでした」と明かす。

 「いわゆる暗記勉強という感じだったので、学生時代の授業はつまらなかったですし(笑い)。朝廷と将軍の違いがよく分かっていなかったり、仏教でもいろんな宗派があってそれぞれが対立する理由もいまいちピンときていなかった。生きた人間が社会を作り、歴史があるのですが、その実感がありませんでした」

 なぜ「歴史」を題材にしたマンガを描こうと思ったのだろうか?

 「いつかちゃんと歴史を勉強したいと思っていた中、担当編集が歴史好きで、新連載として歴史マンガを押してきたんです。編集とマンガ家がやりたいことが一致することってなかなかないので(笑い)。じゃあ乗っかってみようと思ったのがきっかけでした」

 宮下さんが「センゴク」を描く上で心がけているのは、史実に真摯(しんし)に向き合うことだ。「センゴク」は古文書を引用するなど本格的なマンガで、宮下さんは膨大な史料を読み解き、研究者にも取材し、現地にも足を運ぶなどして、史実に添うように物語を紡いできた。「歴史を描く責任感」を感じながらマンガを描いている。

 「たくさんの学者の方々の長年の研究、地元の方々、歴史ファンの思いを大切にしています。勉強すればするほど、それを感じています」

 ◇「秀吉の晩年はここまで描くつもりはなかった」

 「センゴク」はマンガ、つまりエンターテインメントでもある。史実に真正面から向き合いながら、エンタメ要素とのバランスも考えてきた。

 「今も悩んでいます。リアルにこだわっていくと、どうしても地味になってしまう。読者の期待と乖離(かいり)しないように、地味さの中に面白さを提示していくのは課題でした」

 最終章「センゴク権兵衛」では、朝鮮出兵や、豊臣政権の政治抗争も丁寧に描いた。

 「秀吉の晩年はここまで描くつもりはなかったんです、どう考えても盛り上がらなさそうなのは見えていたので。朝鮮出兵は始まる前にいかに省くかを考えていたのですが、省くためにも結構史料を読まなくいけなくて(笑い)。読んでいく中で、外交の面白さに気づいて、がっつり描くことになりました。ドラマや小説でも避けられがちな豊臣政権の崩壊も、地味で盛り下がるかもしれないけど、やっぱり秀吉の人生の大事な部分なので、しっかり描かないといけないと思いました。今は、なんとか自分の満足がいく形で描けたので安心しています」

 「一番情熱を保った状態で、連載を終われそうです」と語る宮下さん。完結を前にして気が早いかもしれないが、次回作への構想を聞くと「いっぱいありますね。歴史ですと、史料がない時代ほど、フィクションを作る人間としては興味があります。卑弥呼など社会システムとして宗教が必要だった時代にも興味があります」と話す。次回作への期待も高まる。

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