高野麻里佳:「ハケンアニメ!」実写映画初出演 “顔出し演技”の挑戦 恥ずかしさも

「ハケンアニメ!」に出演する高野麻里佳さん
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「ハケンアニメ!」に出演する高野麻里佳さん

 アニメ業界で奮闘する人々を描いた辻村深月さんの人気小説が原作の映画「ハケンアニメ!」(吉野耕平監督)が5月20日に公開される。女優の吉岡里帆さんが、新人アニメ監督・斎藤瞳役で主演を務める映画で、ゲームやアニメなどが人気の「ウマ娘 プリティーダービー」のサイレンススズカ役などで知られる声優の高野麻里佳さんが出演することも話題になっている。高野さんが実写映画に出演するのは初めてで、劇中に登場するアニメ「サウンドバック 奏の石(サバク)」の主人公・トワコ役を務める声優・群野葵を演じる。昨今、声優が“顔出し”でさまざまなフィールドで活躍してはいるが、高野さんにとって“顔出し演技”は挑戦だったという。高野さんに、同作への思い、撮影の裏側を聞いた。

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 ◇アイドル声優のもやもやした気持ち

 「ハケンアニメ!」は、新人アニメ監督・斎藤瞳が監督デビュー作で、憧れのスター監督・王子千晴と、最も成功したアニメに与えられる称号「覇権(ハケン)」を争うことになる……というストーリー。瞳は個性的な仲間たちと共に、日夜奮闘を重ねる。

 高野さんが演じる群野葵は、アイドル的人気の声優。声優が声優役として出演するということで、特別な思いがあった。

 「顔出しのお仕事で、しかも声優としては身の引き締まるような作品に出演させていただくということで、不安もあったんですけれども、やらねばならぬ!頑張らねばならぬ!と気合が入りました。声優を演じるので、いつものように演じるのとは違いますし、群野葵ちゃんという人生を表現するぞ!という気合を入れました」

 実写映画への出演は戸惑いもあったというが、「この作品だから」と前向きに捉えて、チャレンジした。

 「映画のオーディションの話をいただいた時は、自分の顔、体が映像として残ることが想像できませんでした。本当に私で大丈夫なんだろうか?という申し訳なさみたいなところもあったんです。ただ、声優役であることですし、群野葵ちゃんはアイドル的活動をしているからキャスティングされたという設定があったから、その気持ちが分かりますし、表現者として参加させていただきたいと思ったんです」

 高野さんは、同作への出演が発表された際も「私は葵ちゃんの気持ちが分かる気がしたんです」とコメントしていた。

 「葵ちゃんは、アイドル的人気があって、声優としての技術を評価されたわけではなく、キャスティングされた声優です。私は新人時代、声のお仕事よりも先に顔出しの仕事が多かった経験がありました。『声優です!』と名乗った時、少し怖くなったり、もどかしくなったりする時期があったんです。自分の表現したものに対して真摯(しんし)に向き合うとしているけど『アイドルがやりたいの?』と思われるんじゃないか……と。葵ちゃんもそんなもどかしい思いをしているんじゃないか?と感じたんです」

 高野さんはそんなもやもやした気持ちを乗り越えたから、今の活躍がある。声優としての活躍が注目を集め、「ハケンアニメ!」にも出演することになった。

 「やりたい気持ち、貫きたい表現を持ち続けようとしました。そこに誇りを持っていないといけないと思っていました。声優と名乗るからには、声の表現を諦めちゃいけない!という気持ちを持ち続けようとしました。今回、映像作品で声優役として出演できるのは、表現者としても役者としてもうれしいことです。一つ夢がかなったような気持ちですね。『自分が頑張った証だ!』と胸を張り、ちょっとだけ自分を褒めてあげたいです」

 ◇実写映画のプレッシャー

 映画の撮影は、アニメなどの収録とは勝手が違った。

 「プレッシャーがありました。普段の収録と違って台本を持ち込むことができないので、何とかしてせりふを覚えようとしました。私は不安だから、カメラが回るギリギリまで台本を見ていましたが。吉岡さんに『どうやってせりふを覚えたらいいのでしょうか?』と聞いたら『反復する』とおっしゃっていました。『相手の音声を自分で収録して、それを流しながら、会話しているように練習することもある』というお話もしていただきました。掛け合いで生まれていくものがあり、会話の流れを大事にするのは、声優に通じるところを感じました」

 アフレコのシーンはリアリティーがある。梶裕貴さん、潘めぐみさんらと収録するシーンもあり、実際のアフレコの様子をのぞき見しているようにも感じる。

 「すごくリアルです。いつもお会いする先輩方と、実写で演技をするっていうのがちょっと気恥ずかしかったです。梶さんは、私が緊張しているのを察していただいたようで『伸び伸びとやったらいいよ』と言っていただきました。潘ちゃんも『私たちにできることがあったら言ってね』と背中を押してくださって心強かったです。葵ちゃんが泣き出して、みんなが心配するシーンがあり、泣くのも度胸がいりますし、周りの方は知っている方々なので、いつもとは違う演技を見られていることに気恥ずかしさがありましたね」

 マイクの前に立つシーンでは「普段通りにしよう」と心がけた。

 「自分の体を使って表現しないといけないですし、普段通りの呼吸をすることを意識しました。ただ、葵ちゃんは葛藤しているので、いつもよりも緊張感を持とうとしていました。体を動かすことが難しいんですね。普段の収録は、ノイズが入ってしまうので、音を立ててはいけないですし。戸惑うところもありました」

 柄本佑さんと共演する中でも刺激を受けた。

 「私が『お疲れ様です』と言いながら廊下を過ぎ去っていくシーンがあり、監督に『途中で足を止めてほしい』と言われたんです。足を止めるとはどういう心境だろう?と悩んでいた時、柄本さんに、私の進行方向をふさいでいただき、自然と足を止めることができました。私が困っていたことを察していただいたのか、カバーしていただきました。台本だけでは分からない動きがこうやってできていくんだ……と実写の世界の奥深さを感じました」

 「ハケンアニメ!」はアニメへの愛を感じる映画だ。アニメには、制作スタッフ、声優、ファン……とさまざまな形で愛が注がれていることを改めて感じる。

 「たくさんの人がいろんな方向から愛を注いでいるんですよね。声優が声を入れて完成、絵ができて完成……というわけではなく、人に届いて初めて、作品が伝わる。せりふで『誰かに刺され!』とありますが、本当にその通りなんですね。『ハケンアニメ!』を見た後、全てのアニメに対して、こういう人たちがいるかもしれない……と感じていただけるとうれしいですね」

 ◇変わってきた声優業界

 声優はバラエティー番組や音楽番組に出演したり、雑誌のグラビアに登場したり……とさまざまな活動を通じて、声の仕事の魅力を発信している。高野さんも3月にマンガ誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)の表紙を飾るなど、活動の幅を広げている。

 「声優業界が変わってきてるんだなあ……と感じています。先輩たちに声優の仕事のフィールドを広げていただき、だから私もさまざまな経験をさせていただいているんです。先日、マンガ誌の表紙を飾らせていただいた時、事務所の人に『ウチの事務所の声優がマンガ誌の表紙を飾るのは初めてかもしれない』と言っていただき、もっと頑張ろう!という気持ちになりました。自分が頑張ることで、後輩たちのフィールドが広がるかもしれませんし」

 声優の活動の幅が広がっているのは今に始まったことではないが、高野さんが「ハケンアニメ!」に出演したことも声優の活動の幅をさらに広げるきっかけになっていくかもしれない。

 「自分の世界を狭めないため、表現の幅を広げるために、チャレンジ精神を持っていたいですね。ただ、今回は映画を見て、ちょっと恥ずかしかったですね(笑い)。映画に没頭してるんですけど、自分が出ていると意識した瞬間、我に返ってしまうんです。葵ちゃんだ!と思いながら見ていました。ちょっとまだ慣れないです」

 「ハケンアニメ!」に出演することで「今までにない表現方法にチャレンジして、度胸がついたところがありますし、今までやってこなかったこともやってみよう!と思えるような自信につながりました」と変化があったという高野さん。今後もさまざまな活動を通して、新しい表現を見せてくれそうだ。


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