小野憲史のゲーム時評:復刻版ミニゲーム機にみるメーカーの意図とメッセージ

「メガドライブミニ2」
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「メガドライブミニ2」

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、復刻版ミニゲーム機について語ります。

ウナギノボリ

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 復刻版ミニゲーム機の人気が高まっている。2016年の「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」を皮切りに、「スーパーファミコン」「プレイステーション」「NEOGEO」「メガドライブ」「PCエンジン」「アストロシティ」など10種類以上が販売中だ。日本版に加えて海外版が別途発売される例もあり、総じて好調なセールスを記録している。

 実際にいくつかの製品を購入して遊んでみると、ストーリーや設定は忘れていても、遊び方やテクニックを指先が記憶していることがあり、驚かされる。現世代機やスマホゲームなどと異なり、オンライン接続や初期設定などが不要で、電源を入れるとすぐにゲームが遊べるのも新鮮な体験だ。名作ゲームだけでなく、中古ソフト市場でプレミアムがついているゲームソフトが収録されている例もあり、お得感がある点も人気の一つだろう。

 もっとも、中にはブームだからという理由だけで発売された、志の低い製品があるようにも感じられる。許諾の取りやすいゲームだけを収録し、限定生産で販売し、売り切ったら終了、というわけだ。ゲームファンの視点からすれば、発売されるだけでうれしいのも事実だが、復刻版ミニゲーム機のリリースが一巡し、ブームが去った後で、ゲームやゲーム文化に何も寄与しなかった、という結果にもなりかねない。

 こうした中で、頭一つ抜き出ているのがメガドライブミニだ。ファンの間では伝説となった、メガドライブ版「テトリス」と、本作のために新規開発された「ダライアス」を収録ソフトに盛り込んだ。商品の発売と前後して、企画担当者に対するインタビューや、ゲームソフトの開発秘話なども、数々のゲームメディアをにぎわせている。1990年代のセガファンが主人公のマンガ「異世界おじさん」とのタイアップなど、メディアの枠を越えた展開もみられる。

 もともとセガのゲーム機のファンは、ゲームファンの中でも強固な連帯感を持つことで知られている。これらのコミュニティがメガドライブミニの発売で再活性化した形だ。セガでも好調なセールスを受けて、「メガドライブミニ2」の発売を決定。10月の発売に向けて、さまざまなマーケティング施策が進められている。このように本シリーズでは、セガとセガファンとの興味深いコミュニケーションが見て取れる。

 もっとも、ここでいう「セガファン」とは、40~50代の往年のメガドライブユーザーだ。実際にはセガファンといっても一くくりにはできず、世代別・年代別にさまざまな層がいる。そうしたユーザー層をセグメント化し、限定されたターゲットに最適化された体験を、さまざまなメディアで届けようとする点で、興味深い事例になっている。消費者は商品だけでなく、商品に付随するさまざまな情報をあわせて消費していることを、良く示した展開だともいえる。

 自動車のプリウスは「燃費の良さ」ではなく、「環境に対する配慮」でヒット商品になった。このように商品には、企業が一般消費者に伝えたいメッセージを内包する器という側面がある。同様にメガドライブミニを、セガのセガファンに対するメッセージとして認識することも可能だろう。他の復刻版ミニゲーム機にも、それぞれのハードやゲームを楽しんだファンが存在するはずで、そうしたファンに対するメッセージを感じさせるものになることを期待している。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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