ちいかわ
第299話 拾魔(9)
12月5日(金)放送分
スタジオコロリドの長編劇場版アニメ「雨を告げる漂流団地」(石田祐康監督)が9月16日に公開されるほか、Netflixで配信される。「ペンギン・ハイウェイ」「泣きたい私は猫をかぶる」に続くスタジオコロリドの長編劇場版アニメ第3弾で、「ペンギン・ハイウェイ」の石田さんが監督を務める。少年少女を乗せた団地が大海原を漂流することになる……という斬新な設定のアニメで、石田監督は同作の制作に合わせて団地に引っ越したという。なぜ、団地なのか? 石田監督に聞いた。
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「雨を告げる漂流団地」の舞台となるのは、小学6年生の幼なじみの航祐と夏芽がかつて住んでいた団地だ。航祐と夏芽、同級生たちが団地に入り込むと、団地が大海原を漂流することになる。石田監督は「団地に憧れがあった」と語る。
「日本家屋の平屋育ちだったもので、団地に住んだことはありませんでした。大学に進んでから学生寮のアパートに住んでいたことはありましたが、大きな集合住宅に住んでみたことがなくて、憧れていました。立場が違えば逆だと思うのですが、僕の場合は団地に憧れていまして。結婚した後、実際に団地に住むことになったんです。団地を漂流させるという企画を考え、企画が進んでいた時、結婚をして、二人暮らしの最低限の広さの部屋に住んでいたのですが、いい団地を見つけまして。世間一般のイメージとして、古いのでは?とまず思われるのは分かりますし、奥さんも最初は、えっ!?となったのですが、リノベされてキレイな部屋があるんだよ! その時、住んでいた部屋よりも広くなるし、更新料とかいろいろなくなってお得だよ!と説得しました。ちなみに自分が特に気に入った団地は日本住宅公団、現URが提供する古い団地です」
なぜ、団地に憧れたのだろうか?
「最初は造形にひかれました。すてきなんですよね。シンプルな白い壁の建物。白壁は清潔ですし、今の時代にあってのこの素朴がいい。造形も極限までそぎ落としたミニマルなところがいいんです。素朴なものが好きなんですね。建物と建物の間隔に余白があって、緑もある。その空間がいいんです」
石田監督は実際に住んでしまうほど団地に思い入れがある。それにしても、団地が漂流する……というのは斬新なアイデアだ。
「団地を漂流させるというアイデアの前に、子供たちが漂流して冒険するストーリーを少し考えています。漂流する上で、『ガンダム』におけるホワイトベースのようなものはあるといいですよね。帰る場所、母艦のようなものがあるのは、ロマンがありますし。学校にしてもいいですし、東京タワーにするなどいろいろなアイデアがあったのですが、団地のビジュアルが好きですし、船っぽくもある。シンプルなデザインで、屋上は空母の甲板にも見える。最初に団地が大海原を航海するイメージボードを描き、企画の方向性が決まりました。そこからイメージを膨らませていきました」
冒険小説「十五少年漂流記」の時代から、少年少女が漂流しながら成長するというテーマは古今東西の名作で描かれてきた。
「確かに中学の頃、『十五少年漂流記』を最初の読書本にしたくらいですが、『ドラえもん』の劇場版の影響も大きいかもしれません。のび太たちが、異世界などいろいろなところを冒険し、成長する。オリジナル作品を考えていた時、小学生が集団で冒険する作品を作ってみたかったんです。異世界を旅するのもいいかもしれません。ただ、ある種のリアリティーがあれば、サバイバルの切実さを感じることができる。だから海原を漂流する構図に、団地を描きたい意思が合わさって、自然と出来上がっていきました」
半世紀以上前に建てられた団地には、そこに住んでいた人々の痕跡が残っていている。石田監督が「雨を告げる漂流団地」で気をつけたのは団地の描き方だ。
「案配が難しいところなんです。60年くらいたっている団地は、取り壊しになってしまうかもしれない。それなりに老朽化しています。その感じが出るように、描いてもらっているのですが、バランスを考えないといけませんでした。団地が誕生した時は、夢の住宅でした。1980年代くらいからは、老朽化や、画一的に見えるなど否定的な認識もありました。1990年代以降、実写のホラーの舞台として描かれることも増えました。2010年代以降から見直す動きが出てきて、若い世代が住み始めた。自分が住んでいる団地も半分以上が若い夫婦が住んでいます。1980、90年代前後のネガティブなイメージでは描きたくなかったんです。実際自分が楽しんでいるので。汚しを表現するにしても、廃虚みたいにはしたくなかった。あくまで住んでた人たちの生活、愛着を感じられる範囲で、汚しを描こうと」
石田監督は「郷愁に近いものもあり、そこを軸にしようとしたところもあります。ハッキリ語るものでもないですが、川を渡る話なんです。持ち物といいますか、染みついた思いを何とかしないといけない。それで渡る。僕自身、場所に対する思いが強かったこともあり、こういう作品になったのかもしれません」と思いを込めた。
少年少女の漂流の先に何が待っているのか? ぜひその目で確かめてほしい。
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2025年12月06日 04:00時点
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