小野憲史のゲーム時評:新たな“KGN”「ロケトーン」 可能性と求められるコンテンツ

ロケトーンの公式サイト
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 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回はゲーム業界に生まれた新たな“KGN”を紹介します。

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 ゲーム産業の発展には「KGNの法則」が見られる。「スペースインベーダー」や「ドラゴンクエスト」、近年では「ポケモン GO」などの大ヒット作であっても、一部のゲームファンから「こんなの(K)ゲームじゃ(G)ない(N)」と批判された。しかし、既存のゲームファンの外側にいる市場を開拓し、成長に寄与したのだ。その背景には絶え間ない技術革新がある。「ゲームの定義は一様ではない」というのは、多くの研究者の共通認識だろう。

 こうした中、新たな「KGN」を紹介したい。ソニーのスマートフォン向けアプリ「ロケトーン」だ。アプリを起動してコースを選択し、スマートフォンを片手に街を歩けば、そのスポットに即した音声や楽曲が配信され、イヤホンで楽しめる。美術館の音声ガイドの街歩き版と考えれば良いだろう。聖地巡礼などと相性が良く、時空を超えた恋愛ドラマが楽しめる「YOASOBI SOUND WALK『大正浪漫』」のように、本格的なストーリーが楽しめるものもある。

 もっとも、本サービスは「ゲーム」らしくない。プレーヤーができることは「歩くこと」だけで、スコアや選択肢といった競技性がないからだ。しかし、選択肢のないノベルゲームでも、今やゲームとして認知されている。ゲームか否かを決めるのは市場であって、研究者や評論家ではない。数年後には本作もまた、立派なゲームの範疇(はんちゅう)に含まれているだろう。

 こうした「街歩き支援アプリ」は、すでに多くの事例が存在する。ただし、本サービスならではの特徴として、家電のソニーがモノではなくコンテンツ・プラットフォーム・ビジネスを推し進めている点があげられる。そのためには動画投稿サイトのように、誰もがコンテンツを作って発信できる仕組みが必要になる。現在、同社ではそのための環境整備を進める一方で、大学や自治体等と連携し、コンテンツのプロデュースを進めている。

 11月に同社主催で実施された「ロケトーン・クリエイター・コンテスト2022」はその一つだ。「渋谷」の散策をテーマに一般ユーザーが企画を立てて応募し、上位10組がコンテンツを制作するもので、すべて無料で配信されている。グランプリを受賞した「水を感じる。川の息吹を聴く街歩き」は、渋谷川の暗渠(あんきょ)をテーマにしたもので、街を歩きながら、地下を流れる川の存在に思いがはせられる。まさに現地で音を楽しむ本サービスならではの内容だろう。

 産官学連携で開発されたコンテンツもある。東京・巣鴨の食べ歩きをナビゲートする『探偵だいふく丸!~しおちゃんを探せ~』と、江戸時代と現代の地図を重ね合わせながら散策する「時空街道_種苗の旅~進め!庚申塚・滝野川探検隊!」だ。観光庁が実施する「地域の観光資源の磨き上げを通じた域内連携促進に向けた実証事業」の採択事業で、大正大の学生がソニーの支援などを受けつつ制作した。観光DXのあり方が問われる中、同様の事例が増加すると考えられる。

 筆者が所属する東京国際工科専門職大でも、新宿中央公園を舞台としたコンテンツ制作実習に学生が取り組んでおり、すでに4作品がリリース済みだ。もっとも、どのようなコンテンツが求められるのか、いまだ手探りの状態が続いている。それだけに可能性のある分野だろう。作家の椎名誠はエッセーで、ウォークマンで音楽を聴きながら移動する体験を「映画的」と称した。ロケトーンによる街歩き体験が何をもたらすのか、学生とともに注目していきたい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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