2022年アニメシーン:劇場版アニメ大盛況の一年 一般化に貢献した劇場側の協力体制

盛り上がりの背景には、劇場側がアニメの興行に大きく力を入れたことによる相乗効果もあったのではないでしょうか。
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盛り上がりの背景には、劇場側がアニメの興行に大きく力を入れたことによる相乗効果もあったのではないでしょうか。

 2022年もさまざまな話題を提供したアニメ界。特に今年特徴的だったといえるのが数々の劇場版アニメの大ヒットだ。アニメコラムニストの小新井涼さんが独自の視点で分析する。

ウナギノボリ

 「SPY×FAMILY」や「チェンソーマン」「リコリス・リコイル」「機動戦士ガンダム 水星の魔女」と、人気原作モノからオリジナルまで、2022年も数々の話題作が登場しました。しかし、今年のアニメシーンを振り返る上で忘れてはならないのは、なんといっても劇場版アニメの盛り上がりです。

 次から次へとヒット作が登場してきた今年は、アニメだけでなく、邦画史上全体でみても類をみない、劇場版アニメ大盛況の一年でした。それがいかに異例なものであったのか、主要作品と共に振り返ってみます。

 何より特筆すべきは、今年に入って興収100億円を突破した「劇場版 呪術廻戦 0」をはじめ、未だ興収記録を伸ばし続ける「ONE PIECE FILM RED」や「すずめの戸締まり」など、大台の興収100億円以上を記録する作品が次々と生まれてきたことです。また、興収97.4億円突破でシリーズ最高記録を更新した劇場版「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」や、早くも興収50億円を突破した「THE FIRST SLAM DUNK」など、興収10億円突破がヒットのひとつの目安とされる邦画界において、間違いなく大ヒットといえる作品が複数あったことも忘れてはなりません。

 近年は特に劇場版アニメのヒットが続いていたのもあり麻痺してしまいがちですが、そもそも2010年代までは、邦画全体でみても興収100億円突破作品は“2年に1度あれば多い方”でした。それが2020年公開の劇場版「鬼滅の刃 無限列車編」以降、2021年の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」に続き、興収100億円突破作品が3年連続で登場しているだけでも、既に十分異例の事態です。

 それに加えて今年は、その興収100億円突破作品がなんと年内だけで3本も登場し、さらに興収50億円以上の大ヒット作も複数登場してきました。これはまさに邦画史上類をみない、劇場版アニメ大盛況の一年であったといって間違いないでしょう。

 こうした盛り上がりの背景には、近年生じたアニメの更なる一般化や、劇場側がアニメの興行に大きく力を入れたことによる相乗効果もあったのではないでしょうか。

 ご存じの通り、これまでにも興収100億円を突破する劇場版アニメは多々ありましたが、それは特定のスタジオや監督による作品に限られてもいました。それが上記2020年以降は、そのラインナップをみても分かるように、ジャンプ系作品がやや多いながらも、スタジオや監督も違う、バラエティに富んだタイトルが、興収100億円圏内に続々と入ってくるようになってきているのです。

 これも近年アニメがますます一般化してきたことで、アニメをあまり鑑賞しなかった層が劇場に足を運び、なおかつそうした人達の選択肢が、これまで鑑賞したことのなかったジャンルの作品にまで広がったことが、何より大きいと思います。

 また、近年そうした流れを受けて、劇場側もアニメの興行にますます力を入れてきているようです。

 例えば、今年実施された「ONE PIECE FILM RED」の無発声応援上映をはじめとするバラエティに富んだ特別上映や、「25周年ポケモン映画祭」や「ハロウィンの花嫁」の“ハロウィン再会上映”といった全国規模のリバイバル上映の実施、「THE FIRST SLAM DUNK」における公開約1カ月前からの座席指定券販売などからも、そのことがうかがえます。こうした取り組みは、アニメ以外の作品も上映しなければならない映画館側の理解や協力がなければ、まず実施は難しかったと考えられるからです。

 作品の素晴らしさは大前提として、宣伝や口コミももちろん大事ですが、テレビや配信と違い、劇場版アニメに関しては、スクリーンと上映回数がいかに確保されるかで、興行成績も大きく変わってきます。異例の好成績を収める作品が次々と誕生してきた背景には、近年の劇場版アニメの訴求力を認識した劇場側が、こうして興行に力を入れてきたこともあったに違いありません。

 こうして、邦画史上類をみない劇場版アニメの大盛況をみせた2022年ですが、この盛り上がりは、ともすると今年だけでは終わらない可能性も秘めていると思います。上記の通り、ここ数年で人々の鑑賞作品の多様化や劇場側の協力体制という“土壌”が醸成され、そこに加えて今年一年の勢いが“追い風”となっている今、今後公開される作品でも、従来以上の盛り上がりが生まれることがあるかもしれないからです。

 現に来年にも、先日発表されたばかりの「SPY×FAMILY」の劇場版や、宮崎駿監督最新作の「君たちはどう生きるか」といった注目作の上映が既に控えています。

 2022年の締めくくりとしての振り返りではありますが、今年のアニメシーンを代表するこの劇場版アニメの盛り上がりは、来年以降も目が離せない、年をまたいでの大きなムーブメントにもなり得るのかもしれません。

 こあらい・りょう=KDエンタテインメント所属、北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約10年前から継続しつつ、学術的な観点からもアニメについて考察・研究し、大学や専門学校の教壇にも立つ。アニメコラムの連載をする傍ら、番組コメンテーターやアニメ情報の監修で番組制作にも参加している。

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