超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。昨年12月に公表された文部科学省の調査報告書で、学習困難児童が増加した一因としてゲームやインターネット、スマホの影響も可能性として指摘されたことについて語ります。
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文部科学省が昨年12月に公表した調査報告書「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」が波紋を呼んでいる。本調査は発達障害“的”な問題があり、特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態調査を目的としたもので、平成24(2012)年度にも実施されている。調査自体は科学的見地から実施されたものだが、文中で「増加の理由を特定することは困難であるが」と断りつつ、下記のような記述が見られる。
「子供たちの生活習慣や取り巻く環境の変化により、普段から一日1時間以上テレビゲームをする児童生徒数の割合が増加傾向にあることや新聞を読んでいる児童生徒数の割合が減少傾向にあることなど言葉や文字に触れる機会が減少していること、インターネットやスマートフォンが身近になったことなど対面での会話が減少傾向にあることや体験活動の減少などの影響も可能性として考えられる」
この一節からは、ゲームを遊ぶこと、新聞を読まないこと、インターネットやスマートフォンを使用することが、発達障害“的”な児童生徒の増加に影響を及ぼしているように読める。これに対して日本行動嗜癖(しへき)・依存症学会は、科学的エビデンスに基づかない記述であり、削除または訂正を求めるとホームページで主張している。どちらの主張が正しいか、それぞれの内容を精読した上で、個々で考える材料が提供されたといえるだろう。
そのうえで本稿では、こうしたテレビゲームやインターネットに関する記述が平成24(2012)年度版では存在せず、今回の調査報告書で新たに盛り込まれた点に注目したい。キーワードは「子供たちの生活習慣や取り巻く環境の変化」で、そこには社会のデジタル化の進展があげられる。GIGAスクール構想に伴う一人一台の端末普及や、プログラミング教育は好例だ。子どもたちをとりまく過去10年間における最大の変化は、学習環境だと言い換えられる。
こうした変化に直面しているのが現場の教員だ。教育のデジタル化の趣旨に即せば、学校と家庭をシームレスにつないだ学習環境の整備が望ましい。一方でタブレット端末等の家庭への持ち帰りや、具体的なルール作りは、学校や保護者に任されている。そのため、一部の保護者からは「子供が家で動画ばかり見ている」「ゲームばかりしている」など、批判の声が聞かれる。筆者もプログラミング教育で「ゲーム作りは禁止」とする学校の例を聞いたことがある。いずれも、端末や設備をうまく活用できていない例のように感じられる。
さらに、近年では幼稚園や保育園におけるタブレット端末等の導入事例が進みつつある。コロナ禍の一斉休校下では、一部の施設でオンライン会議システムを用いた遠隔保育等の試みもみられた。こうした中、保護者からスマートフォンやタブレットの活用法について、幼稚園教諭や保育士に相談が寄せられる事例が増えている。かつての「読み書きそろばん」が「読み書きIT」に変わりつつある中、保護者の関心が高まっているのも道理だろう。こうした疑問に対して、幼稚園教諭や保育士がどのような姿勢を示していくかが、新たな課題になりつつある。
行動経済学の研究によると、人間はポジティブな情報よりネガティブな情報に注意を払うことが知られている。VUCA(先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態の意味)時代を迎える中、本事例をはじめ、親が子供だった頃の知見が役立たない状況が、ますます増加することが予測される。タブレット端末等の普及に対して慎重になる姿勢も必要だが、過度に変化を恐れていないか、子供たちの立場に立って考えることも必要ではないだろうか。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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