椎名桔平:人間を掘り下げる作品との出合いは「俳優人生の幸せ」 「連続ドラマW 事件」

「連続ドラマW 事件」で主演を務める俳優の椎名桔平さん
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「連続ドラマW 事件」で主演を務める俳優の椎名桔平さん

 8月にWOWOWで放送・配信される「連続ドラマW 事件」で、主演を務める俳優の椎名桔平さん。大岡昇平の裁判小説「事件」が原作で、舞台を昭和から令和に移し、裁判員裁判制度での心理戦を描写する。元裁判官の弁護士・菊地大三郎を演じる椎名さんに、役作りや本作の魅力、役者としての思いなどを聞いた。

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 ◇名作の現代版へのアレンジに興味

 ドラマは、ある裁判をきっかけに過去にとらわれ、“真実”から目を背けた元裁判官の弁護士の菊地(椎名さん)が、殺人容疑をかけられた19歳の青年の弁護をする。取り調べから一転、法廷で殺意を否認した青年のことを調べるにつれ、意外な事実が次々と露見する……というストーリーだ。

 本作への出演オファーに、椎名さんは「自分が体験していない世界観」「どう令和のリアルな話にするのか」という点に興味が湧いたと明かす。

 「法廷ドラマは経験がない。新しい、今までに自分が体験していない世界観に魅力を感じました。それと原作が名作と言われる小説で、舞台となる時代が半世紀以上前なので、裁判員裁判や少年法の改正など、どうやって令和のリアルな話にするのだろうかと思った。脚本をいただくと、そういった要素に正面から向き合い、しっかりした人間ドラマになっていた」

 役作りのため、椎名さんは知人の弁護士に話を聞いたほか裁判を傍聴。裁判官への面談も試みた。「警察官はこういう感じのように勝手なイメージを持ちがちだけど、裁判官も弁護士も『みんな同じ人間』という思いにさせてもらった」と気づき、「自分たちとは違うといった先入観をなくせ、法律の勉強や裁判経験をへて穏やかな話し方や人を諭しやすい言葉を選ぶようになったこともわかった。ベースを把握した上でどう演じるか模索した」と振り返る。

 自身が演じる菊地の印象について「あまり特別な人という感じがしない。スーパーマン的な活躍を期待していたわけではないけど(笑い)」と話し、「法律家の中で希有(けう)で潔癖な人物ではあるけど、法廷以外では普通の人。個性が強く出てもいけないし、見るからに絶対勝つではなく負けるかも……と思わせるぐらいの案配が必要だった」と語る。

 法廷がリアルに再現されているが、椎名さんは「本物以上に本物的。実際に見てもらいたかった」と完成度に驚き、「よりリアルな気持ちにさせてくれた。どこからどう撮っても法廷のセットは“本物”で、重厚感あふれるところに身を置いて芝居ができたのは大きい。空間やセットの持つ力を役者の皆さんが吸収して、より表現に厚みが増していた」と自信を見せる。

 ◇骨太な社会派作品「あえて希望」

 数多くの作品に出演している椎名さんだが、WOWOWのドラマや舞台などでは、本作のような骨太な社会派作品で主演を務める機会も多く見受けられる。そう椎名さんに水を向けると、「WOWOWさんや舞台では、あえてそういう作品を期待しています」と応じた。

 「エンターテインメント作品において、いろんな役を演じることが自分の仕事だと思っている。ただ時折、自分が人間を掘り下げる作業がしたい気持ちが湧いてきて、WOWOWさんでも舞台でも人間を深く描いた作品を選んでいる。俳優人生の中でそういった機会に恵まれるのは幸せ」

 本作には、1978年の映画版で殺人容疑をかけられた上田宏を演じた永島敏行さんが、裁判長・谷本一夫役で出演。椎名さんは、「あえてその話をすることはなく、個人個人が永島さんに対する思いはあった」と口にする。

 「当時は永島さんが一番若手の役で、今回は一番ベテランというか裁判長を演じられている。菊地は裁判官として教えを請うた相手でもあり、裁判中にどういう関係性を見せていくかという。(永島さんとの演技で)そういうものもわかってもらえるキャッチボールもできたと思う。裁判長という型をはずせない役どころを真摯に演じている姿を見て、さすがだなと思いました」

 最後に見どころを聞くと、椎名さんは「ここまでリアルな裁判ドラマを僕は見たことがない。ほとんどの視聴者の皆さんが裁判所や法廷にはご縁のない方たちだと思います。自分が見聞きできない世界をこれだけリアルに人間賛歌の物語としてまとめているドラマは、かつてないのではと思います」とアピールしていた。

 8月13日から日曜午後10時にWOWOWプライム・WOWOW4K・WOWOWオンデマンドで放送・配信。全4話で第1話は無料放送される。(取材・文・撮影:遠藤政樹)

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