神谷明&伊倉一恵:「シティーハンター」は「奇跡的な作品」 新作劇場版でよりパワーアップ 冴羽リョウは集大成

「劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)」に出演する伊倉一恵さん(左)と神谷明さん
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「劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)」に出演する伊倉一恵さん(左)と神谷明さん

 北条司さんの人気マンガ「シティーハンター」の新作劇場版アニメ「劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)」(こだま兼嗣総監督)が9月8日に公開された。約20年ぶりの新作アニメとして2019年に公開され、大ヒットした「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」から約4年、新作劇場版アニメは、冴羽リョウの“最後の戦い”を描く最終章に突入する。1987年に放送をスタートしたテレビアニメシリーズから主人公・冴羽リョウと槇村香のコンビを演じてきた神谷明さん、伊倉一恵さんに新作に懸ける思い、見どころを聞いた。

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 ◇「新宿プライベート・アイズ」は不安も 想像以上の反響に驚き

 --約20年ぶりのアニメ「シティーハンター」の復活となった「新宿プライベート・アイズ」は、観客動員数100万人を超える大ヒットを記録しました。大ヒットを受けて感じることは?

 神谷さん 当時は、皆さんに受け入れてもらえるかどうかすごく不安でした。だから、皆さんからたくさんの喜びの声をいただいて、ほっとしました。なおかつ、動員も100万人を突破したものですから、「こうなったらいいな」と僕たちが思っている以上の反響でした。

 伊倉さん 本当にうれしかったです。当時、「シティーハンター」の新作に対しては諦めの気持ちもあったんです。アニメ30周年の時には何もなくて、もうシティーハンターは過去の作品になっちゃったのかなって。

 神谷さん 実はそういう思いがあったよね。30周年で何かやるのかなって。

 伊倉さん それが中途半端な(テレビアニメ放送開始から)32年でやることになって(笑い)。もちろんうれしかったんですけど、私自身は「大丈夫なのか?」「32年前に放送された作品だよ」という不安もあったんです。公開されてみたら、何度も見てくれる人もいて「えっ!」と驚きました。ファンの方の中には「『シティーハンター』は何度でも見たいんです」と言ってくれる人もいて。しかも、長いこと上映してもらって幸せだなと思いました。

 --「新宿プライベート・アイズ」が公開されて4年後、新作劇場版アニメが公開されることになりました。新作の制作を聞いた際の率直な感想は?

 神谷さん すごくうれしかったです。来たか!という。「新宿プライベート・アイズ」の時には今回の話は全くなくて、これが当たらなければ次はないぞ、という気持ちでいたんです。もうこの年になりますと、年々いろいろ落ちていくものですから、早い方がいいとは思っていたのですが、よく考えると、4年っていうのはいい間だったかなと思いました。

 伊倉さん 新作の話を聞いた時は、「シティーハンター」は本当に運を持っているなと思いました。それこそ、コロナ禍が収まり始めて、みんなが動き出したタイミングで、劇場版を公開することになって。

 神谷さん そういう意味でも、今回もついているなっていうね。

 ◇豪華ゲスト声優と“最新”の「シティーハンター」を作れる幸せ

 --新作劇場版は、冴羽リョウの最後の戦いを描く最終章へ突入します。冴羽リョウのパートナーだった槇村秀幸を死に追いやった「エンジェルダスト」をタイトルに冠し、リョウの育ての親である海原神が登場することも話題になっています。シナリオを読んだ感想は?

 神谷さん ストーリーは、言うまでもなく面白かった。ただ、そのシナリオでは、たくさんのアクションシーンが文字で描写されているわけです。すごい分量なんです。「これ、絵にできるの?」なんて思いもあったのですが、実際に収録の時に資料映像を見せていただいたら「ちゃんとできている! すごい!」と思って。作画の皆さんがものすごく努力されたんだと感じました。それと、ゲストの方の演技がすごく要求されるなと。

 --新作劇場版は、ゲストキャラクターとして依頼人の女性・アンジーが登場し、声優の沢城みゆきさんが演じます。

 伊倉さん 面白いドラマになっているんですけれども、大変だなっていうのがやっぱりゲストなんですよね。アンジーは、謎めいたキャラクターで、柔らかいところからハードなところまで表現していかなくちゃいけなくて。

 神谷さん なおかつ、アンジーは若いんですよ。リョウちゃんは大人として見ていろいろなことやっているけど、アンジーは若い部分もあるし、すごく大人の部分もある。いや、大変な役だよね。

 伊倉さん 本を読んだ時から、アンジー役は誰がやるんだろう?とずっと気になっていたんです。すると、沢城みゆきちゃんに決まったと聞いて、「みゆきちゃんだったら、成功間違いなし!」と思って。私は、みゆきちゃんと演じて勉強させてもらえると思うぐらい尊敬しているので、ありがたいというか。うれしい、共演できるんだわ!とルンルンしていました。

 --新作のイベントでは、沢城さん自身もお二人と一緒に収録することを熱望していたと語っていました。収録の様子は?

 伊倉さん 私は、うれしくて興奮状態でした。

 神谷さん 沢城みゆきちゃんは、非常にロジカルに役を捉えて、演じているというのが、一緒にやってみて分かりました。きちんとしたお芝居を作ってこられた方だから、演出とも話をしつつ、ちゃんと答えを出していく。大変な役を「よくやっている!」と。

 伊倉さん みゆきちゃんだからできたなっていう感じはしますね。

 神谷さん 僕らも最初は理詰めでやっていたんだけど、だんだんと感覚的に役を捉えられるようになって、もう“リョウと香”なんですよ。だから、理屈なく作品の中に入っていくことができるんです。そういう意味では、沢城みゆきちゃんも、(同じくゲスト声優の)関智一くんも、木村昴くんも、海原神役の堀内賢雄さんも、上手に入ってきてくれて、いい芝居してくれたな。

 伊倉さん もうさすが!という感じですね。収録が楽しかったです。

 神谷さん 沢城みゆきちゃん、関くん、木村くんは「シティーハンター」をテレビで見ていた世代だったから、出演をすごく喜んでくれて。

 伊倉さん ちいち(関さん)なんて、神谷さんにサインをもらっていましたから(笑い)。

 神谷さん 今をときめく皆さんと、最新のシティーハンターを作れて、幸せだったな。

 ◇「Get Wild」に「泣きそうに」 オリジナルキャストは4年前よりパワーアップ!

 --新作では、音楽ユニット「TM NETWORK」の「Get Wild」がエンディングテーマ、新曲「Whatever Comes」がオープニングテーマとなっています。

 神谷さん TM NETWORKの音楽がもうすごくて! 収録前に見せてもらった資料映像に音楽が入っていたんですけど、今回はオープニングテーマも書き下ろしだし、最後に「Get Wild」が流れて、もう泣きそうになりました。本当にいい曲ですよね。クライマックスに流れる音楽もずるい! 小室(哲哉)さん、どんだけ泣かせるんだよ!という感じで。だから今回は、ストーリー、絵、音楽、そして僕たちの声と、全てにおいて本当にいいものがそろったので、ぜひ劇場に足を運んで味わってほしいなと思いますね。ただ、これだけ自信を持っているんですけど、やっぱり一抹の不安はあるよね。

 伊倉さん そうなんですよ。みんながあんなにいいものを作っているのに、「自分は大丈夫なのか?」「足を引っ張っていない?」みたいな不安があるんですよね。

 神谷さん 実際は大丈夫なんですよ。

 伊倉さん いやいや(苦笑い)。

 --前作に続き、新作でも、神谷さん、伊倉さん、野上冴子役の一龍斎春水(麻上洋子)さん、海坊主役の玄田哲章さん、美樹役の小山茉美さんというオリジナルキャストが集結します。

 神谷さん レギュラー声優陣も、前作から4年という月日が流れているわけじゃないですか。だから、大丈夫かな?と思うところもあったんですけど、前回よりも皆さんがパワーアップしていたんです。伊倉さんも、香そのものでした。

 伊倉さん 私はロジカルさは1個もないですけどね。大抵山勘でやっていますから。

 神谷さん いえいえ、僕は一番感動しましたね。

 ◇冴羽リョウは集大成 槇村香と出会って「覚悟が決まった」

 --テレビアニメシリーズがスタートした1987年から冴羽リョウ、槇村香を演じてこられたお二人にとって「シティーハンター」はどんな存在になっていますか。

 神谷さん 「シティーハンター」の冴羽リョウ役のオーディションの話をいただいた時に、もちろん原作は読んでいたんですけれど、すごくうれしくて。それと同時に「この役をやりたい」「この役は僕にしかできない」と。そう思ったのは、過去にも現在にも「シティーハンター」だけです。それまで「うる星やつら」の面堂終太郎ぐらいから少し三枚目の役をやらせてもらって、「キン肉マン」で三枚目をやり、「北斗の拳」で渋い二枚目をやり、冴羽リョウは集大成のような役だと思ったんですね。それよりも前であれば、多分、頭の中で創造はできても演技力が伴わなくてできなかったと思うんです。そのタイミングで「やりたい!」と思った役に就かせていただけた。僕の役者としての集大成のような役、作品だと思っていましたね。

 --その思いは今も変わらず?

 神谷さん そう、変わっていませんね。冴羽リョウは理想的な男性キャラだと思います。格好良くて、強くて、優しくて、面白くて、ちょっぴりスケベ……。シリアスからギャグまで振れ幅の大きいキャラクターですね。ですから、演技も、「もう超えてしまえ!」と思いっ切り両極端でやったら全部受け入れてくれて。そんな懐の深くて大きなキャラクターを生んでくださった北条司さんに大感謝ですね。

 伊倉さん 私は「シティーハンター」に出演する前は、声優の仕事もぼちぼちやり始めていたんですけど、小劇場で舞台ばかりやっていて、食べられない役者だったんです。それが「シティーハンター」のオーディションに受かって、覚悟が決まった。声の仕事をしばらく一生懸命やっていこうと。一つ、大きな香という役をもらって、役者として何とか生きていけるかもなと思えた作品ですね。しかも、この香という役が、私にはすごくぴったりだった。技もない、それこそ舞台ばっかりやっていた小娘が、声の仕事をやっていくにあたって、香という役は、私のままでやることができる普通の元気でパワフルな女の子だったんです。

 --当時の収録の様子は?

 伊倉さん すごいスターの人たちが集まった中に、新人が1人入っていくみたいな感じでした。せりふも多くない役を今までやってきたのが、たくさんのシーンで中心に立たなくてはいけなくなって。最初の1、2回は、出番がなかったので、ディレクターさんが一言二言せりふがあるチョイ役をつけてくださって、スタジオの雰囲気に慣れていけるようにしてくださいましたね。

 神谷さん 毎回終わると、飲み会があって、それも楽しかったです。別に作品の話をするわけではないんですけれど、当時のプロデューサーの諏訪道彦さんがチームを作るために、あえてそういうふうにやってくれていたんですよね。早々にチームが出来上がって。後は……毎回作品が面白かった。毎回ゲストが違うぜいたくな作品でした。

 伊倉さん 毎回美女でね(笑い)。

 神谷さん いわゆる「いい女」の役をやっている声優さんは、ほとんどゲストとして来たんじゃないかというぐらいで。

 --新作でオリジナルキャストの方々が集まった際も、当時の雰囲気に戻るような?

 伊倉さん そうですね。

 神谷さん 集まると「元気でよかったね」って。みんな、そういう年齢にもなっていますので。ただ、もうこういう作品はないですよね。レギュラー全員が現役で頑張っているという。そういう意味でも、奇跡的な作品ですよね。改めて、ファンの方に支えられて40年近くやってくることができたことが何よりもうれしい。つまり、作品が現役なわけですよ。それがうれしい。だからこそ、今回も素晴らしい作品ができた。「シティーハンター」を知らない人にも見ていただきたいなと思います。

 --新作のタイトルにもなっている「エンジェルダスト」は、原作でも重要なキーワードです。このワードが登場する時点で、ラストが近いのか……とも感じます。

 神谷さん 新作のビジュアルに「The Final Chapter Begins.」と書いてあるんですよ。続きがあるとしたらとてもうれしいんだけど、もう4年たつと、俺、80歳超えるんだよ。だけど、その年齢で野沢(雅子)さんは「ドラゴンボール」をやっているよなと。

 伊倉さん 野沢さんは、夜中でも平気であの声が出るって言っていましたよ。

 神谷さん だから、俺は年のことは言えないんだよ。そういう素晴らしい先輩がいるからね。

 伊倉さん いい目標になりますね。元気でいなきゃって。

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