火の鳥:「望郷編」 令和の時代になぜ初アニメ化? STUDIO4℃が込めた「強く生きていく」メッセージ

「火の鳥 エデンの花」の一場面(c)Beyond C.
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「火の鳥 エデンの花」の一場面(c)Beyond C.

 手塚治虫のマンガ「火の鳥」の「望郷編」が原作の劇場版アニメ「火の鳥 エデンの花」が11月3日に公開される。「火の鳥」はこれまで数々の映像作品が制作されてきたが、「望郷編」がアニメ化されるのは初めて。「ムタフカズ -MUTAFUKAZ-」などの西見祥示郎さんが監督を務め、「鉄コン筋クリート」「海獣の子供」などのSTUDIO4℃が制作する。STUDIO4℃の代表取締役の田中栄子プロデューサーに、令和の時代にアニメ化する狙い、アニメに込めた思いを聞いた。

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 ◇制作期間7年 細部を作り込む

 「火の鳥」は、不死鳥である火の鳥を追い求める人々を描いたマンガ。アニメは、主人公・ロミとそのパートナー・ジョージが終末を迎えつつあった地球を離れ、新たな生活を始めるべく惑星エデン17に向かう……というストーリー。惑星エデン17の生命は既に絶滅しており、ロミは生き延びるための苦労を強いられることになる。

 原作マンガ「火の鳥」には全12巻のエピソードがあり、その中でも「望郷編」は刺激の強いエピソードだ。田中プロデューサーは「『望郷編』は難しいんですよ」と語る。

 「これまでアニメになっていないのは、それだけ表現が難しい内容が含まれているということだと思います。ただ、地球に対する人間の愚かな行いに警鐘を鳴らしていますし、今の時代にメッセージがぴったり合っている作品でもあります。『復活編』『宇宙編』『未来編』『望郷編』と未来を描いた作品をシリーズ化することも考えたのですが、『望郷編』はメッセージ性が強く、まだアニメ化されていないこともあり、挑戦しました」

 制作期間は約7年にもおよんだ。神は細部に宿る……と作り込んだ。

 「構成とシナリオ、絵コンテに時間を掛けています。エデンはどんな移民星なのか、なぜ滅んだのか。未来の地球はデブリに覆われ、極度に温暖化して地上にはゴミ焼却炉や排気炉にあふれて、地下に都市が建設されて高速道路が走っている……美術監督の木村(真二)さんがしっかりSF空間を設計してくれています。アニメはウソなので、ウソを信じられるように描かないといけません。実際具体的に描いていないところまでも色々考えれているんですよ。アニメは共同作業でもあるので、そうやって未知の世界観を創造して共有しなければなりません。」

 ◇“天才”西見祥示郎監督 楽しんで描く

 西見さんが監督を務めることがこの企画の前提だった。西見監督は「鉄コン筋クリート」でキャラクターデザイン、総作画監督などを手掛けたことでも知られている。

 「『望郷編』は冒険譚でもあります。西見監督はアーティスティックで、画力のある人です。さらに、アクションの人で、動き、表情の表現、カメラのアングルの切り取り方がすごくうまい。素晴らしい映像になるはず……と『望郷編』とのマッチングを考えました」

 西見監督は、「映像研には手を出すな!」「犬王」などで知られる湯浅政明監督と高校の同級生だという。二人をよく知る田中プロデューサーは「湯浅監督は西見監督のことを『天性で描けちゃう天才』と言っています。西見監督は、湯浅監督のことを『何でもできる天才』と言っていますし、二人共、やっぱり天才ですね」と話す。

 西見監督ならではの表現が随所に見られるという。

 「ロミとジョージがエデン17に到着し、二人がワルツを踊り、『ねえ、宇宙服、脱がない?』と言うシーンがあります。到着した喜びを表現しているのですが、最初は、踊るの?とびっくりしました。ほかにも監督がいろいろなところで楽しんで描いているところが分かるんですよね。また風車が回るシーンにも驚きました。ロミが新しい命を宿した時、子供の頃に遊んでいた風車が一カットインサートされる。風車で地球への望郷を表現し、その思いを伏線として積み重ねています。ドラマツルギーがしっかりしていて、丁寧に作られています。それに風車の動きは、ふわっと動いて懐かしいイメージを呼び起こしていると思いませんか?」

 ◇絶望的でも前向きに 消費されない作品を

 アニメは、原作とは展開が異なるところもある。展開が変わっても作品の芯となる部分がブレているわけではない。原作に込められたメッセージがストレートに伝わってくる。

 「原作マンガ『望郷編』にはいくつものストーリーがあります。どれも絶望的ではあるのですが、アニメではエンターテインメントとして前向きに生きていく力を感じる作品にしたかった。人間はすごく弱い生命体かもしれませんが、何があっても強く生きていく。そこをしっかり描きたいと思いました」

 「火の鳥」に込められたメッセージは普遍的だ。時代が変わっても古びることはない。むしろ、今の時代だからこそ胸に刺さるものもある。

 「宮崎駿監督がすごい作品を作っているので、隅っこで、ほかがやらないことをやろう……やりたいことをやろうとSTUDIO4℃を始めたのですが、消費されない作品を作ろうという気持ちは最初からありました。決して諦めずに、強く、信じて生きていく。これまでSTUDIO4℃が作ってきた作品にはそういうものが多いんです。STUDIO4℃としては、そこをしっかり描きたい。もちろんいろいろな作風があるのですが、時代に翻弄(ほんろう)されない、普遍的な価値を持ったエンターテイメントを作ろうとしています。」

 STUDIO4℃は、火の鳥のように永遠に残っていくアニメを世に送り出してきた。「火の鳥 エデンの花」に込められたメッセージは、現代だけでなく、未来にも届くはずだ。

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