超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回も、小野さんの「ゲーム批評」時代の思い出を語ってもらいます。
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モノの本によると売れている雑誌は、目立つ特集記事で新規読者を開拓し、連載記事で読者を定着させるという。このうち連載記事は一度人気が出れば、編集側があまり関与しなくても、ある程度ページが埋まる算段がつき、連載をまとめて単行本化できるメリットがあるので、雑誌編集の要の一つでもある(作家が遅筆だと、それはそれで苦労するのだが)。「ゲーム批評」でも連載開拓に力を入れ、結果的に二つの流れが生まれた。
第一のグループは人気ゲームクリエーターによる連載だ。初代プレイステーションの登場でゲームの作家主義的な性質が強まり、ゲームの作り手によるコラム連載が増えた。もう一つは業界人の裏話的な連載だ。インターネットが普及するまで、こうした情報は雑誌が一手に担っていた。雑誌の「雑」は雑多の「雑」であるとして、さまざまな切り口の連載をそろえることが求められた。
このうち、前者の代表が急逝したゲームクリエーター、飯野賢治氏の「エビスからの手紙」だったとしたら、後者の代表はがっぷ獅子丸氏の「悪趣味ゲーム紀行」だっただろう。打ち合わせで「縁日の暗がりで怪しげな商品を並べて子どもに売りつけている、古びた屋台のような内容にしたい」と言われた時、意味がさっぱりわからなかった。しかし、原稿がFAXで送られてきて、一気に腹落ちした。それだけ内容が面白かったのだ。
コンセプトはB級映画ならぬB級ゲームを紹介するというもので、初回のテーマは「暴れん坊天狗」(メルダック、1990年)だった。ファミコン晩期のゲームで、邪悪な生命体からアメリカを守るため、巨大な天狗のお面を操って、敵を倒していく横スクロールシューティングゲームだ。当時からカルト的な人気を博しており、本連載で再注目された。そこにはゲーム内容もさることながら、独特の文体や語り口の妙が大きかった。
「このゲームは『奇ゲー』のパイオニアと呼ぶにふさわしい、これはもう日本が生んだゲームのひとつの頂点です。(中略)自機の攻撃方法なんか、ショットが目玉で対地が唾液です。シチュエーションがこれだけ異常だと、ここまで物凄いインパクトになるのでしょうか。(中略)音楽のセンスもかなり変ですが、天狗に虐殺されるザコ敵の亡者の『ギャー』という断末魔の叫びがやけに良く出来ているのがこのゲームの特徴を表していると思います」(Wikipedia、「暴れん坊天狗」より)。
ただ、本連載は編集者泣かせでもあった。内容をワープロで箇条書きに羅列していき、それをつなげて、そのまま送稿してくる執筆スタイルで、文が異常に長かった。時には文章全体で段落がほぼ存在しないこともあった。いわゆる「悪文」の代表のような内容だったが、だからこそ魅力的だった。原文のおもしろさをそこなわずに、いかに読みやすく編集するかがポイントで、よく校正者から「日本語がおかしい」と指摘を受けた。
その後、本連載が単行本化されたのを前後に、いわゆる「クソゲー、バカゲー」ブームが起きた。ホームページやブログの勃興期で、雨後の竹の子のようにフォロアーが生まれた。そうした中で本連載が光っていたのは、「GON!」「TV Bros.」などのサブカル系雑誌のテイストを持ちつつ、ゲーム開発者ならではの知見や、ゲームに対する愛情が見え隠れしている点だっただろう。週末を利用して台湾取材に同行いただいたのも良い思い出だ。
また、「がっぷ獅子丸」というペンネームから、「がっぷちゃん」「獅子丸先生」というキャラクターが生まれた。ページ数を稼ぐための苦肉の策として、掛け合い漫才のような業界記事を書いてもらったところ、さらに人気が増したのだ。さいとーあゆみ氏が描くイラストも、キャラクターの魅力を十二分に引き出した。自分が編集長になってからは、読者コーナーの執筆を担当してもらうなど、さまざまな形でお世話になった。
振り返れば創刊当時、「ゲーム批評」のゲームに対する評価軸は「おもしろい」「つまらない」だけだった。しかし、本連載を契機に「愛おしい」という評価時が加わった。「バカゲーを愛でる文化」の誕生と言っても良いだろう。こうしたゲームの紹介スタイルは現在も、形を変えてYoutuberなどに影響を与えている。あらためて高い影響力を持った連載だったように思う。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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