アウトレイジ ビヨンド:北野監督と三浦友和に聞く 「ヤクザの世界は政治の世界と同じ」

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 10年にヒットした北野武監督の「アウトレイジ」の続編「アウトレイジ ビヨンド」が、6日から公開される。北野監督にとって「BROTHER」(01年)、「座頭市」(03年)以来、久しぶりのバイオレンス映画で、続編では前作で死んだと思われていた大友が実は生きていた……という意表をついた設定で幕を開ける。大友も巻き込んで、ヤクザ社会の熾烈(しれつ)な下克上がさらに激化し、関東と関西のヤクザの闘争に警察組織も加わった、前作を超えるパワーゲームが繰り広げられる。脚本・主演も務めた北野監督と、関東の巨大ヤクザ組織「山王会」のドン・加藤を演じた三浦友和さんに話を聞いた。(毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 「アウトレイジ ビヨンド」は、「アウトレイジ」から5年後が舞台。先代亡き後、会長が交代して新体制となり、関東の頂点を極めた暴力団「山王会」はついに政治の世界にまで手を伸ばしはじめた。巨大ヤクザ組織の撲滅を企てる警察組織は、その勢力拡大に業を煮やし、関西最大の暴力団「花菱会」との対立を仕掛けることで相殺をもくろむ。そこで、利用されたのは“死んだはずの男・大友”。やがて、各人のだましや裏切りの火種がくすぶりはじめ、巨大抗争へと発展していく……という内容だ。前作からは、大友役のビートたけしさん(北野監督)や、三浦さん、加瀬亮さん、中野英雄さん、小日向文世さんが引き続き出演し、新たに西田敏行さん、高橋克典さん、桐谷健太さんらが加わった。

 ◇1年の空白がストーリーに厚みを加えた

 前作の「アウトレイジ」が10年6月に公開すると、オープニング2日で10万人を動員する好スタートを切り、わずか2カ月後の9月には続編の製作を発表。北野監督にとっては初の続編だが、実はその構想は、前作を撮影している段階からあったという。「撮影の後半によくスタッフと話してたんだけど、この映画が当たると、次は“2”ってなるだろうなって。だったら、大友が生きていて、こうなって、こうなって……ってすぐにネタができた」と北野監督がその舞台裏を明かす。

 しかし、クランクイン間近に東日本大震災が起こり、製作はいったん延期に。結局、1年後に撮影が再開されたが、その待機期間を北野監督は「結果的によかった」と振り返る。「台本を1年かけてかなりひねったから。混乱したり、『あー、そういうことだったのか』って、観客に考えさせる場面もできて。大まかなストーリーは変わってないけど、せりふを増やしたり、出演者の描き方を変えたり。それから、もう1回ストーリーを見直して、シーンの入れ替えをやったりなんかして。あっという間に1年が過ぎちゃったよ」と語る。

 満を持して封切られる「アウトレイジ ビヨンド」は、北野映画にとっては史上最大規模・全国200スクリーン以上での公開が決定している。日本に先駆けて上映した「第69回ベネチア国際映画祭」では、「やたら受けた」と北野監督もご満悦で、日本でも「当たるだろう。次の作品くらいは撮れるだろうという手応えはある」と自信をのぞかせる。実際、「アウトレイジ」シリーズは「自分が撮りたい映画というよりも、観客のことを考えて作った」と北野監督が語るように、意図的に見る側の視点に立って“分かりやすく楽しめる”ことを念頭に製作したという。

 「今のテレビを見てると、お笑い番組でもフキダシ(テロップ)を出して。あれは耳の不自由な人のためなのかと思ってたけど、そうじゃなくて、普通の人がそれを見て笑ってるという妙な状態で。そこまで丁寧に見せないとダメなんだよね。自分の映画は『映像で想像してくれ』っていうのが多かったんだけど、そういう客の想像力に頼るようなワガママな撮り方はちょっとマズイんだなって。だから、『お前、殺すぞ』とかちゃんと言ってるの。エンターテインメントとしては、これぐらい丁寧に撮ってやらないと一方的になりすぎるのかなって。だから、反応はいいっていえばいいよね。でも、これが原因なのかは分かんないよ」

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 ◇生死をかけた真剣勝負が「爽快」

 「アウトレイジ」同様、「アウトレイジ ビヨンド」でも、主役級の豪華俳優が集結した。シリーズを通して出演している三浦さんは、キャストが口をそろえていう北野組の独特の緊張感を、「監督を含めてディスカッションって一切ないんですね。現場に入る前も。監督は望んでいることを何もおっしゃらないので、われわれ俳優陣は探って探ってそこに進んで行くっていう緊張感ですよね。それが一番、他の現場とは違うところですかね」と語る。撮影中は、終始「不安のままだった」と苦笑し、「でも、監督がオーケーを出してるんだから、きっとオーケーなんだろうなって思って。で、出来上がり見ると、あーやっぱりオーケーなんだなっていう感じがありますね」と安堵(あんど)の表情を見せる。

 今作で三浦さんは、前作の若頭から出世し、関東ヤクザ界の雄「山王会」の会長に上り詰めた男・加藤を演じている。続編の話を聞いたときは、「キツいなと思いましたね。会長まで上がったら、あとは落ちるに決まってるじゃないですか。その上はないですからね(笑い)」と三浦さんは冗談めかして話し、穏やかで紳士的な三浦さんのイメージとは真逆の“悪い男”を演じることについては「爽快感があった」と明かす。

 「この作品は、出演者全員、一人一人の背景がない。女房、子供もいるかいないか分からないし。何も背負ってないので、邪魔だからって相手を殺(あや)めても罪の意識が何もなくて。普段、自分の中にしまいこんでいるであろうドロドロした部分を発散できるという意味では、面白かったもしれないね」

 “生きるか死ぬか”の男の世界にのみ焦点を当てた、究極のバイオレンス映画。その点について、北野監督も同シリーズを「人情も何もない。兄弟分が傘さして『兄弟行こうか』ってシーンもないし、それに泣いて追いすがる女も出てこないし」と話し、これまでのいわゆる任侠ものとは一線を画す「新しい時代のヤクザ映画を作りたかった」と話す。

 また、今作は人間ドラマも大きな魅力。「これはヤクザの世界に限った話でもないよ。社会で成り上がった若手が部長あたりになっちゃって、社長が会長を追い出したとか。古参の連中が若手の専務にイライラしてるとか。そういうのはよくあるじゃん。政治家だったら一番面白いかもしれないな」と北野監督が話すと、三浦さんも「僕も一番イメージしたのは政治家でしたね。首相が入ってくる前に、みんな待ってるじゃないですか。立ち上がって、首相が座ったらみんな座る。図式がね、ヤクザの世界と同じだと思いました。SPがついてるし、黒塗りの車でやってくるし。みんなで争ってるし。殺さないだけで。だから、ああいう人たちの表情を見ながら『あー、こういう普通の顔してた方がいいんだ』って」と独自の役作りを明かした。

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 ◇究極の緊張の中で悪魔的な笑いが生まれる

 「アウトレイジ ビヨンド」で描かれる世界は、いわば戦国時代。油断すると寝首をかかれる、誰が敵か味方か分からない……息つくひまのない緊迫した真剣勝負がクライマックスまで展開する。しかし、一方で北野監督は「自分はお笑いの出身なんで、本当にやりたいのはシリアスな映画を撮りながら、パロディー版を同時に撮りたいっていうのがあって」と意外なアイデアも口にする。

 「有名な話のパロディー版はけっこうあるけど、知らない映画のパロディーはパロディーになってない。だから、1時間のパロディーの基になる『アウトレイジ ビヨンド』を流して、それと同じ設定で同じ役者で大ボケかますっていうのがいいなって(笑い)。そういうことばっかり考えてるから、同じ作品でいろんなパターンが作れるよね。シリーズ48くらいまで。『アウトレイジ48』って(笑い)。センターは、じゃんけん大会で決めようって。勝ったやつはセンターで見れるっていう、それだけなんだけどね(笑い)」

 たけし節がさく裂したところで、同映画で図らずも偶然生まれた笑えるシーンにも言及する。「クリスタルの灰皿で頭をたたくシーンがあるんだけど、“コンッ”って非常に薄っぺらい情けない音が出て、笑っちゃって。でも、たたかれる方は緊張してるし、たたいてる方もまじめにやってるんだよね。それなのに、笑えるっていう感じは好きだね。別に笑わせたいとは思ってないけど、お笑いっていうのは悪魔的だよね。緊張した場面で、意外に笑ってしまう。結婚式や葬式とか、笑っちゃいけない場面なのに、悪魔のように誰かがミスするんだよね。すべったり、オナラしちゃったり。それと同じで、映画も緊張してるときに必ず『あれー』って笑っちゃうようなことになるから。それを怒る監督もいるけど、俺はそのまま流してる。だって、しょうがないだろ。笑ったっていいんだよ」と持論を展開する。

 十八番である「久びさのやくざ映画なんで、それは当たることが絶対条件」と今作を自信作と語る北野監督だが、「でも、いつまでもかつ丼ばっかり作ってられねーっていうのもあるし、たまにはフレンチとかさ、流しそうめんもって。今の時代で俺は、あえてヤクザ映画をやりたいだけであって、これをずっと続けるわけではないし。『武は、男と女の恋愛は一切撮れない』みたいなことをよく言われるんだけど、今度やってみようかなって思うし。今、作戦練ってるんだけど(笑い)」と尽きることのない創作意欲で、さらなる展開も視野に入れていた。

 映画「アウトレイジ ビヨンド」は6日から全国で公開。

 <北野武監督プロフィル>

 1947年、東京都出身。ビートたけしの芸名で、73年に漫才コンビ「ツービート」を結成。80年代の漫才ブームとともに毒舌漫才で爆発的な人気を獲得。同時に俳優としても活躍し、89年には「その男、凶暴につき」で本名の北野武名義で監督デビュー。以降、「ソナチネ」(93年)、「キッズ・リターン」(96年)などの作品を世に送り出し、97年の「HANA−BI」では第54回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したほか、国内外で多くの映画賞を受賞。その後、時代劇に初挑戦した03年の「座頭市」でも、第60回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した。10年の「アウトレイジ」をへて、最新作「アウトレイジ ビヨンド」が6日に公開される。

 <三浦友和さんプロフィル>

 1952年、山梨県出身。71年、TBSのドラマ「シークレット部隊」で俳優デビュー。70年代、ドラマや映画に多数出演し、若手ナンバーワン俳優として一世を風靡(ふうび)する。映画デビュー作となった「伊豆の踊子」(74年)で、第18回ブルーリボン賞新人賞を受賞。以降、「台風クラブ」(85年)で第10回報知映画賞助演男優賞、「あ、春」(98年)「M/OTHER」(99年)で第24回報知映画賞主演男優賞、「沈まぬ太陽」(09年)で第33回日本アカデミー賞助演男優賞優秀賞を受賞するなど、着実にキャリアを積み上げ、現在では、演技派俳優としての地位を確立。最近は、11年に「RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ」で主演し、12年3月には「おかえり、はやぶさ」が公開。13年1月26日に、「ストロベリーナイト」の公開を控えている。

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