青年海外協力隊をテーマにした映画「クロスロード」(すずきじゅんいち監督)が28日に公開された。青年海外協力隊に参加した若者たちが、その活動を通じて成長していく姿を描く今作では、ダンス&ボーカルグループ「EXILE」の黒木啓司さんが主人公の沢田樹役で初主演を果たした。協力隊に参加し、ボランティア活動に懐疑的な沢田と対立する羽村和也を演じる俳優の渡辺大さんに話を聞いた。
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今作に出演するまでは青年海外協力隊について、「正直あまりよく知らなかったですし、居酒屋などでよく見かけるポスターぐらいしか見たことがなかった」と渡辺さんは笑顔で語る。出演にあたって協力隊のことを知っていく中で、「(隊員は)やることが決まっているのかなと思っていた」そうだが、「面接をして希望の場所と自分のやりたいことを伝え、すずき監督のように映像を撮るために行く人もいれば、野球や柔道を教える人、羽村のように村落開発する人など、赴任先も活動内容もいろんな選択肢があることにびっくりした」という。
実際、協力隊に参加した人たちとコミュニケーションをとった渡辺さんは、「女性の方で、娘が2歳ぐらいだけど実家に預けて行きますという人もいて、すごい人がいるなと思った」と衝撃を受けたエピソードを明かし、「(協力隊に参加するという)その一歩を踏み込む人たちはやっぱり特別な感じがする」と神妙な面持ちで語る。
続けて、「海外に行っていろんな大変な思いをされるというのもありますが、2年間というのは結構大事な時間だと思う」と切り出し、「日常を捨てるというわけではないですが、いったん日常を日本に預けて行くわけで、その度胸がある人というのはなかなかすごいし、中には会社辞めてきましたという人もいて……」と協力隊に参加する人たちの強い思いを感じた。
渡辺さんが演じる羽村も会社を辞めて協力隊に参加するという役どころだが、「そういう時期があってもいいのかな、という選択肢としてはありだとは思いますが、いざ自分がやれるかというと非常に悩みます。2年間を空けるということは結構大きいこと」と神妙に語る。そして「僕らも今回2週間近くいましたが、慣れない国で2週間ほどいるだけでも大変。僕は病院にかかったけれど、国によって医療システムも違うし、交通事情も違えば食べ物も文化も違う」と説明し、「そういったすべて違うところでやっていく中で、2年間という年月は結構果てしない年月だし、大変だと思う」と実感を込める。
羽村は一見するとボランティア精神にあふれ真面目な人物だが、頑固で融通が利かないという印象も受ける。「(羽村は)完璧な人間ではないので、なにかしら自分の使命みたいなものを持とう、なにかしら持っていなければいけないというようなところがあり、ちょっと弱さとまではいわないものの、(使命みたいなものを)持たないとやっていけないところがある」と人物像を分析し、「だからこそ自由気ままに人と触れ合える沢田に対して、うらやましさもあったのでは」と羽村の心情を思いやる。
ボランティアは偽善といい切る沢田とは何かと対立する羽村だが、「みんなそれぞれ理想論を抱えて生きているけれど、結局はボランティアやJICA(国際協力機構)の存在とは何かというのをみんな考えている」といい、「正解は一つではなくいろんな方法あって、最終的にやってきたことの意味みたいなもの“ゴール”にたどり着けばいいと思うし、それに対してのコースはみんな全然違うのでは」と沢田に理解を示す。
フィリピンが舞台ということもあり、英語のせりふも多かったが渡辺さんは、「日常会話はまだ入りやすかったけれど、養殖に関するものなど普段使わない単語もあったりしたので結構ギリギリまで覚えていました」と振り返る。さらに、「台本が横書き(英語版)と縦書き(日本語版)の2パターンがあってそれぞれ違うし、監督もそんなに簡単には(カットを)割って(撮影して)くれないので、行きの飛行機でもずっと(英語のせりふを)CDで聞いて、撮影中もギリギリまで聞いていました」と笑顔で語る。
劇中で羽村が提案するドジョウの養殖は、2012年から実際に協力隊員の指導で実施されている。「実際にやっている方が今もいらっしゃるので、そこにあるアンプルや機材といったものは全部、ドジョウも含めて実際のものをお借りして撮影しました」と明かし、「第二次世界大戦中に(日本人が現地に)持ってきたというのもありますが、まさかあんなところで(ドジョウを)見るとは思わなかった」と笑顔で語る。
フィリピンでのロケ撮影は、2000年の歴史を誇り世界遺産にも登録されている棚田でも行われた。「2日ぐらい台風が来ちゃいましたが、僕が行ったマヨヤオというところは景色がすごくきれい」といい、「道路も完全に舗装されているわけではないですが、人の手が加えられていないのが、かえってよさだったりもする」と絶賛する。続けて、「棚田の上まで行って撮影をしたのですが、普通に歩くだけでも大変なのに、全部人力で、機材を運んだりと20~30分歩いて上まで行き、小一時間ほど撮ってまた20~30分かけて帰ってくるという、大変な感じはありました」と苦労を語るも表情に充実感をにじませる。
映画には多くの現地キャストが登場するが、「カウンターパートの人や村長は向こうの役者さんですが、それ以外の人たちは地元のボランティア、エキストラさんにお手伝いしていただいきました」と明かし、「(現地の人たちは)気にしないで自然に生きている人たちだから、緊張している人たちもいましたが、結構みんなナチュラルにやっているなと」と感じたという。
協力隊員としての赴任先が違うため共演シーンはそれほど多くはないが、共演した黒木さんについて、「黒木さんは役の中で生きていて、フィリピンにいる間もカメラをずっと撮っていたりとかもしていたので、すごく熱心にやられているなと思った」と感心し、「僕も黒木さんも結構(人と)触れ合ったりするのが好きなので、お互いいろんな場所に行って触れ合いながらやっていました」と笑顔で語る。そして「だから(黒木さんが)沢田というのはよかったのでは。僕は真面目にしなきゃいけなかったけど(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに話す。
青年海外協力隊を扱った映画ということもあり、「第一印象だと教養・教育系のイメージになってしまうのかもしれない」といいつつも、「今回はきれいな話ばかりではなくて、結構生々しく切り取っている部分もあり、人間の根底にあるものというのをすごくえぐっているところがある」と映画のテイストを説明。続けて、「そういうものはすごく現実に近いものもあるのではと思うし、その国が抱えているいろいろな問題もあったりして、その中で人って……と思いながらみんなが完全に生きていないところが教養や教育っぽい作品ではない」と力を込める。
しかし、「別に今作を見たからといって海外に行きたいと思わせるよりは、人ってなんだろうと思ってもらえたほうが、僕としてはいいのではないかと」と持論を語り、「人間は国が違っても、いろんな考え方や生き方があって、そこでみんな悩んで生きている姿を見てもらいたい。その延長線上で、海外に行ってみようとか青年海外協力隊に参加してみようとなるのでは」と真剣な表情で語る。
渡辺さん自身は仕事でもプライベートでも海外によく行くといい、「海外も日本国内もそうですが、自分が行ったことないところに行くのがすごく好き」と旅行の魅力を語り、「とにかくいろんなところへ行き、いろんなものを見て、見るまで死ねないというのがある(笑い)」と冗談を交えながら説明する。さらに、「ドキュメンタリーの撮影で同行してくれるスタッフさんたちが何カ国も行っていたりすると、その人たちの話を聞くだけでワクワクするし、冒険みたいなことをするのがすごく好き」と目を輝かせる。
今作の見どころについて、「相当な時間をかけてフィリピンまで行き、さらにマニラから車で十数時間かけて世界遺産を撮りにも行ってきたという自負があるので、フィリピンをいい意味でも悪い意味でも感じてほしい」と渡辺さん。続けて、「最近海外に行く人が減ってきてるという話もあって、今は簡単に情報が取れるし、なかなか海外に行く機会もないと思っている人もいるかもしれない」と現状を踏まえつつも、「人間として得るものが多いと思うので、(映画は)映像だけれども少しでも感じていただき、とにかく行ってみる楽しさに触れるきっかけになってもらえたらと思う」と力を込める。自身が演じる羽村については、「沢田との対立も羽村は少しずつ心境が変わっていくので、人間が変わっていくさまを見てもらえたらと思います」とメッセージを送った。映画は全国で公開中。
<プロフィル>
1984年8月1日生まれ、東京都出身。2001年にスペシャルドラマ「壬生義士伝~新撰組で一番強かった男~」(テレビ東京)で俳優デビュー。03年に「ぷりてぃ・ウーマン」で映画デビューし、08年公開の「ラストゲーム 最後の早慶戦」で映画初主演を果たす。主な出演作に、「彼岸島」(10年)、「ロストクライム-閃光-」(10年)、「相棒-劇場版3-巨大密室! 特命係 絶海の孤島へ」(14年)、「るろうに剣心 京都大火編」(14年)などがある。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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