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ルックバック:haruka nakamuraインタビュー 音楽に込めた思い 最初のインスピレーションを大切に

「ルックバック」の一場面(c)藤本タツキ/集英社(c)2024「ルックバック」製作委員会

 「チェンソーマン」などで知られる藤本タツキさんのマンガが原作の劇場版アニメ「ルックバック」(押山清高監督)のドルビーシネマ、ドルビーアトモス版が9月13日から上映されている。ドルビーシネマ、ドルビーアトモスによる立体的なサウンドによって、作品への没入感がさらに増した。美しく繊細な音楽を手掛けたのが、haruka nakamuraさんだ。原作者の藤本さんが、nakamuraさんの音楽を聴きながら同作を描いていたことをきっかけに、アニメの音楽を依頼されたという。nakamuraさんに同作への思い、音楽制作の裏側を聞いた。

 ◇映像を見ながら即興的にピアノを弾いた

 ーー原作を読んだ印象は? クリエーターとして共感するところもあった?

 創作に向かう時間、机にひたすら向かう主人公たちのように、押山清高監督も、原作の藤本タツキ先生も、そして僕も、創作者の背中は多くの孤独の時間と向き合っていると思います。人生においても別れや喪失、さまざまな暗闇のトンネルを経て、それでもわずかな光を探し、また希望へと進んでいく。押山監督も藤本先生も僕も東北出身、北国育ちなこともあり、永い冬の孤独な時間を創作に向き合ってきた、深く共通する感覚は多かったように思います。映画の公開を終えて3人で話した時も、この「北国の冬の時間」の話になりました。それは例えば雪が降ると音が消えていく沈黙、静寂の時間だったり。まるで永遠に冬が続くかのように思えてしまう、遠い春を待つ情景だったり。

 ーー押山監督から要望は?

 押山監督からは、「せりふや言葉で説明しないシーンが多い作品なので、音楽で感情や情景を表現してほしい」というリクエストをいただきました。僕も原作に感動した読者の一人として、できるだけ純度の高い、最初にマンガを読んだ時にアタマの中で鳴っていた音楽、また押山監督が創り出す映像を見た時のインスピレーションを大切に作りました。監督のリクエストの中で特に興味深かったのは藤野が描いた4コママンガのシーン。「小学校の音楽室にある楽器だけで作ってみてください」と。小学生が描いた4コママンガなので、小学生が思いつきそうな慣れ親しんだ楽器で、と。懐かしい記憶をたどり、ピアニカ、リコーダーやアコーディオン、木琴などの音色で作りました。わりとそのような楽器を普段の音楽でも元々使用していたので、楽しく作りました。それから、冒頭のイントロダクションは原作にはない映画ならではのシーンだったので、押山監督のイメージする空から藤野の背中まで降りてくる、流れるような映像を説明していただき、共有して制作しました。

 ーー以前、「譜面も読めない」とも発言されていました。今回はどのように音楽を制作したのでしょうか?

 はい。譜面はお恥ずかしながら、とても不得意でして。小学校卒業までは母がピアノ講師としてレッスンしてくれていたので、もちろん時間をかければ読めるには読めるのですが……(笑)。初見でスラスラ弾いてしまうなんて憧れますね。なにせ子供の頃から、譜面をざっくりと捉えて、耳で聴いた感じで勝手に解釈して弾いてしまうような困った生徒だったようで。そして12歳から20代中盤まではギターに夢中になって全くピアノを触っていなかったのも影響してるのかも知れません。ギターは自主的に熱中して練習したので、ギターのコード譜やTAB(タブ)譜は別ですが。即興的に弾くスタイルは子供の頃から変わっていなくて。湧き上がる純粋な、喜びの粒子のようなものがある音が好きなんです。なので今作においても、まず映像を見ながら即興的にピアノを弾きました。最初のインスピレーションを大切に。ですから、譜面に書きながら音楽を作ることはありませんし、生まれた音楽をその場で譜面に残すこともなくて。子供でも弾けるかもと思えるような日常的な、素直なものを弾きたいなと思っています。自分にもすぐ弾けるんじゃないか?という親しみを思ってほしいのです。弾きたくなってほしいなというか。

 ーー主題歌「Light song」を歌うuraraさんの歌の魅力をどのように感じていますか?

 uraraはもともと聖歌隊にいた女の子でした。会った時、彼女はまだ小学生で。その頃から僕の音楽ではメインボーカルとして歌ってくれていて。その頃に歌ってくれていたのは、音楽を「祈り」と捉え、歌詞のない讃美歌のような、暗闇から光へと向かう希望への曲。代表作としては「光」「カーテンコール」などがあります。今作の主題歌のコンセプトと通ずる曲を10年ほど前から共に作ってきていました。そして今回は主題歌も劇伴の一部のように、ひとつなぎの世界観であることを大切にしようと。uraraは普段、音楽活動をしていません。聖歌隊にいた幼い頃から変わらず、天から降ってくるように美しく透き通った、とても純粋な歌声を持っています。 今作は具体的な歌詞はありません。監督からの意向と僕も同意見であえてつけてないのですが、uraraが歌っている言葉は僕が仮歌デモでレコーディングした、なんとなくメロディーと共に降りてきた言葉で歌っていたもの。それを彼女が耳で聞こえた発音をノートに書き写して歌ってくれました。今回、urara自身も「ルックバック」の愛読者だったことで、レコーディング前から物語が深く彼女の心情に入っていたことも嬉しいご縁でした。

 ◇Nujabesさんの大きな影響 「ルックバック」の2人の物語とも共感

 ーー完成した映像の印象は?

 先ほどお話したように、音楽制作段階ではまだ同時進行中でしたので、完成してきた押山監督のアニメーションは、想像を遥かに超えてくるもので圧倒されました。監督のお話を伺っても本当に細部の深いところまで掘り下げて作られていて、そして最後の最後まで描かれていて。その机に向かう背中の熱量はすさまじいもので、映画チームの皆にポジティブなエネルギー、影響を与えていたように思います。個人的にもアニメーションは昔から好きで、今作も映像と自分の音楽との親和性のようなものを強く感じました。昔から、いつかアニメーションの音楽を制作してみたいなと楽しみにしていたのですが、その最初の作品が押山監督、藤本タツキ先生との作品となり光栄ですし、この映画に携われて、とてもありがたい気持ちです。

 ーードルビーシネマ、ドルビーアトモスの上映でサウンドを聴いた感想は?

 アトモス用のレコーディング・スタジオで初めて聴いた時は、聖歌隊のコーラスが天から降り注いでくるような新しい感覚で驚きました。左右前後だけではなく、天井からコーラスがシャワーのように心地よく降ってきました。仕上げてくれたエンジニアの葛西敏彦さんや、勝田友也さんのアイディアに感謝します。また、葛西さんも青森出身の同郷で、これまでも僕らはチーム青森として、いくつかの作品を共にしてきたことが、今作の北国の情景をより深めてくれていたのかも知れません。

 ーーNujabesさんと共同での楽曲制作していましたが、Nujabesさんの影響をどのように受けているのでしょうか?

 今でも世界的にリスナーが多く、多くの人に聴かれ続けているNujabesさんは、僕が音楽を初めてネット公開した時にすぐにメールをくれた時からの師であり、共に音楽を制作していた友であり、恩人です。そして一緒にアルバムを制作している途中に交通事故で亡くなってしまいました。今回の「ルックバック」の2人の物語とも共感する部分はとても多くて。創作の道を歩んだ2人の喪失と光は、自分にとっても道のりを振り返るような時間にもなりましたし、そういう意味でも、改めて「光」という言葉は、自分の音楽の永遠のテーマなのだなと感じています。音楽的な影響より大切なのは、Nujabesさんとの時間が「もうひとつの時間」として僕の中にずっと在り続けているという感覚ですね。

 「ルックバック」は、集英社のマンガアプリ「少年ジャンプ+(プラス)」で2021年7月に発表され、初日で250万以上の閲覧数を記録した話題作で、マンガへのひたむきな思いが二人の少女をつなげるが、やがて大きな出来事により二人の運命が分かれていく……というストーリー。若手俳優として注目を集める河合優実さん、吉田美月喜さんがW(ダブル)主演で、声優に初挑戦したことも話題になっている。6月28日に119館で公開され、公開初週の興行収入ランキングで1位を記録。大規模の上映ではないにもかかわらず、口コミで火がつき、公開3週目には興行収入が10億円を突破するなど大ヒットを記録している。

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