2009年に34歳で亡くなったSF作家の伊藤計劃(けいかく)さんの小説をアニメ化するプロジェクト「Project Itoh」。「屍者の帝国」が10月に公開され、現在は「ハーモニー」が公開されている。同プロジェクトを手がけたのが、フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」で“編集長”を務めてきた山本幸治プロデューサーだ。山本プロデューサーは14年9月にフジテレビを退職後、自身が代表取締役を務める企画プロダクション「ツインエンジン」を設立し、劇場版アニメの製作を本格化させた。アニメ業界でその名を知らない人はいないとも言われる山本プロデューサーに、独立の理由や「Project Itoh」への思いを聞いた。
ウナギノボリ
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ノイタミナは、05年4月に設立されたフジテレビの深夜アニメ枠で「Animation(アニメーション)」の逆さ読みから名付けられた。山本プロデューサーは同枠のについて「一般の人にいかに見ていただきながら、アニメファンに存在価値を持ってもらうことが挑戦のポイントと考えていた。キー局の枠ということで、一般性も考えていた」と説明する。
ノイタミナは「ハチミツとクローバー」「のだめカンタービレ」「銀の匙 Silver Spoon」など話題のマンガをアニメ化してきたほか、オリジナルアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「PSYCHO-PASS サイコパス」などはアニメファンの支持を集めながら、普段アニメを見ない層にも人気を集めてきた。山本プロデューサーが「一般に寄りすぎると、見やすいが、アニメファンが見ない作品もある。それに、サブカル寄りにしすぎないようにと考えていた」と話すように、絶妙なバランス感覚で作品を送り出し、幅広い層に受け入れられてきた。
アニメ業界では確固たる地位を確立しているノイタミナだが、フジテレビのようなキー局における深夜アニメ枠の立ち位置について、山本プロデューサーは「テレビ局は深夜の番組をゴールデンタイムのための苗床と考えていて、実験をしている。また、広告事業を考えるとバラエティー番組を放送する方がいいでしょうね」とも話す。しかし、山本プロデューサーの「ノイタミナは社内では聖域にしていた。無くなったら二度と立ち上がらない。これをやめると未来が閉じるという思いで続けていた」という強い思いもあって、ノイタミナは10年以上にもわたって続いてきた。
強い思いでノイタミナの“編集長”を務めてきたが、昨年9月にフジテレビを退職。山本プロデューサーはその理由を「テレビアニメの行き詰まりを感じているわけではない。拡大戦略の中で、映画に挑戦しようと考えた。(トレンドになっている)“萌え”に混じるよりも映画でやっていくことを考えていた。映画をやるためには、必ずしもフジの局員でいる必要はない。自己決定力を上げるために独立した」と説明する。
山本プロデューサーが設立したツインエンジンは、ノイタミナの劇場版アニメのプロジェクトである「Project Itoh」を手がけており、フジテレビから独立したものの、ノイタミナの仕事を引き続き手がけている。ただし、ツインエンジンはフジテレビの子会社というわけではない。
山本プロデューサーは14年9月というタイミングで独立した経緯を「2000年にフジテレビに入社したのですが、その際の目標設定として10年でプロデューサーになって、その後10年で独立したいと考えていたんですよ。ある程度はやれるかな? と思っていた時期。一番売れているものに勝とうという意識はそんなにないのですが、安定した作品を作るノウハウもたまってきた」とも話す。
ノイタミナの“元編集長”が手がける劇場版アニメとして注目を集めているのが「Project Itoh」だ。山本プロデューサーは伊藤さんの作品に着目した理由を「ノイタミナでいくつか方向性がある中で、テーマ性を持ち、オーラで勝負する作品を作ることを考えていた。伊藤さんの小説は、厭世(えんせい)観や絶望感を前面に出しながら、希望を欲しがっている。ただ、簡単には希望が語れない。そこが時代性だと感じた」と語る。
「Project Itoh」では「屍者の帝国」が10月に公開され、「ハーモニー」が公開中だが、11月に公開予定だった「虐殺器官」はアニメ制作会社「マングローブ」の経営破綻に伴う製作体制の見直しのため、公開が延期された。「虐殺器官」は、16年の完成を目指して製作されており、山本プロデューサーが代表取締役を務める新スタジオ「ジェノスタジオ」が製作を引き継いだ。ツインエンジン、ジェノスタジオでの山本プロデューサーの今後の挑戦も注目される。
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