超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、話題の「ポケモンGO」から見た任天堂について語ります。
ウナギノボリ
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「ポケモンGO」特需で一時的に急騰(きゅうとう)し、7月19日に3万円を超えた任天堂株。現在は2万1000円前後で推移している。2007年11月2日に記録した最高値の約7万円には遠く及ばないが、改めて任天堂の地力を内外に示した。
もっとも「ポケモンGO」の開発主体はグーグルの社内ベンチャーだった米ナイアンテック社で、ポケモンのIP(知的所有権)を有しているのもポケモン社だ。任天堂はポケモン社の筆頭株主だが、間接的に「ポケモンGO」の開発・運営に携わっているにすぎない。いわば任天堂は今回、他社が作ったゲームソフトで恩恵を受けたわけだ。
実は、こうした現象は任天堂の歴史でたびたび見られる。初代「ポケットモンスター」を開発したのは開発会社のゲームフリークだ。家庭用ゲーム機「ニンテンドウ64」で最もヒットした「ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ」を開発したのもハル研究所で、ともに任天堂ブランドで発売された。ハル研に至っては故・岩田聡さんという経営者まで送り出した。
他にもさまざまな開発会社が任天堂の屋台骨を支える大ヒットソフトを供給している。その背景にあるのが単なるビジネスにとどまらない、任天堂に対するリスペクトであり、人と人との結び付きだ。
しかし、老舗の看板も磨き続けなければ輝きを失う。そのためには求心力のある新時代のリーダーが必要だ。2015年9月に代表取締役社長となった君島達己さんは任天堂アメリカの社長も務めたベテランだが、後継者育成が急務であることは誰よりも理解しているだろう。理想をいえば、2017年3月に発売予定とされる次世代ゲーム機「NX(仮称)」の発表がタイミングとしては望ましい。
振り返れば、任天堂の経営者に岩田さんが抜擢(ばってき)されたのは、当時縦割り組織化が進んでいた任天堂で、多くのプロジェクトに外部のエンジニアとして関係し、高い実績を上げていたからだ。そのため社長に就任後、社内にどのような人材や技術がいて、どのように組み合わせれば新しい価値を生み出せるか、すぐに判断できた。私欲を抑えて他人のために働く誠実な人柄も後押しをした。
君島さんの後継者も、岩田さんと同じような資質を備えていることが望ましい。特にスピード感が求められる今日のゲームビジネスでは、社内外を問わず多くの「点と点」をつなぎあわせることが必要で、その一つが「ポケモンGO」だった。新しいゲーム機と共に新しいリーダーの登場に期待したい。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長をへて2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。11年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、12年に特定非営利活動(NPO)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。
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