伊藤英明:三池崇史監督と「テラフォーマーズ」を語る 「盛り上がって見られる映画ができた」

映画「テラフォーマーズ」について語った三池崇史監督(左)と伊藤英明さん
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映画「テラフォーマーズ」について語った三池崇史監督(左)と伊藤英明さん

 貴家悠さん作、橘賢一さん画の人気マンガを基に実写化した映画「テラフォーマーズ」(三池崇史監督)が4月29日に公開された。西暦2599年の火星を舞台に“ある生物”が異常進化を遂げた“テラフォーマー”と、昆虫の能力を持った15人の日本人の壮絶な戦いを描く。また、映像配信サービス「dTV」では、伊藤さん、武井咲さんら映画の出演者のほか、林遣都さんや菅谷哲也さんらオリジナルキャストも登場するオリジナルドラマ「テラフォーマーズ/新たなる希望」が配信中だ。主人公の小町小吉を演じる俳優の伊藤英明さんとメガホンをとった三池監督に話を聞いた。

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 ◇原作の発想に「わくわくした」

 累計発行部数が1600万部を突破するなど人気を集めている原作の印象を、伊藤さんは「なんて面白いアイデアのマンガなのだろう」と初めて読んだときに感じ、「火星に行ってテラフォーマーを倒す、それも人間に昆虫の能力を植えつけて戦うというのはすごい話だなと。僕も子供の頃に昆虫が好きでしたが、当時の感覚に戻ったようなわくわくした感じを覚えました」と感想を語る。

 三池監督は今作のオファーを受ける前から原作を読んでいたといい、「20代の若手俳優たちが敏感に反応している原作なので読んでみたら、役者が求めるものというのがよく分かる」と切り出し、「役者は普通であることを否定しているというか、それから見ると、彼らが今、演じている役とは違う強烈な個性が数多く出てきて本音でぶつかっている。だから(役者たちが)求めるのだろうなと」と分析する。

 そして「見る人を驚かせる表現や、窮屈さを打破するようなパワーを感じさせ、特に原作の1巻はいいな、これは楽しいな」と三池監督が話すと、伊藤さんも「とにかく1巻がすごく面白い」と同意する。「こんな表現ができるなんて、マンガはやっぱりいいよなと。それが世間にきちんと認められていて、その力があって僕らが映画にできたということ」と三池監督は原作に敬意を表す。

 ◇伊藤の起用理由は「やんちゃだから!?」

 衝撃を受けたという原作の実写化作品に自身が出演することについて、伊藤さんは「原作ファンが喜ぶものが作れると思ったし、真っ先に子供たちがわくわくして、ドキドキして見てもらえる映画になると思ったし、作りたかった」と決意を明かし、「小さい頃から戦隊ものなどを見てきて、メンバー全員がトップクラスの俳優で作ったらどうなるだろうとずっと考えていたので、今回はそれに近いものになったかな」と笑顔を見せる。

 伊藤さんを起用した理由を、三池監督は「原作の小吉はもっと若くてやんちゃですが、500年後の世界が舞台なので若さにはこだわる必要はないと思い、いろいろ仕事をしてきている中で一番やんちゃな役者は誰だと考えたとき、全員が伊藤英明だという答えになりました(笑い)」と説明すると、隣で思わず伊藤さんも笑った。

 さらに、三池監督は「そもそもそこありきで、設定に合う合わないは背格好だけじゃなくて。ただ問題は(伊藤さんが)受けてくれるかどうかでしたが、ダメもとで聞くだけ聞いてもらおうと思ったし、聞くだけなら電話代くらいしかかからないから、と聞いてみました」と冗談交じりに語る。笑顔で聞いていた伊藤さんは「監督に声をかけていただけるのは、飛び上がるぐらい、いつもうれしいです」と言ってうなずく。

 喜ぶ一方で、伊藤さんは「年齢もあるし、原作とは違う設定もある。それにアイスランドでのロケやCGなど、僕で大丈夫なのかなという不安はあった」と当時の心境を打ち明け、「でも40歳でこの役がもらえるなんてすごくうれしいし、現状に満足しておらず、もっといろいろな芝居がしたいという貪欲なキャストの方ばかりだったので、刺激的で、もっと頑張らないといけないなと思いました」と充実感をにじませる。

 ◇アクション撮影に「監督が誰よりも動きがいい」

 小吉を演じる際に難しかったのは、「一番苦労したのは、アクションでもテラフォーマーがそこにいると想定し、スタンドイン(照明や撮影の準備のために俳優の代理をする人)に近い形でやったこと」と伊藤さん。「相手がどう動き、それに対して自分がどう動くかを覚えて本番に入って1人で動作をやるので、きちんと相手に当てているように見えるようになるのに時間がかかりました」と話すも、「慣れてきて動きが体に入ってくると楽しかった」という。

 昆虫の能力を発揮するために姿を変異させるが、「アクションがあるので衣装さんが頑張って軽量化はしてくれているのですが、(変異後の衣装は)体感としては20キロくらいある感じでした」と伊藤さんは説明し、「ただ、僕よりも(武藤仁役の)山下(智久)君のほうが大変だったはず。バッタなので下半身はCGで、上半身は動きを合わせないといけないし、(物語の)最後の方の姿も山下くんがやっていて苦労したのでは」と気遣う。

 アクションシーンについては、実は三池監督自らがテラフォーマーのモーションキャプチャーのアクターを担当したという。「本当はスーツアクターなど専門の方にお願いした方がよかったのですが、そこまでの時間をかけられなかった」と三池監督は経緯を明かし、「外側から動きを見ていると、『もっとこうしよう、ああしよう』となって時間がかかってしまう。今回は客観的に見る部分を省き、自分の中にあるイメージをいかにダイレクトにデジタルデータに変えるかを重視しました」と意図を説明する。

 聞いていた伊藤さんは「こっちはプロでアクションの訓練などもしているのに、監督が誰よりも動きがいいので嫌だなと(笑い)」とちゃめっ気たっぷりにたたえる。

 ◇映画版ならではの“生身感”

 完成した映像を見て、伊藤さんは「難しく見るのではなく、いろいろあるけれど実は行って帰ってくるだけの『マッドマックス』のような勢いで、盛り上がって見られる映画ができたのがうれしい」と喜び、「(原作にもある昆虫解説の)ナレーションが池田秀一さんで、『映画ではこんなふうになるのか』とわくわくしました」と満面の笑みを浮かべる。

 さらに見どころとして、「生身の人間が動いてアクションをしている部分」と伊藤さん。「個人的には、ケイン(・コスギさん)が演じるゴッド・リーがお気に入りで、僕らは(重さを)知っていますが、あの衣装であの動きはすごい」と驚く。

 続けて、「ケインさんはすごく緊張していたらしく、監督が緊張を取り払うために『イッパーツ!』と叫んでみようかと言い出して……」と伊藤さんが切り出すと、「1回、生で見てみたいじゃないですか(笑い)」と三池監督が冗談交じりに返し、「それを言ったらケインさんも『楽になった』と言っていました」と伊藤さんは現場の雰囲気のよさが伝わるエピソードを紹介する。

 今作の撮影を「刺激的で面白く、どんな船か、どこまで進めるかも分からないけれど、乗っかって行ってみようという心地よさはあった」と三池監督は振り返り、「今までのことが通用しない、その場を与えられたということがすごく心地よかったけれど、それは原作が描かなければできないわけですから、そういう意味ではリスペクトするのは当たり前。できれば原作ファンの人にも楽しんでもらいたい」とメッセージを送った。映画は全国で公開中。

 <伊藤英明さんのプロフィル>

 1975年8月3日生まれ、岐阜県出身。97年に俳優活動を開始し、2000年に「ブリスター!」で映画初主演。「海猿」シリーズの主演を務め脚光を浴びる。三池監督作品では「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」(07年)に主演、「悪の教典」(12年)ではサイコパスの高校教師役を演じ話題に。主な映画出演作に「カムイ外伝」(09年)、「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」「喰女 -クイメ-」(ともに14年)などがある。現在、主演ドラマ「僕のヤバイ妻」(関西テレビ・フジテレビ系)が放送中。

 <三池崇史監督のプロフィル>

 1960年8月24日、大阪府八尾市出身。1991年にVシネマ「突風!ミニパト隊」で監督デビューし、「新宿黒社会チャイナ・マフィア戦争」(95年)で劇場公開映画を初監督。以降、さまざまなジャンルを手がけ、日本のみならず海外でも多くの支持を集めている。最近の主な作品として「悪の教典」(2012年)、「藁の楯 わらのたて」(13年)、「土竜の唄 潜入捜査官 REIJI」(14年)、「神さまの言うとおり」(14年)、「風に立つライオン」(15年)など。今後はメガホンをとった「土竜の唄 潜入捜査官 REIJI」の続編や、「無限の住人」の公開を控える。

 (インタビュー・文:遠藤政樹)

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