黒川文雄のサブカル黙示録:フリーなるものの正体(前編)

 「タダほど高いものはない」という言葉があります。しかし現在、タダで手に入るものがあふれています。

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 昨年末発売されたクリス・アンダーソンさんの21世紀の経済モデルをテーマにした「フリー<無料>からお金を生みだす新戦略」が話題となりました。それによると、どの業界にいようが、「無料」との競争が始まっていて、それは可能性の問題ではなく、時間の問題であると位置付けており、その無料を味方につけられるかどうかがビジネスの分かれ道だと言っています。

 インターネットの拡大とともにタダで享受できるサービスが増えました。店舗情報、それにかかわるクチコミ、天気予報、道路情報、株価情報などがあります。アンダーソンさんは「ウェブの世界には、貨幣経済以外に、評判(トラフィック)経済と注目(リンク)経済がある」と言っています。後者の二つの経済は、ネットのグルメサイト、Q&Aサイト、価格比較サイト、情報サイトのことです。

 その代表的なビジネスモデルは、グーグルなどの検索サイトでしょう。無料のサービスを提供することで多くの顧客を取り込んでデータを抽出し、そのデータを有料で活用する顧客が生まれるという考えです。PCのオンラインゲームもそれに近く、基本利用料無料で多くの会員を集め、課金に積極的な一部の顧客を育成するものです。「市場に参入するもっとも破壊的な方法は、既存ビジネスが収益源としている商品をタダにすること。すると、その市場の顧客は押しかけてくる」と言います。

 インターネットのYouTubeやニコニコ動画の台頭と反比例するように、私がかつてかかわっていた映像ビジネスの収益モデルも変化、いや崩壊しつつあります。3Dやブルーレイディスク、ハイビジョンという視聴の形態は変わりました。しかし、90年代後半のように収益を確保するモデルはありません。映画、アニメなどの収支も減少の一途です。

 しかし、コンテンツ周辺のビジネスは盛んになっている不思議な現象もあります。アニメキャラクターの精密フィギュアや、カードゲームなどです。興味深いのは、DVDなどのコンテンツはさほど売れず、発売前であっても、フィギュアやグッズが好調に売れるというケースが散見されます。次回はその中心ビジネスである映像業界の話を中心に話を進めてみたいと思います。(後編に続く)

 ◇筆者プロフィル

くろかわ・ふみお=1960年、東京都生まれ。84年アポロン音楽工業(バンダイミュージック)入社。ギャガコミュニケーションズ、セガエンタープライゼス(現セガ)、デジキューブを経て、03年にデックスエンタテインメントを設立、社長に就任した。08年5月に退任。現在はブシロード副社長。音楽、映画、ゲーム業界などの表と裏を知りつくす。

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