昨年急逝した若松孝二監督の遺作「千年の愉楽」が9日から全国で公開される。若松組常連の寺島しのぶさん、井浦新さんが出演するほか、高良健吾さん、高岡蒼佑さん、染谷将太さんといった注目の個性派の役者が顔をそろえた。
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映画は、和歌山県出身の作家・中上健次(1946-92)の小説が原作。紀州の“路地”に生まれ、女たちに愉楽を与える一方で我が身を滅ぼしていく「高貴で汚れた」血を持つ“中本”の男たちの、壮絶かつ刹那(せつな)的な生きざまを描く。彼らの人生を、路地の子供たちを取り上げてきた産婆のオリュウノオバが、いまわの際をさまよいながら回想する形で物語は進んでいく。
とにかく、俳優陣が粒ぞろいでまず目を引く。出番が少ないとはいえ、中本の血を引く彦之助に井浦さん。その生まれ変わりとして生を受ける息子・半蔵に高良さん。そのおじの三好に高岡さん。さらに、半蔵とは年の離れたいとこに染谷さん。そして、彼ら中本の血を引く赤ん坊を取り上げてきた産婆のオリュウノオバを演じるのが、若松組の常連の寺島さんだ。ほかに、オリュウノオバの夫で僧侶の礼如を佐野史郎さんが演じている。
中本の男たちに焦点を当てた原作とは異なり、映画は中本の血の真の尊さを知り、彼らの母のような存在であったオリュウノオバに光を当てている。映画を見て原作を手にしたところ、活字慣れしていない人には、文字量の多さと、それが描く世界の濃厚さに圧倒され面食らうだろう。だが、映画はいい意味で濃密さが軽減され、物語も理解しやすく、それによって映像が文字を補足する形になり、ゆっくりとではあるが、原作を読破できた。その点でも今作は、小説「千年の愉楽」、あるいは中上健次作品の入門編として、価値ある映画となっている。9日からテアトル新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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