イラン映画「別離」(2011年)で米アカデミー賞外国語映画賞に輝いたアスガー・ファルハディ監督の最新作「ある過去の行方」が全国で公開中だ。パリを舞台に、一組のカップルとそこから派生する男女の関係をサスペンスタッチで描いた今作は、これまでイランを舞台に撮り続けてきたファルハディ監督にとって、初めて異国で撮影した作品。米アカデミー賞作品賞に輝いた「アーティスト」(11年)でヒロインを演じたベレニス・ベジョさんが出演しており、今作の演技では仏カンヌ国際映画祭で主演女優賞に輝いている。
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マリー(ベジョさん)との離婚手続きのために、イランのテヘランから4年ぶりにパリに戻ったアーマド(アリ・モッサファさん)。ところが、マリーはすでに新しい恋人サミール(タハール・ラヒムさん)と生活を始めており、かつて自分が暮らした家には、マリーの2人の連れ子の娘のほかにサミールの息子もいた。居心地は悪いが、離婚手続きが終わるまでやっかいになるしかない。そんな中、アーマドはマリーの連れ子の一人、リュシー(ポリーヌ・ビュルレさん)から驚くべき話を聞かされる……という展開。
ファルハディ監督の作品の特徴は、登場人物の関係性やその背後にある事情などを大っぴらに明かさないところにある。それらは映画を見進めていくうちに次第に明らかになっていくのだが、それが物語のサスペンス性を高め、作品を見る上での吸引力となる。今作も同様で、マリー、アーマド、サミールら大人たちそれぞれの記憶の中にある過去が、彼らの口から語られていき、最初に主人公と思われた人物は途中から脇役に回り、それまで脇役だった人間が新たな主人公となる。語り部が変わることで真相が変わっていく。まるで、装置の上で回る円形の舞台劇を見ているようだ。それが一回りして初めて全体像が見えてくる。大人たちそれぞれの証言の懸けけ橋となるのが、3人の子供たちだ。こういったファルハディ監督の構成と演出は見事というほかない。一方で、過去の監督の作品「彼女が消えた浜辺」(09年)や「別離」よりもサスペンス性は薄れたように感じる。その代わりに浮かび上がるのが夫婦愛だ。筆者は今作にラブストーリーの側面を見たが、みなさんの心にはどう映るだろうか。4月19日からBunkamuraル・シネマ(東京都渋谷区)ほか全国で公開中。(りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションをへてフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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