呪術廻戦 死滅回游 前編
第59話「仙台結界」
3月26日(木)放送分
ドラマ化もされた「チーム・バチスタ」シリーズの10年後を描いた海堂尊さんの新作「アクアマリンの神殿」(角川書店、7月2日発売)は、「ナイチンゲールの沈黙」や「モルフェウスの領域」などに登場する少年・佐々木アツシが主人公となる先端医療エンターテインメント小説だ。世界初の「コールドスリープ<凍眠>」から目覚め、未来医学探究センターで暮らす少年・佐々木アツシは、深夜にある美しい女性を見守っていたが、彼女の目覚めが近づくにつれて重大な決断を迫られ、苦悩することになる……というストーリー。マンガ家の深海魚(ふかみ・さかな)さんのカラーイラスト付きで、全24回連載する。
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◇プロローグ編2 ピアノがほしい
実はぼくは中等部二年の秋に編入したから、この学園にはまだ半年しか在籍していない。
中途編入は珍しいらしく一瞬、学園の注目の的になったぼくは、すぐに彼らの注目を失った。
優等生たちからは、中間試験でのぼくの順位が二百人中八十五位という平凡な成績だったので、ライバルに値しないと切り捨てられた。ふつうの学生は、ぼくが大病をした過去があるというウワサを知り、ぼくへの興味を失くしたようだ。でも学園は居心地がよくて満足している。
「成績表は地下室の机の引き出しに入れてあるから、今すぐ取ってくるね」
立ち上がり、地下室に駆け下りようとしたぼくを、西野さんは呼び止めた。
「いいよ、いいよ。すぐに仕事に入るから、一緒に行くよ」
ぼくの後から螺旋階段を下りてくる西野さんを振り返って見上げる。すると、その肩越しに、塔の中心を望楼まで背骨のように貫いている螺旋階段が聳え立ち、てっぺんの天窓に青空のかけらがセロファンみたいに貼り付いているのが見えた。
螺旋階段の底にある地下室の空気はひんやりしている。窓はないけれど、仕事の関係上、いつも煌々と灯りが点されていて、地下室特有の陰鬱さはない。
ぼくは机の引き出しから成績表を取り出して、西野さんに差し出した。
「ジャスト百位か。ついにやったじゃないか、坊や」
思わずにまにましてしまう。何しろこれは、とても困難なミッションだったのだから。
「せっかくだから、ご褒美に欲しいものを何でもひとつ、買って上げようか」
「ほんと? 何でもいいの?」
西野さんはうなずく。ぼくは一瞬躊躇したけど、思い切って言ってみた。
「じゃあ、ピアノがほしい」
西野さんは相当びっくりしたのか、珍しく質問に対して黙り込んでしまった。
やっぱり無茶なお願いだったな、と反省する。でも口に出してみなければ、それが無茶かどうかもわからないのだから仕方がない。
無茶だと思う理由、その一。まず、ぼくはピアノが弾けない。
その二。たぶんこれから先もずっと、弾けるようになる見込みがない。
ぼくのおねだりが叶うことイコール、部屋の真ん中に存在意義のない巨大家具が出現することになるから、合理的な西野さんの答えは当然ノーに違いない。
悲観的な予想は、幼い処世術だろう。「こんな願い事が叶うはずはない」と予想しておけば、叶わなくても失望しないで済むのだから。
<毎日正午掲載・明日へ続く>