ディズニー映画「イントゥ・ザ・ウッズ」でのシンデレラ役が記憶に新しいアナ・ケンドリックさん主演の映画「ラスト5イヤーズ」が25日から公開される。トニー賞受賞歴のある音楽家ジェイソン・ロバート・ブラウンさんが脚本と楽曲を担当し、2002年にオフ・ブロードウェーで上演され大ヒットしたミュージカルの映画化だ。「P.S.アイラヴユー」や「フリーダム・ライターズ」(ともに07年)で知られるリチャード・ラグラべネーズ監督がメガホンをとった。友人に勧められミュージカルのサウンドトラックを聴き、その素晴らしさに映画化を意識するようになったというラグラべネーズ監督が、このたび電話インタビューに応じた。
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映画は、女優の卵キャシー(ケンドリックさん)と、若くして成功を手にする小説家ジェイミー(ジェレミー・ジョーダンさん)の出会いから破局までの5年間を描く。オリジナルの舞台も同じだが、今作の特徴は、キャシーのパートは別れから出会いまでを、ジェイミーのパートは出会いから別れまでを、二つの逆行する時間の流れで描いていることだ。ラグラベネーズ監督に、映画化に際して逆のパターン、つまりキャシーは出会いから別れまでを、ジェイミーは別れから出会いまでを描くことは考えなかったのかと聞くと、「(原作者の)ジェイソン(・ロバート・ブラウンさん)がもともと書いたものに忠実にやりたかった」と前置きした上で、ブラウンさんの言葉を引用しながらこう答えた。
「2人のタイムラインが交差していくというのがこの戯曲で一番気に入った点の一つだったから、そこはあまりいじりたくなかった。それに、これはジェイソン自身が言っていたことなんだけど、彼は直感的に、キャシーの時系列を逆にしたんだそうだ。というのも、ジェイミーは前を向いている、つまり将来に向けて努力している。一方のキャシーは過去を振り返るモードに入っている。だからやっぱりあのタイムラインでよかったのではないかと。今振り返ってみてもそう思うらしい。僕もやっぱりこの形がベストだと思うよ」
とはいえ違いもある。舞台版では、キャシーとジェイミーそれぞれの歌がモノローグだったのに対して、映画では、2人が相手に歌い掛けているような構成にした。そういった手法をとったのは、「相手のリアクションを拾うことができ、歌い掛けられる方にとっても、その意味をきちんととらえることができる。そのため、2人の関係を描きながら、互いの視点を入れていくことができる」からだ。そこにはラグラべネーズ監督の「恋愛においては何が正しいとか、誰が間違っているという正解はない。愛し合ってさえいればいいというものではないということを観客に伝えたかった」との意図がある。
歌詞も一部変更した。ただそれは、ラグラべネーズ監督が変えたわけではなく、ブラウンさんが2013年のリバイバル公演の際に変更した点に基づいているという。「例えば」と具体的に挙げたのは、12曲目のキャシーがジェイミーを実家に連れて行くときに歌う「I Can Do Better Than That(もっと良い人生があるはず)」。オリジナルでは、“トム・クルーズ”に言及する歌詞があったそうだが、「それではちょっと古い」ということで「オシャレなところに刺青を入れている男」に変えたという。
キャシーを演じるのは、「マイレージ、マイライフ」(09年)で注目され、日本では5月に公開される「ピッチ・パーフェクト」(12年)でも美声を披露しているケンドリックさん。対するジェイミーを演じるのは、ブロードウェーで「ウエスト・サイド物語」や「ボニー&クライド」などの舞台に立ってきたミュージカル界出身のジェレミーさんだ。ラグラべネーズ監督によると「2人ともアイデアが豊富で、それにとてもよくキャラクターを理解し共感しながら演じていた」といい、「とにかく3人で意識したことは、観客が共感できるようなキャラクターを誠実に描くことだった」と2人の貢献を称えつつ、当時の思いを振り返った。
「好きな曲はすべて」と甲乙つけがたいようだったが、「強いて1曲選ぶなら」と挙げたのは、「14回テイクを重ね、ワンカットで撮った」というジェイミーが歌う13曲目「Nobody Needs to Know(愛が壊れたとき)」だ。「2人がケンカをしている間、キャシーはジェイミーの顔を見ないというつらい場面だけど、とても気に入っているシーン」と話した。
キャシーとジェイミーは結局別れてしまうが、ラグラべネーズ監督は、「2人が恋に落ちたこと自体は間違いじゃない。だから後悔はないと思う」と2人の心情を想像する。その上で、「では、愛は永遠かというと必ずしもそうではない。そう考えると、恋愛もまた、一つの自己発見の旅だと思う。幾度もの出会いと別れを経験することで、自分自身というものがより深く理解できるようになると僕は思っている」と監督ならではの恋愛観を語った。
「観客が自分自身の経験や人生に照らし合わせながら見てくれれば、僕にとっては貴重な仕事ができたことになるので、観客には、こういうことを考えてほしいとか、これを受け取ってほしいとは言えない」と謙虚さをのぞかせつつ、一方で今作が「どの時代にも当てはまる話」だと確信している。「僕が(舞台版の)スコアをなぜそれほどまでに気に入ったかというと、人を愛するときに何が起きるかということを、この物語はとても誠実に描いているからなんだ。だから誰もが共感できるし、特に、今恋愛をしている若い人たちが、一番共感できるんじゃないかな」と作品の魅力をアピールした。映画は25日から全国で順次公開中。
<プロフィル>
1959年生まれ、米ニューヨーク州出身。「フィッシャー・キング」(91年)の脚本を手がけ、米アカデミー賞にノミネートされる。その後、「マディソン郡の橋」(95年)、「モンタナの風に抱かれて」(98年)などの作品で脚本を担当。98年製作の「マンハッタンで抱きしめて」(日本未公開)では自らの脚本でメガホンをとった。ほかに監督、脚本を担当した作品に「フリーダム・ライターズ」「P.S.アイラヴユー」(ともに07年)、脚本を担当した作品に「恋人たちのパレード」(2011年)、「恋するリヴェラーチェ」(13年)などがある。
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