佐藤浩市さんと樋口可南子さんが初の夫婦役を演じた「愛を積むひと」(朝原雄三監督)が20日から公開される。ロングセラーとなっているエドワード・ムーニー・Jr.さんの「石を積むひと」が原作。舞台を米国から日本の北海道に移して、十勝岳を望む一軒家に住む熟年夫婦の第二の人生を、出会った人々とのふれあいとともに見つめた。
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東京の下町で経営していた工場をたたみ、北海道に移り住んできた小林篤史(佐藤さん)と良子(樋口さん)。以前、外国人が住んでいた家を手入れし、良子はガーデニングを楽しみ、これまで仕事一筋だった篤史はひまを持て余していた。見かねた良子は、家の周りに石塀を造ることを夫に提案する。篤史は最初こそ渋々だったが、造園の若い見習いの杉本徹(野村周平さん)と一緒に、地道に石を積む作業を進めていく。そんなある日、患っていた心臓病で入院した良子。良子は病気の重さを篤史に伝えずにいた。夫妻には東京で働く娘・聡子(北川景子さん)がいて、良子は夫と娘に溝があることを気がかりにしていたのだが……という展開。
石を積むのと同じように積み重なった熟年夫婦の時間も、もう残り少ないことが早々に告げられる。夫婦の物語は、若いカップルの物語に引き継がれ、父と娘の物語へ。移ろう四季の美しさとともに、ストーリーが流れていくのだが、そこは「釣りバカ日誌」シリーズや「武士の献立」(2013年)の朝原監督のこと。人が人を思う心を丁寧に映し出し、心を揺り動かされる。ここに出てくる人々は、人生の辛苦をなめてきた過去を持つ。誰もが迷い、自分の弱さに翻弄(ほんろう)される中、妻の良子だけは別の次元にいるかのようだ。自分の寿命を受け入れ、他者を許すことのできる強さを持つ良子の生きざまは、夫婦の思い出の曲であるナット・キング・コールが歌うチャップリン作曲の「スマイル」と呼応し、若い徹とその恋人の胸にも響かせる。亡くなり姿が見えなくなったあとも良子はずっと存在し、残された者に「スマイル」を向け続けている。出来上がった石塀に深い思いを感じ、それを映し出す場面は忘れられない風景となった。ロケ地となったのは、北海道美瑛町。景観はもちろん、木目を基調とした家の内装、食事なども見どころだ。音楽は「武士の献立」などの岩代太郎さん。フードスタイリストは、「深夜食堂」(15年)などの飯島奈美さん。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで20日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。細野晴臣さんが歌う「スマイル」が好きです。
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