昨年6月に公開された斎藤工さんの主演映画「虎影」のブルーレイディスク(BD)とDVDが6日に発売された。かつて最強と呼ばれた忍者・虎影が主人公のアクション活劇で、抜け忍となり妻子と穏やかに暮らしていた虎影が人質にとられた妻と息子を守るため、再び刀を手に取り奮闘する姿を描く。脚本も担当した西村喜廣監督に映画や出演者について聞いた。
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今作はキレのいいアクションが緊迫感と迫力を感じさせる物語ながら、コメディー要素が随所に盛り込まれている。「アクションは真剣にやりつつ、言ってみればコメディーですが、家族の話であり、みんなが見て子供も飽きないような感じというのを狙っていた」と語る西村監督。「過去の作品も家族ものが結構多いのですが、今回は本当に家族ものを押し出してみて、子供とお母さんが捕まってしまってどうしよう……となっているお父さんをやりたかった」と、家族というテーマに決めた経緯を説明する。
主人公が忍者であることについて、西村監督は「アクションものでみんなが見られるものと考えたとき、忍者は僕も好きなジャンルだったし、日本はもちろん海外でも知られているというのが一番大きかった」と話す。忍者ものでありながらポップな作風だが、「忍者ものは、昔はノリが結構軽めだった(笑い)」と切り出し、「『仮面の忍者 赤影』や『伊賀野カバ丸』、子供向けではあるけど『忍者ハットリくん』もそうですが、大人が見ても面白い、ちょっとバカバカしい忍者ものというのは昔はあったのに、最近はないだけ」と説明する。
西村監督にとって初の男性を主人公に据えた作品となったことを「今まで男性主人公がいなかったのは、たまたま」といい、「僕の中で女の人がすごく強いと思っている部分があり、それで女の人が主人公のものをずっとやっていた。でも『虎影』もそうだし、次回作も男の人が主人公になると思うし、こだわってはいない」と話す。
男性主人公の作品を撮ってみた印象を、「今回は(主人公が斎藤)工だったから、工はこういうふうにやるだろうなと思って(当て書きで脚本を)書いていたりするので、それほど気にはならなかった」と続け、「前々から知ってはいたけど、鬼卍役のみもっちゃん(三元雅芸さん)は僕の映画に出るのは初めてだったから、逆にみもっちゃんの方が新鮮だったかもしれない」と振り返る。
今作は、主演の斎藤さんの“セクシー番長”的なパブリックイメージを覆すような演技や、スタントなしでのアクションシーンが話題を集めたが、「初めて男性が主人公なので誰がいいんだろうと思ったのですが、頭の中には工しかいなかった」と西村監督。「とりあえず工にLINEで『こういう企画があるんだけど出てみない?』」と出演をオファーをしたところ、「(斎藤さんからLINEで)『やります!』とすぐ返ってきた」と笑顔で明かす。
斎藤さんの、カッコ悪くて笑えないギャグで楽しませてくれる姿が印象的だが、「ここ最近は壁をドンとする攻撃をしたりとか、後ろから抱きつく攻撃みたいなものが得意技になっているから(笑い)、そうじゃないものをやった方がいいのでは」と思ったという西村監督は、「(斎藤さんはドラマの)『昼顔』でブレークしているけど、撮影は『虎影』の方が『昼顔』の前」と説明。そして「多分、『虎影』の方が普段の工っぽい感じ」だと表現する。
俳優としての斎藤さんの魅力を、西村監督は「映画が好きだというのもあるし、結構勘がいい」と評し、「こういうのを撮りたいということに対しての理解度がすごく高い」と称賛する。続けて、「付き合いが長いというのもあるけれど、こういうのをやりたいということを特に説明しなくても基本的に全部理解してやってくれる」と話し、「だから放っておいてもいいかなと(笑い)」と冗談交じりながらも斎藤さんへの絶大な信頼感を明かす。
西村監督の現場では撮影が速くテストがないそうだが、その真偽について「効率化もそうだけど、時間がないという面も……」と西村監督は笑い、「アクションも基本的にやってみよう、回してみようから始めるけれど、仮に『テストしませんか』といわれた場合は『テストでいいから回していいですか』と。そうするとそれは本番ですねとなって、結果として本番になる(笑い)」と楽しそうに語る。
いつも「芝居部分も何にせよ全部コンテを描く」という西村監督は、今作では「こういう構成でこういうアクションをやりたいというのを描いたあと、アクション監督の匠馬敏郎と相談して決めていった」という。監督の意図と役者の解釈に相違が出ることもあるが、「コンテを描くけど、逆にその流れがあればいいという部分があるので、どちらかというと(きっちりとは)決めない」と自身のスタンスを説明する。
そんな演出方法をとる西村監督だが、「毎回びっくりするのが(リクリ役の)津田(寛治)さんの演技」と西村組常連の津田さんの演技には驚かされ、「衣装合わせで『こういう役なんです』と説明すると『分かりました』と言うのですが、衣装を着て本番が始まるといきなりカメラ目線でやってきたりする(笑い)」など予想もつかない演技を繰り出すという。西村監督はモニターで見ながら「これはこれでいいかなと思いつつも津田さんにほかにやりたいことがあるかと聞くと、『こういうのはいいですか』と返ってくる。それでやりすぎだと思ったら変えていくみたいな感じ」と話し、「自由にやってくれますから面白い」と絶賛する。
子供の頃から「相当特撮が好き」と話す西村監督は、「小学生の頃、一番最初にやりたいと思っていたのがレイ・ハリーハウゼンの『シンバッド七回目の航海』という実写の合成みたいなコマ撮りのアニメーションがあるのですが、ああいうのがやりたかった」といい、「そこから興味があってずっと特殊メークをやったり造形をやったりしていたから、今回の“目なし”のコマ撮りみたいなものは完全にオマージュで、昔ああいう撮影法の映画があった」と語る。
西村監督は昨年公開された実写版「進撃の巨人」の特殊造形も担当しているが、「『進撃の巨人』はマンガから緻密な考察をしなければならないけれど、(『虎影』は)僕のオリジナルだからある意味で楽かもしれない」と話すも、「僕の中では両方とも面白いです」と笑顔を見せる。そして、「『虎影』の撮影中は『進撃の巨人』の準備中で、『進撃の巨人』の方も特撮はオンパレードだし、忍者ものは特撮が多い部分もあるから、そういう接点みたいなものが楽しかった」と振り返る。
今作にも“目なし”という特殊メークを施したキャラクターが登場するが、「“目なし”が一番お気に入りキャラクターなので、“目なし”のシーンはすごく好き」と西村監督。さらに、「虎影(のアクション)はもちろんだけど、鬼卍のアクションの最後の1カットはすごくいい。(鬼十字役の)清野菜名と一緒にやっているけれど、あれは2人ともよくまあ動けるなと現場でも思った(笑い)」と西村監督は感心する。
映像作品発売に当たり、今だからこそ話せる秘話を……と聞くと、西村監督は「板尾(創路)さんが出てくるシーンで、板尾さんの『虎影生きていたか』というせりふがあるのですが、最初(板尾さんが)『影虎』といったんです(笑い)」といい、「(板尾さんが)『ええやんか影虎でも』と言ったのですが、クライマックスなので、『やっぱり虎影にしてもらえますか。虎影バージョンも撮らせてください』とお願いしました」と笑いながら明かす。
物語はまだまだ広がりを見せそうな雰囲気で終わるが、「構想はちゃんとあるし、いろいろやりたい。“2”を作る気満々なんです」と西村監督と力を込め、「工もすごく気に入っていて、『“2”なんとかできないですか』と会うたびに毎回言われる」と斎藤さんも乗り気であることをアピール。そして、「(今作の)続きをやりますけど、過去の話も出てくると思う」と次回作の構想を披露し、「どこかお金(製作費)を出してくれないかな(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに語る。
最後に改めて見どころを聞くと、「僕がこれを作った理由は、最近スーパーマンやバットマンが落ち込んだり、ヒーローが落ち込んだりする映画が多い」と西村監督は切り出し、「落ち込むのではなく元気いっぱい前に進んで行こうというメッセージが入った家族映画だし、忍者というところで僕が子供の頃に見てきた昭和の活劇ものみたいな何でもありというところを楽しんでほしい」とアピール。続けて、「DVDやBDを見終わったあとに、『面白かった。じゃあメーキングも見てみるか』みたいな感じの映画に仕上がっていると思うので、隅から隅まで特典も全部見ていただけるとうれしい」とメッセージを送った。
「虎影」のBDは5000円、DVDは4000円(共に税抜き)、ハピネットが発売・販売。
<プロフィル>
1967年生まれ、東京都出身。造形、特殊メーク、撮影、照明などを独学で学び、95年「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」のオフシアター部門で自主制作作品「限界人口係数」が審査員特別賞を受賞する。「自殺サークル」(2002年、美術)、「ヌイグルマーZ」(14年、特殊メーク)、「進撃の巨人」(15年、特殊造形プロデューサー)など参加作品は多数。監督作には「東京残酷警察」(08年)、「ヘルドライバー」(11年)など。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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