「英国王のスピーチ」(2010年)や「レ・ミゼラブル」(12年)で知られる名匠トム・フーパー監督の最新作「リリーのすべて」が18日から公開される。世界で初めて性別適合手術を受けた実在したデンマーク人の逸話を基に、女性として生きる決心をした夫とその妻の強い絆と深い愛を描き出した。「レ・ミゼラブル」に続いてフーパー監督の作品に出演したエディ・レッドメインさん。今年のアカデミー賞ではレッドメインさんがこの作品で主演男優賞にノミネートされ、妻役を演じたアリシア・ビキャンデルさんが助演女優賞を受賞した。
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1926年、デンマーク・コペンハーゲン。風景画家のアイナー・ベイナー(レッドメインさん)と肖像画家の妻ゲルダ(ビキャンデルさん)は、新婚のように仲のいい夫婦だ。ある日、ゲルダに女性モデルの代役を頼まれたアイナーは、ストッキングとサテンの靴を履き、白いチュチュを身に着ける。そのときから、自分の内面にいた女性を意識し始めたアイナーは、ゲルダに手伝ってもらい、女装で舞踏会に訪れる。最初は芸術家の遊びと思っていたゲルダだったが、リリーという女性として過ごしたいというアイナーの気持ちに気づいてしまい……という展開。
夫婦愛を超えた、もっと大きな愛をズシリと感じる作品だ。トランスジェンダーというマイノリティーを題材に、愛する人を理解するということ、そして自分の理想を追い求めて生きていくことといった、人間が崇高に生きていく上での根源的なものが描かれている。仲のいい夫婦は、夫が女性として生きたいという決心をすることで、形を変えた関係になっていく。ときに夢をかなえてあげる母親のように、ときに同じ芸術家としての友人のように。2人の関係はまるで「同志」だ。リリーとなった夫は、ゲルダの描く絵のミューズとなる。アイナーは本当の自分を見つけて生き生きとしていく。薄暗い部屋で絵を描いていた内向的な雰囲気から、“女性”が開花していくさまが鮮やかに描かれている。
「レ・ミゼラブル」のパコ・デルガドさんが手がけた衣装が、こまやかにキャラクター像を作り上げている。アイナーとリリーを演じ分けたレッドメインさんの芝居にも驚くが、夫が変わっていくことへの葛藤を抱えながらも、愛情を失わないゲルダを熱演したビキャンデルさんにも魅了される。「ボーン」シリーズ新作のヒロインにも抜てきされた注目の女優だ。実話を基に書かれた小説を、「ラフマニノフ ある愛の調べ」(07年)のルシンダ・コクソンさんが脚本化。TOHOシネマズ 新宿(東京都新宿区)ほかで18日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。最近一番ドスンときた映画は、ドキュメンタリー作「大地を受け継ぐ」です。
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