超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ゲーム開発者教育の取り組みについて語ります。
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ゲームは技術革新が非常に早く、据え置き機からスマートフォンへの移行に見られるように、しばしば環境が大きく変化する。そのため学生から社会人に至るまで、人材教育のあり方が議論されてきた。その一方で元ゲームクリエーターが大学でゲーム開発者教育にたずさわる例も増えており、徐々に状況が変わりつつある。
ゲーム開発者教育は、専門学校を中心に1990年代から増加したが、当時はゲーム開発が今よりもシンプルで、業界も成長が続いており、企業側に人材教育の余裕があった。そのため大手では美大や理工系の大学卒、中小では専門学校を中心に学生の「可能性」を見て採用し、入社後に業務を通して教育するやり方が一般的だった。
しかし2000年代に入るとゲームの複雑化や技術の高度化が進む一方で、市場の停滞や家庭用からスマホゲームへの業態転移が続き、企業側で新人教育の余力が低下した。中堅社員の「学び直し」も隠れた問題となっている。その一方でゲーム開発者教育に必要な議論は、始まったばかりというのが実情だ。
2月27日と28日、芝浦工業大の大宮キャンパス(さいたま市)で開催された日本デジタルゲーム学会と、コンテンツ文化史学会の年次大会でも、ゲーム開発者教育に関する研究発表やシンポジウムがおこなわれた。前者は06年、後者は09年に設立され、研究者に加えてゲーム開発者やコンテンツクリエーターの会員が多い点が特徴だ。
日本デジタルゲーム学会では元任天堂で、ファミコンの設計者として知られる上村雅之さん(立命館大)や、「ゼビウス」の遠藤雅伸さん(東京工芸大)など、ゲームクリエーター出身の研究者が教育手法について発表した。遠藤さんは「欧米のゲーム開発者は技術志向、日本はコンセプト志向でゲームを企画する例が多いが、企画者が未熟なうちは表層部分に引きずられやすい」として、大学で実践中の「コンセプトの掘り下げ方」について発表を行った。また「パックマン」で知られる岩谷徹さん(東京工芸大)が、元ゲームクリエーターとして初めて会長に選出された。
一方、コンテンツ文化史学会では「ぷよぷよ」の米光一成さん(元立命館大)、「アクノアノートの休日」の飯田和敏さん(立命館大)、「ディシプリン*帝国の誕生」でグラフィックをつとめた納口龍司さん(東京コミュニケーションアート専門学校)の3人が、大学と専門学校におけるゲーム開発者教育のあり方について議論を繰り広げた。
すでに北米や欧州ではゲーム開発者をめざす学生に対して、学部生から博士号取得にいたるまでの体系的な教育プログラムが整備されている。最先端のゲーム開発では博士号取得者の割合も増加中だ。一方で日本の大学にはいまだ「ゲーム学部」が存在せず、ゲーム開発者教育に求められるカリキュラム編成も立ち遅れている。
いささか言い古されているが、必要なのは産業界と学術界で人材の流動性を高める仕組みだ。大学と専門学校の連携も大きな課題だろう。その呼び水となるのが、ゲームクリエーター出身の研究者の増加であり、知見の共有だ。ゲーム開発者の第一世代が引退の時期にさしかかっている今、そのための施策が強く求められている。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長をへて2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。11年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、12年に特定非営利活動(NPO)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。
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