僕だけがいない街:原作者・三部けいさんが語る 原作は「別の作品が書けるぐらい違う形だった」

「僕だけがいない街」について語った原作の三部けいさんの自画像
1 / 1
「僕だけがいない街」について語った原作の三部けいさんの自画像

 三部けいさんの人気マンガを基に、俳優の藤原竜也さん主演で実写化した映画「僕だけがいない街(僕街)」(平川雄一朗監督)が全国で公開中だ。同作は、2012年6月から「ヤングエース」(KADOKAWA)で連載が始まり、4日に最終回を迎えたマンガで、現在コミックスが7巻まで発売され、テレビアニメ化もされている。母が殺された事件の容疑者となった主人公の青年・藤沼悟が自身の容疑を晴らすため、“リバイバル”と呼ばれる不思議な現象で過去に戻り、小学生時代に起きた連続誘拐事件の謎などに挑む。実写映画の公開を控え、原作の連載を終えたばかりの三部さんに、原作誕生の秘話や思い、映画について話を聞いた。

あなたにオススメ

 ◇連載前に着地点のイメージなど「大枠みたいなものはできていた」

 原作の連載がスタートする段階では「(物語の)スタートや、要所要所がところどころ決まっている感じで、その1カ所1カ所にたどり着くまでの“道筋”みたいなものがいくつもあるのですが、大枠みたいなものはできていました」と三部さんは明かし、「そのときそのときでベストなものを選ぶという形で進めていくと、大きくそれずに最後まで行けるかなと考えていました」と制作の進め方について説明する。

 物語の分岐点からの道筋をいくつも考えていたというが、「最初から用意されているものもいくつかありましたが、やっていく積み重ねの中で新しいものが出てきた」と切り出し、「そっちのアイデアの方がいいと思えばそっちをやっちゃう感じですが、やってしまったけれど大丈夫かな……と思いながらやっている部分もありました。なんとか破綻しないように……と考えてやっていました」と振り返る。

 そういった中で先頃、連載は最終回を迎えたが、「着地点、ラストは大体こういう感じという読み味のようなものは決めていましたが、そこだけで、あとは『変わってもいいや』という感覚でした。でも、だいたい思った通りに終われた感じです」と充実感をにじませる。

 ◇作品タイトルは「1話目のプロットよりも先にあった」

 連載スタート前は「元は全然違う形だったものを、『ヤングエース』での連載用に調整していき、今の形になりました」と三部さんは明かし、「時間が戻る要素や戻った先で明かされる真実といった要素だけがあって、登場人物もまるっきり違い、まったく別の作品でもう一回書けるぐらい違う形でした」という。その結果、「『僕街』を始める時に改めて主人公や家族、友達などを全部設定し直したので、前の形があるといってもヒントのようなアイデアがあったぐらいで、あってないようなものだったかもしれません」と三部さんは語る。

 「僕だけがいない街」という印象的なタイトルについては、「1話目のプロットよりも(タイトルが)先にあって、ざっくりと全体のイメージができた時にタイトルがまずできた」と明かし、「主人公がいなくなった状態の時間というのがある、それ自体もいくつかパターンを考えていたのですが、ただ、そういう状態が絶対的にあるというイメージが先にありました」とネーミングに込められた意図を説明する。

 そんな中、「タイトルがなんとなく浮かんで、嫁さんに『このタイトルどう思う?』と聞いたら、『なにか引っかかるし、長すぎもせず、分からないながらも作品の内容を想像してもらえるようなところがいいかも』と言われたので、俺の中では『これだ!』とそのときに決まりました」と明かす。そして、「こういうタイトルをうまく作ろうと思っても、自分はタイトルを付けるのが苦手なので、まぐれといえばまぐれです(笑い)」と自虐的に語る。

 ◇担当編集者の一言が衝撃とスピード感に影響

 映画化の話は「2巻が出る前ぐらいに来ました」と三部さんは振り返り、「1巻のラストを『ここにしよう』と言ったのが担当さんなので、そのときに担当さんの言うことを聞いてよかったと思いました」と言って笑う。「俺は違うところを1巻のラストに考えていて、もうちょっとゆったり進むイメージでした」というのが当時の構想だったが、「(1巻の)ラストを昭和63年の学校の前に立っているシーンに……となったとき、そっちの方がいいなと思いました」と三部さん自身も納得したという。

 当初の予定では「3話ぐらい描き進めていて、予定では昭和に戻るのは4話後、2巻の頭ぐらいの感覚でしたが、1話分を詰めてでもそこ(1巻のラスト)に持ってきた方がいいなと」と三部さんは話し、「1巻の残り3話でスピーディーにそこまで持っていったら、ラストの衝撃とスピード感という両方がうまくはまって、それ以降のコミックスのラスト部分における基本形になったと思います」とその後の制作に影響があったことを明かす。

 続けて、「毎回のラストの引きはもちろんある程度意識しますが、プラス、スピードと意外さみたいなことと(コミックスの)巻末に向けての組み立てという意味では、初期3~4回ぐらいはかなり手探りの部分もあったと思います」と振り返り、「プロデューサーの方も1巻の終わり方の話をされていましたので、その考えは間違っていなかったかもしれません」と推察する。

 ◇映画は「テーマは一緒なので違和感なく楽しめる」

 完成した映画の映像を見て、「すごくよかったです。好きな役者さんが多いというのもありますが、個人的には(少年時代の悟役の)中川翼君がすごくよかったです」と三部さん。「ほかの人たちはみんなスキルがある人たちで、(雛月加代役の)鈴木梨央ちゃんとかすさまじい演技を見せてくれた中、これだけよくやれるものだとすごく感心しました」と驚いていた。

 原作と映画ではエッセンスは共通ながらも、それぞれ別の面白さが確立されているが、三部さん自身は「映画はちょっと違う感じになるのではと、最初からなんとなく思っていました」という。その理由を「(原作と比べて映画は)上映時間がある程度決まっているので、要素とかを絞って作るのかなと感じていました。監督も平川さんがされるので、好きにやってもらう方がいいという気持ちはもともとありました」と説明する。

 さらに、「(映画の製作側から)ラストがどうなるのかはずっと聞かれていましたが、作品内でのリバイバル的なルールなども含め『好きに解釈していいですよ』とはお伝えしました。これはアニメの人たちにも話しましたが、『基本もう好きにやっちゃってください』と(笑い)。『こういうふうに解釈してこうしたい』というのであれば、それでも全然構いませんと」と映像化へのスタンスを語る。

 そして、「設定は同じといえば同じですが、“別のもの”として楽しめる感じ」と映画版の印象を語り、「マンガを描くとき、ご飯を食べるシーンを大事にしているのですが、映画でもやっぱり大事にしてくれていたので、そういう意味ではあまり離れてはいません」と三部さん。「“パラレルワールド感”というか、離れているようで離れていない。テーマ的なものは一緒なので、違和感なく楽しめました」と笑顔を見せる。

 ◇もしリバイバルするなら!?

 主人公の悟を演じるのは藤原さんだが、「最初に『藤原竜也さんにやってほしいと考えている』と聞いたときは、そうなればいいけれど、なかなかそうはいかないだろうなと思っていました」といって笑う。しかし実際にキャスティング決定の報告を聞いたときには、「すごく好きな役者さんなので、『やった!』と思いました」と跳び上がらんばかりに喜んだという。

 悟というキャラクターは「うだつが上がらなかった頃の自分を重ねている部分は多少あります」と自身を投影している要素もあるという。「母親との会話など、『こんなこと俺にもあったかも』というようなことを少年時代で描こうと考えていたので、悟は飛び抜けた何かを持っている感じではない方がいいというのはありました」と人物像の理由を明かし、「(悟は)最初は自分でも大丈夫なのかなと思うぐらい性質も見た目も地味でしたが、結果的にはよかったと思っています」と安堵(あんど)の表情をのぞかせる。

 藤原さん演じる悟については、「藤原竜也流の悟みたいなものができている」とたたえ、「製作サイドの“見せ場の切り取り方”みたいなことで、実写になって悟のイメージが変わったら変わったでいいと思う」と持論を展開。続けて、「(物語に対して)キャラクターがより適している形や、別の見せ方もあると思いますから、そういうので変わってしまってもいい」とキャラクターに相違があることに納得し、「(映画版は)俺が描いた悟とは確かに違うとは思いますが、存在感が出ている中で違和感がないところがすごい」と感心する。

 自身の思いも込められている悟だが、三部さんは衣装については思うところがあるという。「専門学校に行っていた頃、周りが悟が着ているようなシャツの人が多かったんです。学生から生活習慣が抜けていないままでバイトしていたりする人のイメージ」と青年の悟が白ワイシャツである理由を明かし、「主人公だから記号的にも着替えないのですが、地味すぎてあまりにも素っ気がなくて、ちょっと失敗したかな……と(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに語る。

 自身にリバイバル現象が起きたら……と聞くと、「厳密にその1カ所だけ戻って修正して戻って来られるのだったら多分、戻りたい場所はありますが、そこからやり直したい場所はないです」と三部さんは力強く語り、「このマンガがこんなに注目してもらえるように描けたというのは、多分積み重ねのようなもので出来上がっていると思うので、今の状況を変えたいとは思わない」と今が充実していることをうかがわせる。

 そういった状況があると断った上で、「あのときに絶対に謝っておくべきだった、これを言ってあげるべきだったと思うシーンはいっぱいあります」と切り出し、「お手軽すぎますけど、そのピンポイントに戻ってそれだけ言って帰って来られるのだったら、(リバイバルを)やりたいです」と三部さんは笑う。そして、「でも、それができちゃうと、『戻ってあとで謝ればいいや』となってしまい、何も思わなくなってしまいますよね。やり直しが利かないから面白いのだと思います」と語った。映画は全国で公開中。

 <プロフィル>

 北海道出身。専門学校卒業後、荒木飛呂彦さんのアシスタントとなる。第40回「手塚賞」佳作、第41回「手塚賞」準入選。2012年6月から「ヤングエース」(KADOKAWA)で「僕だけがいない街」の連載を開始し、16年3月に最終回を迎えた。代表作は「カミヤドリ」(KADOKAWA)、「鬼燈の島-ホオズキノシマー」「魍魎の揺りかご」(共にスクウェア・エニックス)など。現在は、「月刊ビッグガンガン」(スクウェア・エニックス)で「非日常的なネパール滞在記」を連載中。

 (インタビュー・文:遠藤政樹)

映画 最新記事