テレビ質問状:「WHO I AM」 パラリンピックドキュメンタリー第8回は車いすテニスの第一人者、国枝慎吾選手

「パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM」の車いすテニスの国枝慎吾選手(日本)
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「パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM」の車いすテニスの国枝慎吾選手(日本)

 IPC(国際パラリンピック委員会)とWOWOWが共同で立ち上げたパラリンピックドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」。リオパラリンピックが開催された2016年から、東京大会が開催される2020年まで5年にわたり、世界最高峰のパラアスリートたちに迫る大型スポーツドキュメンタリーシリーズだ。10月から第1シーズンとして、8人のパラアスリートに密着した放送がスタートした。第8回は17日午後9時から車いすテニスの国枝慎吾選手(日本)をフィーチャーした回がWOWOWプライムで放送される。番組プロデューサーを務めるWOWOW制作局制作部の太田慎也チーフプロデューサーに番組の魅力を聞いた。

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 ――国枝慎吾選手に注目した理由は?

 世界最高のパラアスリートたちをドキュメンタリーとして描きたいと考えた時、真っ先に頭に浮かんだのが国枝慎吾選手でした。車いすテニス界の絶対王者としておよそ10年間君臨し続け、世界のトップアスリートであるだけでなく、とりわけ日本においては、リオそして東京に向けて最も重要な選手だと思ったからです。

 1年半ほど前から、水泳や陸上をはじめさまざまな競技の国際大会取材のため多くの国を訪れましたが、「日本から来たんだ」と話すと、皆が「シンゴ・クニエダ!」と言ってきます。私たちがよく知る国枝選手ですが、彼は世界でこそ知られている選手だし、まさに国や競技の枠を超えたトップアスリートだと痛感しました。

 そんな国枝選手にとって、2016年は「重要な一年」でした。5月には車いすテニスの国別選手権が初の日本開催、7月にはウィンブルドンで初めて車いすテニスシングルスが開催、そして9月には、国枝選手が最も大切だと話していた4年に1度の祭典「パラリンピック」がリオで開催されることになっていたからです。過去のパラリンピックでは北京&ロンドンでシングルス連覇を達成し、リオでの3連覇、さらに4年後の東京大会をも見据えた国枝選手の重要な一年は、しっかりと取材して深く伝えたいと考えました。

 ――国枝選手との撮影中のエピソードは?

 そのように重要な2016年、私たちが取材させていただいた国枝選手は、これまでのキャリアになかったほど苦しい一年を過ごしていました。リオパラリンピックまで5カ月というタイミングでのひじの手術や、思うように回復せずトレーニングや試合ができない焦りもあったことと思います。これまでも手術やケガは経験してきた国枝選手ですが、それらを乗り越え結果を残してきたという自負が、国枝選手を支えているように見えました。

 そして、国枝選手を苦しめたのは、体のコンディションだけではなかったとも思います。ご存じの通り、日本におけるパラリンピックの注目は日に日に熱を帯びてきています。リオ前は国枝選手に対しても「2020年の東京に向けてリオではもちろん金メダルを」という風潮は確かに強かったですし、私たち自身も少なからずそういう考え方をしていました。

 しかし、国枝選手を取材する中で、それがいったいどういう意味なのかを思い知りました。「期待」はそのまま「重圧」としてのしかかり、自身の発言や試合結果がそのまま日本におけるパラスポーツの盛り上がりに直結するかのようでした。それでも国枝選手は、絶対王者としてその重圧と向き合うことを続けてきた人です。「王者だからこそのプレッシャー」だと受け止め、むしろそれを力に変えるべく、最後の最後まで真正面から向き合っていました。その心の機微のようなものを、しっかり番組に込めようと思いました。

 ――視聴者へ見どころを一言お願いします。

 これまで、9割近いキャリア勝率を誇ってきた国枝選手。世間にいる私たちが見てきたのは、「勝ったか負けたか」や「スコア」や「記録」「欠場」といった事実情報がほとんどで、国枝選手の心の動きまではなかなか見えるものではありませんでした。リオが近づくにつれて微妙な変化を続けていた国枝選手の心情や、自身が最大の強みと断言する「王者のメンタル」が揺れ動く様子を、取材班は目の当たりにしました。そして国枝選手は、これまで語らなかった心のうちを、WOWOWのカメラに語ってくださいました。

 この番組は、単にリオの結果だけを伝えるものではありません。絶対王者と呼ばれる一人の男が「勝負に挑み、どういう答えを見いだしたのか」という物語です。国枝選手のこれまでのキャリア、これからも戦い続けるその姿勢に、心からの敬意を持って制作させていただきました。ぜひご覧いただけたらうれしいです。

 最後に、国枝選手ご本人はもちろん、コーチ、ご家族、関係の皆様、多くの方々にお力添えをいただきました。この場をお借りして、心からお礼を申し上げたいと思います。2016年、「WHO I AM」では世界中の8人のトップアスリートを取材させていただきましたが、その最後の回に、国枝選手のドキュメンタリーをお届けできることを誇りに思います。

 WOWOW 制作局制作部 チーフプロデューサー 太田慎也

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