映画「シン・ゴジラ」などで知られる樋口真嗣さんが総監督のオリジナルアニメ「ひそねとまそたん」。アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」などの岡田麿里さんがシリーズ構成、「きみの声をとどけたい」などの青木俊直さんがキャラクター原案を担当し、ボンズが制作している。「主人公の成長ではなく冒険を描いている」と語る樋口さんに、制作のこだわりや今後の見どころなどを聞いた。
ウナギノボリ
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航空自衛隊の岐阜基地で勤務を始めた新人・甘粕ひそねが、基地に隠された戦闘機に擬態するドラゴンの飛行要員になる……というストーリー。樋口さんと岡田さんが着手していた別の作品が企画途中で立ち消えとなってしまった時に「オリジナルアニメをやりたい」という話になったところから始まったという。
樋口さんは「オリジナルで何をやろうという話し合いの中で、私から岡田さんに『花咲くいろは』(岡田さんがシリーズ構成)のようなお仕事もの、舞台は自衛隊というお題を出したんです」と振り返る。自衛隊という環境に「閉ざされた環境の中で、全く違うソサエティーがある。時には命に関わるような仕事をする緊張感も含めて、掘ると面白いんじゃないか」という思いがあったという。
そこから「アニメーションらしさ」にこだわり、「ドラゴン」という存在が物語に加わった。樋口さんは、「自衛隊のリアリティーは損なわないようにしたい。むしろ、リアリティーを根底から揺さぶるようなファクター“異物”を一つ用意した時に物語は面白くなるんじゃないかな」と話す。
ひそねらドラゴンに搭乗するDパイ(ドラゴンパイロット)は、ドラゴンに食べられることで機体に乗り込む。樋口さんは「岡田さんから『食べられて胃袋の中で操縦するのがいいんじゃないか』というアイデアが出た。何かあると、Dパイがドラゴンに吐き出されてしまう。その設定で企画としての骨格が一つできあがって、後々まで尾を引くというか。乗る人間とドラゴンの関係性にも繋がっていく」と語る。
キャラクター原案は、「おかあさんといっしょ」などの子供向けテレビ番組のキャラクターデザインで知られる青木さんが担当している。樋口さんは「岡田さんの毒のあるというかエキセントリックな物語をリアリティーのある形に着地させるとしたら、青木さんの絵がいいんじゃないか」と考えたという。
続けて「青木さんの絵はある意味、昔ながらであるし、それが動いたときに新鮮だろうと。特に岡田さんの物語を誰の絵でやるかと考えた時に、今のアニメーションは私にとって情報量が多過ぎるように見えた。実際の人間でも表情は限られていて、表情が分からないから、そこから先はくみ取るしかない。それと同じようなものが欲しかった。どうしたらキャラクターを好きになってもらえるか。それは物語であったり、アニメーションをどう動かして、どういう表情をどこに持っていくかであって、それこそがアニメーションの性能だと思う」と語った。
ドラゴンが擬態する機体も見どころだ。F-15JやF-2Aなど実在の戦闘機が登場し、航空ファンの注目も集めている。樋口さんに、機体を描く上でのこだわりを聞くと、「あれは、ドラゴンだとバレないためのただの変装なんで」と笑顔を見せた。「F-15Jを選んだのも、一番数が多い機体だから、その中に交ぜると分からないでしょ?と」と話す。
メカニックデザインは、「マクロス」シリーズなどの河森正治さんが担当している。制作の際、樋口さんは河森さんから「スペシャルな部品を付けていいか」と尋ねられ、「それをやるとバレるからダメです」と答えたそうだ。「メカものが出てくると、普通だったら変形して何かになるという、前向きな意味づけがあるんですけど、今回は全く無いんですよ(笑い)」と明かした。
主人公・ひそねは、思ったことを全て口に出して人を傷付けてきたため、周囲から浮くことを避けているキャラクターだ。ひそねのキャラクター作りについて聞くと、「もしかしたら何かの影響なのかな。主人公が欠陥を持っているって……」と考えた後に、「『ガンダム』かもしれない」と答えた。
樋口さんは、「ガンダム(『機動戦士ガンダム』)の主人公(アムロ・レイ)は間違っているじゃないですか。思い切り間違っている。最後はみんなを助けたりとかいいことをするけど、あれも成長ではなくて、あの場にいたら誰でもそうするわけじゃないですか。だから、成長とかじゃない気がしていて」といい、「ガンダム」が生まれる前の主人公像は「『マジンガーZ』であったり、裏表のない熱血タイプの主人公だった」と説明した。
続けて「でも、実際私たちが生きている世界では、そんな人間はいないわけで、(アムロやひそねのような)『現実はこうじゃん』という人間のほうが、私の中では愛すべきキャラクターとして着地できるんですよ」と思いを語る。
ひそねを描く上では「遠慮がちのキャラクターだったらつまらないから、嫌われるすれすれのところで笑いに転じるように、みんなで作ってきた。『ダメだよ、あいつは』ということを込みで愛してほしいなと思った」という。
先に、アムロは「成長はしていない」と語った樋口さんは、ひそねに対しても成長を描きたいわけではないと明かす。「ひそねがいろいろなことに対してうまくいっていない原因が問題ではなくて、そっから先が問題だと思うんです。そこで、この子が何をしでかすか。それはある意味、すごくちっちゃいけど冒険なんです。彼女にとっては成長ではなくて冒険なんです」と話す。
樋口さんは、「寝る前に、アニメで自分より明らかにダメな人間を見て、頑張るダメ人間を見て、『あしたも頑張ろう』『こいつもこんなだから私も頑張ろう』と思ってくれたら」とアニメに込めた思いを語った。
今後の見どころについては、「何でも気持ちを口にしてしまうところがひそねの欠点ではあるけど、世の中では『はっきり言わずにうまくやる』ことが必ずしもいいこととは限らない場合がある。最終回に向けては、彼女のクズっぷりがプラスに転じるようにしていきたい」とアピールした。
動画配信サービスなどでアニメ全話を一挙に見られる新たな流れに触れて、「今後、アニメを1話ずつ、『次の回どうなるんだろう』とワクワクしながら見るような楽しみ方がなくなってくると思う。そのワクワク感は昭和の遺産とも言える。『ひそねとまそたん』は、次の回への引きも含めて、12話で全てのピースが揃うように作っている。リアルタイムでオンエアを楽しみにする行為を味わってほしい」と力を込めた。
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