超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、2018年に話題となったeスポーツを総括しながら、今年の展望について語ります。
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18年のゲーム業界はeスポーツの話題で持ちきりだった。裏を返せば、それだけ話題が少なかったとも言える。現状のeスポーツブームは、期待感が先行している感も否めないが、今年はどういった年になるだろうか。18年12月に、それを占う二つのニュースが飛び込んできた。
一つは、国際オリンピック委員会が、スイスのローザンヌで五輪サミットを開催し、eスポーツの五輪実施競技入りは「時期尚早」としたことがニュースになった。24年パリ五輪組織委員会のエスタンゲ会長も、同五輪の追加種目に提案しない見通しだという。
eスポーツは、18年にジャカルタ(インドネシア)で開催されたアジア競技会で参考種目となり、日本人選手がサッカーゲーム「ウイニングイレブン(ウイイレ)」(コナミデジタルエンタテインメント)で優勝した。22年のアジア競技会では正式メダル種目になることが決定している。五輪の動向が注目されていたが、拡大の流れにブレーキがかけられた格好だ。
もう一つは、国内eスポーツの現状が明らかになったことだ。ゲーム雑誌「ファミ通」などを発行するGzブレインは、18年の市場規模が前年比約13倍の約48億円で、22年に約99億円に達する見込みだと発表した。ちなみに国内ゲーム市場規模は1兆5686億円(ファミ通ゲーム白書2018)で比較すると1%にもならない。
このことから、19年は日本独自のeスポーツ文化が成熟していくと予測される。海外では賞金総額が28億円以上を誇る「The International 2018」(主催:米バルブ社)をはじめ、ゲーム会社やイベント会社が主催する高額賞金大会が定着している。世界中からトッププレーヤーが集まり、世界中がインターネットで観戦する興行ビジネスとしてのeスポーツだ。
日本では言語の壁などもあり、まずは国内中心の展開にとどまりそうだ。19年に開催される「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」では、競技種目に「ウイイレ」など三つのゲームが採用される。eスポーツでサッカー競技人口を広げる狙いから、共催には日本サッカー協会も名を連ねる。この方式が定着すれば、国内のeスポーツはアマチュアが中心になることもあり得る。
海外市場と比べて、日本には長くeスポーツ市場そのものが存在しなかった。海外とはゲームを巡る文化的背景が異なる。スマホゲームの発展からも分かるように、日本のゲーム業界も内向き志向が強い。そのためeスポーツが日本独自の文脈で成長するのも理解できる。重要なのは中長期的な視点での取り組みと、eスポーツの振興を地道に図ることだろう。
こうした観点から注目したいのが、2月15~17日まで福岡市で開催される、格闘ゲーム中心のeスポーツ大会「Evo Japan 2019」(主催:EVO Japan 2019実行委員会)だ。公式サイトには福岡市の協力も示唆されていて、行政としての観光ビジネスや地域活性化の狙いも見える。他に福岡では福岡eスポーツ協会が発足し、18年12月には「第1回ももち浜eスポーツ選手権大会」(主催:テレビ西日本)が開催されるなど、地域ぐるみでの取り組みが進んでいる。
話題性先行で参入した企業や団体にとって、急速な拡大は期待できず、地道な取り組みが必要となることから、今年は厳しい年になるだろう。しかしeスポーツ元年と言われた18年に続き、今年はそれを定着させる大切な年でもある。20年が飛躍の年となるように期待したい。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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