超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、苦戦するスマホゲーム会社の現状について語ります。
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スマホゲーム業界が総崩れだ。ドワンゴのゲーム事業は象徴的で、2018年4~12月期の業績は、売上高900万円に対し営業赤字8億600万円と発表された。18年11月から提供している位置情報ゲーム「テクテクテクテク」の不振が原因で、当初ゲーム事業は19年3月期通期で売上高50億円、営業利益25億円の強気の数字を見込んでいた。だが収益化に結び付かず、開発費用を一括償却してこの状況となった。私もゲームを楽しんでいた一人だったので、このニュースには驚かされた。
18年10~12月期の決算発表では、減収減益、赤字転落の会社も目立った。「モンスターストライク」のミクシィは売上高約349億円(前年同期比17.2%減)、営業利益約62億円(同43.6%減)の減収減益。グリーも売上高約177億円(同4.3%減)、営業利益10億円(同6.5%減)とやはり減収減益だった。ディー・エヌ・エーは売上高約264億円に対し、約25億円の営業損失を計上した。「白猫プロジェクト」のコロプラも売上高約98億円、営業損失約2億円だった。
「パズル&ドラゴンズ」のガンホー・オンライン・エンターテイメントは、休眠ユーザーの掘り起こしと、グループ会社Gravityの「Ragnarok M」の東南アジア展開が貢献し、売上高約303億円(前年同期比59.2%増)、営業利益約93億円(同85.0%増)だった。しかし18年12月期通期(18年1~12月)の連結業績は、売上高約921億円(前年比0.2%減)、営業利益約265億円(同22.7%減)とやはり減収減益。スマホゲーム業界は15年をピークに市場規模が横ばいのまま、収益性が低下し続けている。
一方で18年のスマホゲーム業界を席巻したのが、中国の大手ゲーム会社ネットイースの「荒野行動」だ。18年10~12月期でゲーム事業の売上高約110億元(1763億円)で前年同期比27.6%増だった。「荒野行動」は最大100人のプレーヤーが生き残りをかけて戦うバトルロイヤル系のゲーム。日本での売り上げが約7割を占めるとされる。
なぜ日本で「荒野行動」のようなヒット作が生まれないのだろうか。技術力の違いもあるが、やはり「ガチャ」に依存するビジネスモデルが背景にある。
2時間見る映画と、CMがあるテレビでは演出法が異なるように、ビジネスモデルはコンテンツのデザインを規定する。ガチャモデルのゲームは、ゲームを遊んでガチャを引き、新キャラクターを入手して新たなゲームに挑むという、似た体験になりやすい。無料でもそれなりに遊べるため幅広いユーザーを取り込めるメリットはあるが、ゲームデザインの幅を広げることが難しい。そしてガチャモデル以上に収益性の高いビジネスモデルが現段階で無いことが、業界のジレンマになっている。
海外のスマホゲームでは、さまざまなビジネスモデルの組み合わせがある。背景の一つにあるのが、「ガチャをギャンブル」と見なす考え方が広がっていることだ。収益性は低下するが、それを補うために海外展開が前提となる。海外勢は世界に向けて広く浅く課金するが、日本勢は国内市場向けに狭く深く課金する構図だ。
さらに日本のスマホゲームでトレンドになっているのがIP(知的財産権)志向とストーリー志向だ。IP志向はアニメなど他のコンテンツとタイアップをして、より幅広いユーザーに認知度を高める戦略。ストーリー志向は家庭用ゲームに迫る重厚なシナリオを展開するものだ。両者はスマホゲームと親和性が高い半面、開発費が増加して海外展開を難しくする弱点がある。その結果、各社がこぞって宣伝広告費を投入して、限られた市場を奪い合いながら、収益性を悪化させる悪循環に陥っている。
18年は中国政府の規制や市場自体の成熟から、中国系ゲーム会社の日本市場に向けた営業熱が高まった。「荒野行動」のヒットもあり、従来のリスクの高い新規開発から、海外ゲームのローカライズ展開に切り替える動きもある。いずれにせよ、19年のスマホゲーム業界は、淘汰(とうた)と再編の時期を迎えるだろう。ユーザーが求めているのは新鮮なゲーム体験であり、どの国のゲームであるかは関係ないのだから。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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