女優の竹内結子さんが出演する映画「長いお別れ」(中野量太監督)が31日に公開される。今作は、70歳になる父親が認知症になったことをきっかけに、妻、長女、次女という家族それぞれが、自分の人生と向き合う姿を7年にわたって描くヒューマン作だ。竹内さんは、山崎努さんが演じる、認知症になった父・東昇平と、松原智恵子さんが演じる母・曜子の長女であるとともに、息子・崇の母・今村麻里を演じている。竹内さんに、役作りや今作に出演した収穫などについて聞いた。
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映画は、直木賞作家・中島京子さんの同名小説(文藝春秋)が原作。父・東昇平の70歳の誕生会が開かれることになり、久しぶりに東家に、長女・麻里と次女・芙美が里帰りする。そんな娘たちに、母・曜子が告げたのは、昇平が半年前に認知症になったということだった。娘たちの戸惑いをよそに明るく振る舞う曜子。そして、日に日に記憶を失っていく昇平。そんな4人と彼らを取り巻く家族の7年間の道のりが描かれている。昇平を山崎さん、曜子を松原さん、麻里を竹内さん、芙美を蒼井優さんが演じるほか、北村有起哉さん、中村倫也さんらが出演する。映画「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年)の中野量太監督がメガホンをとった。
今回のオファーが来たとき、竹内さんは自分自身の身内や知人に認知症を患う人がいなかったことから、「軽い気持ちで踏み込める内容ではないし、いいのだろうか」と不安を感じたという。しかし、そのことを中野監督に伝えると、「いいんです。そのままでいらしてください」という返事をもらい、その言葉に励まされ、「まずはよいしょと(現場に)飛び込んでみよう」と心を決めたという。
今回演じた、夫(新=しん、北村さん)の転勤で息子と米国に移住し、慣れない生活に戸惑っている麻里というキャラクターは、竹内さんにはどう映ったのか。もともと「無精」という竹内さんは、「逆に、麻里の環境をうらやましいと思ったり、強制的に英語を学べるチャンスを得たんだよ、海外で生活するなんて面白そうじゃないと思ったり」したという。
そんな考えの中で、「麻里はきっと、自分の戸惑いに、旦那さんがもうちょっと気づいてくれたらなあと思っているんです。もしかしたら旦那さんは、そういう麻里の思いに気づいているのかもしれないですけど、麻里には旦那さんが、『何を戸惑う必要がある?』と切り捨てているように見えてしまう。感情的になることすら無駄、みたいな」と、麻里の思いを推測し、そういう麻里を演じながら、竹内さん自身、「なんだろう、この寂しくて悲しい感じは……」と思ったという。そのとき、「そうか、これが麻里の気持ちなのかもしれないと、共感できた」と明かす。
ならば、そんな男性と、なぜ麻里は結婚したのか。その問いに、「(夫が)自分にないものを持っていたからだと思います。『そのインテリジェンス、すてき!』と感じたんじゃないかな」と笑顔で麻里の気持ちを代弁。「それに、(新は)人としてはとても誠実な方ですし、いわゆるチャラついていないというか、そこに安心感を見いだしているのではないでしょうか」と分析した。
息子・崇(幼少期:蒲田優惟人=かまた・ゆいとさん、青年期:杉田雷麟=すぎた・らいるさん)の母親役を演じる上で考慮したことを尋ねると、「正直なところ特にないんです」と言葉を返した竹内さん。竹内さん自身、息子がいる。「(映画の中の)息子の年齢が私の息子よりも年上なので、年頃になったらどういうことが起こるのか興味もありました」と語り、息子役の杉田さんや蒲田さんとコミュニケーションをとることで役作りをしていったという。
そんな麻里と新という夫婦がいる一方で、父・昇平と母・曜子を、理想の夫婦像ととらえる人もいるのではないか。その指摘に、竹内さんはうなずきながら、「娘の立場だと、母を母としてしか見ていないんですけど、父と母は結婚する前は、恋人であったのだなあと、そういうことを感じるタイミングが(撮影)現場で何度もありました。松原さん(演じる母)が、(山崎さん演じる)父のことを恋人のように思いながら接しているのを見て、すてきだなあと感じたり、そういう母がいるから父もこうやって生きてこられたんだなあ、この2人はいい夫婦だな、いい夫婦であれば、いい家族にもなれるのだなと思ったりしました」としみじみと語る。
実はオファーを受けた当初は、麻里を演じることで、夫婦や親子、姉妹という、普段何気なく接している家族というものの関係性に、新たな気づきを与えてくれるのではと期待したという。ところが演じ終えた今、「家族とはこうあるべきとか、こういうふうに家族が変化していったらこうやって接するべきだ、みたいな“理想像”はないんだなということを発見しました」と明かす。しかし、理想像が見つからなかったからといって、今作での収穫はない、ということではない。むしろ、「家族もそれぞれが時間と共に移ろっていくもので、それと一緒に自分も変われたらいいなという思いが残りました」と充実した表情を浮かべた。
そんな竹内さんにとって女優業とは、「自分を知る機会を得られるというか、役があると、自分と(役が)どう違うのかという目線が得られたりする」ものだという。なんでも、「以前、先輩の女優さんが、自分を知る作業でもあるとお話しされていて」以来、その言葉が竹内さんにとっての一つの軸になっているようだ。
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