5月29日の「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系、金曜午後9時)にて地上波初放送される映画「キングダム」(佐藤信介監督)で、主演を務めた山崎賢人さん。今年で役者生活10周年を迎えた山崎さんだが、その輝かしいキャリアの中でも、大ヒットマンガを壮大なスケールで実写映画化した同作で、激動の世に大将軍になる夢を抱く主人公・信を気迫たっぷりに演じ切ったことは、見る者に大きなインパクトを与えた。少女マンガの実写化作品におけるイケメンキャラでブレークしてから、どんな大役にも立ち向かい、俳優道をまい進してきた山崎さん。持ち前のピュアさとひたむきさで、周囲にも刺激を与え続けてきた彼の道のりを振り返ってみたい。
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1994年生まれ、現在25歳の山崎さんは、2010年の連続ドラマ「熱海の捜査官」で俳優デビュー。ブレークのきっかけのひとつとなったのが、少女マンガを実写化した2014年公開の映画「L・DK」だ。剛力彩芽さん扮(ふん)するヒロインの葵と、山崎さん演じる学校の王子的存在のイケメン・柊聖が織りなす青春恋愛コメディーで、山崎さんは葵を翻弄(ほんろう)しつつも、奥底に潜んだ優しさで彼女を包み込むという、ツンデレの権化のような役柄をクールに演じた。今や胸キュンシチュエーションの定番となった“壁ドン”の流行の火付け役となったとも言われる作品で、“壁ドン”が「2014 ユーキャン新語・流行語大賞」のトップテンに選ばれた際には、山崎さんが授賞式に出席している。
そののち、「ヒロイン失格」「orange -オレンジ-」(共に2015年)など次々と少女マンガの実写化に起用され、この2作の演技で「第39回日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞。受賞スピーチでは「ここからがスタート」とすがすがしい表情で決意表明した。翌2016年公開の「オオカミ少女と黒王子」では、恋愛映画の名匠・廣木隆一監督のもと、俺様発言を連発する“黒王子”に扮(ふん)し、少女漫画の実写化とはいえ「自然に出てこないせりふは言わなくていい」というスタンスでリアルを追求する廣木監督の要求に食らいつくなど、新たな挑戦を果たした。
劇中では王子様キャラを演じることの多い山崎さんだったが、イベントなどで見る彼は、いつも照れくさそうに観客の声援に応える姿が印象的。「オオカミ少女と黒王子」の舞台あいさつでは、「3回まわってお手からワンだな」と劇中の“ドSセリフ”を生披露するも「緊張しちゃった」とはにかむなど、そのギャップも女性ファンのハートをがっちりとつかんでいた。
山崎さんは、少女マンガだけでなく、少年マンガの実写化にも抜てきされていく。連続ドラマ「デスノート」(日本テレビ系、2015年)、映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」「斉木楠雄のΨ難」(共に2017年)など、主役として「週刊少年ジャンプ」(集英社)作品の実写化に参加した。人気マンガの実写化で主演を担うプレッシャーは、並大抵のことではないだろう。「ジョジョ」の製作会見で「頑張るしかない」と緊張の面持ちを見せていたことも印象深いが、サッカー部で培った負けず嫌いな一面とチャレンジ精神もあるのか、山崎さんは高いと思われる壁にも立ち向かっていった。
その気概がどんどん新境地を切り開くこととなり、福田雄一監督のもとでコメディー映画初主演を担った「斉木楠雄のΨ難」ではピンク頭にアンテナをつけてギャグマンガの住人を体現し、個性派ぞろいの福田組で振り切ったコミカルな表情も披露。期待以上の表現を見せた山崎さんに福田監督も、「コメディーに向いている!」と大喜びで、映画「ヲタクに恋は難しい」(2020年)でも山崎さんを迎えている。
役所広司さんと共演した連続ドラマ「陸王」(TBS系、2017年)、三浦友和さんと共演した映画「羊と鋼の森」(2018年)など、“働くこと”をテーマにした人間ドラマで実力派のベテラン勢と共演する機会にも恵まれたことも、山崎さんにとって大きな糧となったはず。「羊と鋼の森」ではピアノの調律師として成長していく青年を演じた山崎さんだが、俳優業で悩んできたことなど、自身の経験をキャラクターに重ねたと舞台あいさつで話していた。当時「『こつこつです』というせりふが印象的。こつこつやることって本当に大事なんだなと思った」とも明かしており、華々しく見えるキャリアの裏側で地道な努力を続けていたのだ。
どれだけ活躍するようになっても、トーク番組やイベントで目にする山崎さんから感じるのは、真っすぐでピュアな魅力だ。いつも朗らかな雰囲気で周囲を和ませている。サヴァン症候群の主人公が、小児外科医を志す姿を描く連続ドラマ「グッド・ドクター」(フジテレビ系、2018年)は、積み重ねてきた努力と彼自身のピュアな魅力が見事にハマり、「山崎賢人の演技、すごい!」とSNSでも話題になるなど、大いに反響を呼んだ。彼の実力をしっかりと証明した、転機となる作品だったように思う。
映画「キングダム」で、信を演じることが発表されたのは、「グッド・ドクター」が放送終了してすぐのこと。製作報告会見で山崎さんは、「原作の持っている熱さを胸に、死ぬ気で、身を削る思いで撮影に挑んだ」と並々ならぬ思いを打ち明け、信を演じるために食事制限をして肉体改造したことも告白したが、原作者の原泰久さんも彼のピュアな魅力に心を打たれた一人。「ジャンプフェスタ」のトークイベントで原さんは、「素直で、ストレートに感情を伝えて、本当に信みたいな人。主役なのにみんなにいじられる(笑い)。でもそこに愛がある」と撮影現場で見た山崎さんの印象を楽しそうに語り、「仕事が続いているのは、『この人と仕事がしたい』と思わせる力があるから。演技もすごい。信はハマり役」と興奮気味に太鼓判を押していた。
ひたむきな姿は、いつでも人を魅了するもの。山崎さんが真ん中に立つことで、周囲も引き上げられていく。彼はそんな力も持っているように感じる。本作で一人二役を演じて「第43回日本アカデミー賞」で最優秀助演男優賞に選ばれた吉沢亮さんは、受賞スピーチで「僕が優秀助演男優賞をもらい、最初に連絡をくれたのが、主演の山崎賢人」と山崎さんの人柄の伝わるエピソードを話し、「彼と一緒にお芝居をしたことで、こうやって僕がいただける結果になった」と受けた影響を吐露。これまで複数の作品で共演している新田真剣佑さんも、以前インタビューで「山崎賢人は刺激の塊」と評していた。
仲間とともに高みを目指す信と同じように、役者道を駆け上がっている山崎さん。今年は人生初の無精ヒゲを生やしてダメ男を演じた映画「劇場」の公開も控えるなど、思い切った挑戦を続けている。30代、40代とどんな俳優になっていくのか、大いに楽しみだ。(成田おり枝/フリーライター)
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