ダンダダン
第7話「優しい世界へ」
11月14日(木)放送分
小松左京さんのSF小説「日本沈没」が原作のアニメ「日本沈没2020」がNetflixで配信がスタートした。これまでも映像化されてきた名作で、アニメは「夜明け告げるルーのうた」「四畳半神話大系」「映像研には手を出すな!」などで知られる湯浅政明さんが監督を務めた。湯浅監督は、これまで独創的、唯一無二の映像表現で見る者を驚かせ、魅了してきた。湯浅監督が「日本沈没」を作ると聞いて、一体どんな作品になるんだ!?と胸を躍らされた人も多いはず。湯浅監督に制作について聞いた。
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「日本沈没」は1973年に発表された小松さんの小説。同年、公開された実写映画は配給収入が約28億2000万円を記録。2006年には、草なぎ剛さん、柴咲コウさんが出演する実写映画も公開され、興行収入が約53億4000万円を記録するなど大ヒットした。「日本沈没2020」の舞台は2020年で、日本で突然、大地震が起こる。大混乱の中、東京都内に住むごく普通の家族、武藤家の歩と剛の姉弟らは東京からの脱出を始めるが、沈みゆく日本列島は、容赦なく武藤家の面々を追い詰める。極限状態で突きつけられる生と死、出会いと別れなどが描かれる。全10話。
湯浅監督は「日本沈没」のアニメ化のオファーを受け、まず「面白い」と感じたという。
「全く考えていなかったジャンル。パニックもので、今までとはタイプが違う。どう作るのか分からないところが面白い。どうにかできるように考えるのが面白そう」
「日本沈没2020」はタイトルの通り、2020年が舞台だ。原作が発表されたのは半世紀前でもある。
「『日本沈没』が発表されたのは、高度成長のイケイケの時代。そんな時代に何か落とし穴があるかもしれない……と書かれたのだと思います。2020年になり、日本の経済のピークが過ぎ、沈没するんじゃないか……と。沈没したくないけど、沈没するかもしれない。小松さんは沈没後の世界も描いていますが、『日本沈没2020』は、その後の世界を含めて描くことに意味があると思っていました。新たな物語、家族を描くことが面白いと思いました」
湯浅監督は「国って何だろう?」と改めて考え、物語の軸にしようとした。
「これまでの『日本沈没』とは違った視点を取り扱おうとしました。人種問題、国家紛争もある中で、国って何だろう?と。生まれたところが国なのでしょうが、国には普段、恩恵を受けつつも『関係ない』と言いながら、日本の選手が活躍すればやっぱりうれしい。ナショナリズムに気をつけながら、国とは何か? 自分が立っている地面は何だろう?と考えていました。それがなくなることで、何だったかを確認したい気持ちがあり、そこを軸にしています。震災の時にも感じたことを考えながら、描こうとしました」
「日本沈没2020」はリアルだ。人が簡単に死んでしまうし、人々は絶望的な状況の中で感傷的になる時間もないまま、パニックに巻き込まれてしまう。クールかつ俯瞰(ふかん)的な視点で社会を描いている。
「自分自身にそういう視点があるのかもしれません。起こったことを受け止められないまま物事が動くことってありますよね。誰かが死んだり、すごいことが起きても、咀嚼(そしゃく)する時間もなく、どんどん物事が進んでいく。何かが起きているけどよく分からないまま、その場その場を何とか生き抜いていこうとする人々を描こうとしました。実務として国を動かしている人ではなく、普通の人々の視点で。いろいろなタイプの人が出てきます。特殊な人も普通の人もいる。日本が大好きだったり、嫌いだったり、気にしていない人もいるし、海外の人もいる。何が起こるか分からないし、誰がいつ死ぬか分からない」
湯浅監督の作品は、独特の映像表現が注目されがちだが、これまでも社会、人間関係を丁寧に描いてきた。
「特に社会を……というわけでもないですし、子供の頃は社会にそんなに興味がなかったのですが、いろいろ考えたり日々発見もあって、それが興味につながっています。俯瞰気味に見えてるものを主観的に描く感じです。『日本沈没2020』の主人公たちに見えているように」
映像表現もリアルを目指した。過去に湯浅監督は「(それぞれの作品に挑戦が)一つはあった方がいいと思っているんです」と語ったことがあった。「日本沈没2020」の挑戦とは……。
「シンプルにリアルっぽく描こうとしました。キャラクターもどこにでもいそうな家族ですし、ありのままに描くのが挑戦でした。淡々と出来事が起こっていく中で、キャラクターの反応もデフォルメせずにやっていれば、自分が考えるリアルになるのかな? とんでもないことも起きるけど、表現はそんなにエモーショナルじゃない。出来事が染みこまないまま進んでいく。そんなシーンを重ねると、アニメーションとしてリアリティーを感じるかもしれない。今まであまりやっていなかったので、伝えるのが難しいところでした」
湯浅監督は「いつも前向いて、できることをやっていく。人間らしさのある人々を描きました」とも語る。絶望的な状況が描かれるが、希望もある。「日本沈没2020」は一筋縄ではいかない。まさに怪作にして快作に仕上がった。
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