宮崎吾朗監督:「アーヤと魔女」で今までにないジブリヒロイン したたかさも

「アーヤと魔女」の一場面(C)2020 NHK, NEP, Studio Ghibli
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「アーヤと魔女」の一場面(C)2020 NHK, NEP, Studio Ghibli

 スタジオジブリが作る初の全編3DCG長編アニメ「アーヤと魔女」が、12月30日午後7時半からNHK総合で放送される。同作の監督を務めるのが、劇場版アニメ「ゲド戦記」「コクリコ坂から」で知られる宮崎吾朗さんだ。同作の主人公のアーヤ・ツールは、周囲の人を操って自分の思い通りにさせることが特技で、宮崎吾朗監督は「これまでのジブリにはいなかったタイプのヒロイン」と感じているという。ともすれば嫌な女の子にも見えてしまうアーヤだが、「生きていく上でのしたたかさは、いつの時代も必要」と語る。新たなヒロイン・アーヤの魅力を聞いた。

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 ◇“人を操る”新たなジブリヒロインの強さ

 「アーヤと魔女」は、劇場版アニメ「ハウルの動く城」の原作を書いた英国作家の故・ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんの児童文学「アーヤと魔女」が原作。自分が魔女の娘とは知らずに孤児院で育った10歳の少女・アーヤがある日、奇妙な家に引き取られ、意地悪な魔女と怪しげな男と共に暮らすことになる。誰もが自分の思い通りにしてくれる孤児院で育ったアーヤは、生まれて初めて“思い通りにならない”という壁にぶつかるも、周囲の人を操り自分の思い通り思いさせるという特技で反撃を始める。

 原作の原題は「EARWIG AND THE WITCH」。EARWIGは和訳すると「ハサミムシ」の意で、宮崎吾朗監督は「イギリスの古い言い伝えだと、寝ている間にハサミムシが耳の中に入って脳みそを食べる。それが転じて耳元でささやいて人を操るというニュアンスがある」と説明する。英語の原作ではEARWIGがヒロインの名前になっており、日本語版の「アーヤと魔女」(徳間書店)でアーヤ・ツール(操る)と訳された。

 アーヤは、一緒に暮らすことになった魔女のベラ・ヤーガや、謎の男・マンドレークといった大人たちを意のままにするためにさまざまな策を講じる。宮崎吾朗監督は、原作を読み、「『人を操る』というのは印象が悪いし、下手すると本当に嫌な子だなと思われる可能性もある」と感じたといい、アニメ化する上では「アーヤが持っている力が、生きていく上でのしたたかさにちゃんと結びついていればいい」と考えた。

 「例えば自分に与えられた状況があって、『この人と付き合わなければいけない』などいろいろな制約がある中で、おとなしく我慢してやっていくべきなのかというと、そうではないだろうと。自分の知恵や行動力によって少しでも上にはい上がって、自分が息ができるようにすることはいつの時代でも必要なのではないかと思うんです。アーヤは、ベラ・ヤーガやマンドレークに対して可愛い子ぶってみたり、仕掛けをしてみたり、用意周到に自分の身を守るためにどうすればいいんだと考えて実行する。一面的でない行動力や思考力を備えている子として描こうとしました」

 アーヤはしたたかではあるが、「自分の目的のために他人を陥れるわけではない」という。アーヤは、自分に魔法を教えてくれる代わりに魔女の助手になり、指示された仕事をこなそうと奮闘する。

 「割とちゃんとやっているんですよね。『これをやれ』と言われたら働くわけです。言われたことはちゃんとやって、その上で魔法を教えてくれと。奪ったりするわけではなくて、自分が出した分だけもらうという、ギブ・アンド・テークの関係を明確にしようと思いました」

 ◇今の子供たちへの思い 「自分がちゃんと息ができるように」

 アーヤに対して、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは以前「アーヤは誰かに似ていると思ったら、この作品の監督である吾朗君そのものでした」とコメントしている。宮崎吾朗監督は「口が悪いところが似ているのかな」と笑顔を見せ、「原作を読んで、アーヤは清く正しく美しいヒロインにはならないと思いました」と振り返る。

 「アーヤは、自分がこうしたい、こうなりたいということにすごく正直な子なので、そのためにありとあらゆる手段を尽くそうとする行動派の女の子。そこはいろいろなジブリヒロインとの共通点でもあり、違うところでもある」

 宮崎吾朗監督は、今の子供たちにも「アーヤのようにバイタリティーを持って生きていってほしい」と語る。

 「今の子供たちは大変だと思うんです。生活態度も含め全てが点数化されて、かつてより豊かに見えるけど、かつてより制約が多いだろうし、頭数の比較だけしてみても、子供の数より大人の数が多い。今は世の中のイニシアチブをとっているのは中高年なので、若者は良い子に、素直にしているしかないのかと。でも、それでいいということだけではない。そんな中で、自分より上にいるたくさんの大人たちを自在に操って、自分がちゃんと息ができるように生きていくというのは大事なことなんだろうなと思うんです。みんながアーヤだったら困りますけどね(笑い)」

 一方、「アーヤと魔女」には「たまには子供に操られるのもいいんじゃないの?」という大人への問いかけもあるという。

 「分かったような顔をしていろいろ言っているけど、実は時代遅れになっていたりとか、自分が頭が固くなっているだけということもありますよね。『子供が言っていることのほうがよっぽど楽しいぞ』ということもあるわけで、それに操られることも実は大事なんじゃないかなと」

 賢く、強く、したたかなヒロイン・アーヤ。「アーヤと魔女」は、子供にも大人にも新たな気付きと日々を生き抜く活力を与えてくれるのではないだろうか。

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