ふれる。:脚本・岡田麿里インタビュー 本音を出しづらいSNS時代 本当の友達とは? 長井龍雪監督、田中将賀と3人だから描けるもの

「ふれる。」の脚本を手掛ける岡田麿里さん
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「ふれる。」の脚本を手掛ける岡田麿里さん

 「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(あの花)」、「心が叫びたがってるんだ。(ここさけ)」「空の青さを知る人よ(空青)」。秩父を舞台にした青春3部作を手掛けたクリエーター3人の最新作となるオリジナル劇場版アニメ「ふれる。」が公開中だ。東京・高田馬場を舞台に、不思議な生き物“ふれる”と暮らす青年3人の友情が描かれ、青春3部作と同じく長井龍雪さんが監督、岡田麿里さんが脚本、田中将賀さんがキャラクターデザイン・総作画監督を務めた。本作で、岡田さんは「本音を話すということ」「本当の友達とは?」と問い続けたという。「ふれる。」に込めた思いを聞いた。(※インタビューには本編のネタバレが含まれます)

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 ◇“ふれる”のもう一つの力 コミュニケーションへの思い

 「ふれる。」は、同じ島で育った幼馴染の小野田秋、祖父江諒、井ノ原優太が20歳になって上京し、東京・高田馬場で共同生活を始めることになる……というストーリー。バーでアルバイトをする秋、不動産会社の新卒社員の諒、服飾デザイナー志望の専門学生の優太は、生活はバラバラだが、島からつれてきた“ふれる”という不思議な生き物の特別な力によって心はいつもつながっており、口にしなくてもそれぞれの言葉が流れこんでくる。“ふれる”で結びついた3人の友情は、隠された“もう一つの力”によって変わっていく。

 秋ら3人は、“ふれる”の力により、互いに直接触れることで、心の声が聞こえ、幼少期から本音が筒抜けの状態で過ごしてきたはずだった。しかし、ある事件をきっかけに友情が揺れ動き始めた時、互いの心の声が聞こえなくなる。それは、“ふれる”の隠されたもう一つの力、相手にとってマイナスの言葉をブロックして聞こえなくする力によるものだった。お互いに本音を言い合えていたはずなのに、実はそうではなかったという事実を知り、3人は戸惑うことになる。

 “ふれる”のもう一つの力を描く上で、岡田さんが影響を受けたのは、SNSの存在だった。

 「SNSで、人を傷つける言葉を取り除いてくれるサービスがあると聞いて、それは面白いなと思ったんです。『本音で接したい』『自分を理解してほしい』という欲求は、多くの人が持っていると思うんです。思ったことを調整して相手に伝えることは、人間関係にとって必要とわかっているからこそ、本音に憧れるというか。だからこそ匿名性のあるところは、自分をわかってほしい人の気持ちが溢れて過剰になってくる。本音の表現の仕方が、すごく難しい時代なんだろうなと」

 秋たちは、本音が“抜かれている”ことに気づいていないが、本音で接し合っていると思っている。だからこそ友情が生まれたと感じているが、岡田さんは「錯覚というか、現実から多少目をそらさないと、友達でいられない。やはり本音で接するのは難しいのではないか。ただ、本当にそうなのかな?」と考え続けた。

 「だからこそ“ふれていく”作業というか。何かを否定するようなお話にはしたくないなと思ったんです。『ふれる。』では、“ふれる”がいることで起こっていることについて、『そんなの本当の友達じゃない』というキャラクターもいれば、『それでいいじゃないか』という主人公らしくない主人公がいる。そうしたコミュニケーションへの考え方、それぞれの思いみたいなものを、アニメーションで見せられないかなと考えました」

 ◇SNS時代の友情物語

 ストーリーが進むにつれ、秋ら3人は互いの心の声が聞こえない状態から、“ふれる”のブロック機能も解除された、全てが筒抜けの状態になる。本当の意味での本音を知ってしまった時、友情はどうなってしまうのか? そうした問いかけも「ふれる。」には込められているように感じた。

 「まだ脚本が書き終わる前、『こういう話にします』と提出した時に、『じゃあラストはどうするんだ?』という議論がやはり起こりました。3人は友達じゃなくなるとか、3人は一緒のままとか、いろいろな意見が出たんです。そうなってきた時に『とりあえず書いてみたい』と。彼らが動くままに書いてみて、この子たちはどうなるんだろう?と、納得度を見てみたいと思いました」

 タイトルにもなっている“ふれる”には、「本音に触れる」「お互いの心に触れる」といった意味合いが含まれているという。岡田さんの中には、不思議な生き物“ふれる”にも特別な思いがあった。

 「長井監督は『あくまで3人の話である』と話していて、では“ふれる”はどういう気持ちを持ってるんだろう?と。ハリネズミみたいなルックスが出来上がった時に、トゲがあって“触れられない子”なのだと。誰かをつなげたいと思っているのに、自分はつながれない。でも、誰かがつながることで、自分自身がこの人たちに必要だと思われるという。脚本を描く上では、“ふれる”の思いもしっかりと意識していきたいと思いました」

 “ふれる”は、触れてみたいけど、触れると痛みが伴うこともある“本音”を具現化したような存在にも思えてくる。

 「本音を見せるということは、友達関係においては『ここまで言っても大丈夫なら親友ってことだよな』『カードをここまで見せてくれているなら嫌われてはいない』というような、安心材料でもあるというか。今回は正統派な友情物語というよりは、お互いを探って疲弊していく部分をもちあわせた、現代の友情なのかなとも感じています」

 ◇青春物語、現代劇を求め続けられる 3人の冒険

 青春3部作を経て作られた「ふれる。」。岡田さんは、長井監督、田中さんとの「3人だからこそ作れた物語」だと、改めて実感しているという。

 「私たちの座組みは青春物語であること、現代劇であることを企画段階から求められるんですよね。以前は、この3人でも違う題材に挑戦したいという欲求がありました。でも最近は、そこに面白さを感じるようになってきたんです。それこそ『あの花』は、最初に企画を出した時、絶対通らないと思っていました。オリジナル作品としては引っかかりが弱くて、地味だともいわれましたし。でも、私たちはそれを求められている。他では通らないような話をやらせてもらえるのは、逆にすごく挑戦的なことなんだと」

 岡田さんは、長年の付き合いでお互いの好き嫌いもわかってきたといい、長井監督については「とにかく『やりたくない』がすごくはっきりしている」と語る。

 「かなり難しい監督だと思うんですが、私も相当偏った人間なので人のことは言えないなと(笑)。田中さんもふくめて、これだけアクの強い3人が長年一緒にやれているのはすごい事だなってあらためて思いますね。そして、いつまでも刺激を受けあえるというのも奇跡的で。まわりのスタッフに本当に恵まれているからこそ、成り立っているのもありますね。良い意味でも悪い意味でも、ほかにはない座組みなのかなと思います」

 長井監督、岡田さん、田中さんが描く現代の友情物語。「ふれる。」に込められた思いに触れてみたい。

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