行定勲監督:「いとおしいものができた」 携帯ドラマ「女たちは二度遊ぶ」劇場公開

「女たちは二度遊ぶ」について語った行定勲監督
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「女たちは二度遊ぶ」について語った行定勲監督

 映画「GO」「世界の中心で、愛をさけぶ」などの行定勲監督(41)が手がけ、携帯電話専用放送局「BeeTV」で配信されたドラマ「女たちは二度遊ぶ」が3日から1週間限定で劇場公開される。行定監督が初のケータイドラマに挑んだ作品で、全5編のオムニバス。相武紗季さん、水川あさみさん、小雪さん、優香さん、長谷川京子さんら豪華キャストが演じる5人の“忘れられない女”と、男たちのラブストーリーが描かれている。毎月20番組以上を配信する「BeeTV」で60日連続でダウンロード数1位を獲得し、総ダウンロード数は累計900万を突破するなど同局の番組史上記録を次々と塗り替え、台湾・台北で開かれた劇場公開映画の映画祭「Taipei Film Festival」でプレミア上映されるなど、ケータイドラマとしては異例の展開を迎えた同作の行定監督に、ケータイドラマや映画に対する思いなどを聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 −−ケータイドラマとして作った作品が劇場公開されるのは、どんな気分ですか。

 そもそも映画では、この企画は通らなかったんです。短編を短編集として作って劇場公開する企画を何年か前に立ち上げたことがあって。それはかなわなかった。だけど「BeeTV」では、それがよかったんですよね。むしろ、また違ったアプローチができたし、自分の中で満足度は高い。ケータイが救ってくれた作品が、皮肉なことに、改めて映画館でやれるっていうのは、僕としてもなんかすごくうれしいです。

 −−映画として作る作品と、ケータイドラマとして作る作品で気持ちの上で異なる部分はありましたか。

 映画だと、何かを残そうとするんですよ。(今回は)ケータイでやる映像作品ということで、やりたかったことをやってみようかなという実験的な雰囲気。肩の力を抜いてやると(自分にとって)案外いいものができちゃったなっていうような感じで、この作品には、自分にとってすごくいとおしいものができたっていう自負がある。そういう作品が、いつも何かを訴えかけようとして作っている映画という自分のフィールドに、ひょんなことから舞い戻ってきてどう見えるんだろうというのは、とても興味があるし、(成り立ちが)意表をついてると思いますね。

 −−900万以上のダウンロード数を誇って、劇場上映という異例の形になりましたが、そのポイントは。

 いちばん嫌だったのは、ケータイだからこんなことでいいだろうっていう発想。大きい画面だと、迫力とかスペクタクルみたいなものとか、感情が確実に撮れる。画面が小さくなればなるほど、もっとシビアなんじゃないかと思ったんです。飽きちゃう絵作りをしちゃいけないし、画面がパカパカと変わればいいとか、アップばかりあればいいというものでもない。そこに空気感とかが存在していないと、豊かさは何も伝わらない。いろいろ考えに考えた結果、「いつものように撮る」というところに行き着いた。その割には、スタッフの努力もあって、必要以上のことをしている。「ケータイだから必要以上に面白くしよう」という気持ちが働くんですよ。映画だともうちょっと抑え気味に確実に誠実に伝えようとするんだけど、ケータイユーザーを軽視しちゃいけないと思うから、余計に面白くしてやろうとか。映画じゃ、この展開にしないよねっていう(こともあった)。

 −−「映画ではこの展開にしない」というのは。

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 小雪さんのところがいちばんぶっ飛んでて、原作にもないような展開になっていく。ファンタジーになって、歌まで作って、歌って、ライブシーンも作って、合成するから河口湖まで行かなきゃいけないっていう(笑い)。予算(の範囲)では、まずあり得ないんだよね。映画だと「それはやる必要ありますか?」となる。(内容に)不条理な部分がすごくある。(ケータイドラマだから)もしかしたらそういうのがあっても面白いかも、もう一回見てみようって思う(かもしれない)とか。そういう発想です。

 −−ほかにポイントはありますか。

 (ケータイドラマは)ユーザーと僕らが、個人と個人で対峙(たいじ)してる感じでしょ。観客が一人一人なんですよね。個人に訴えかける話の方が絶対いいと思った。ケータイで見るのはスペクタクルとか、大きな何かじゃなくて、ひょっとしたらその個人(登場人物)が自分なのかもしれないって重なるようなものを描かないとダメだろうなと思っていました。自分と重なる人物が5人の女の中に絶対いる。この小さい画面の一枚一枚の絵に託さないと、(ドラマを)ダウンロードしないですよね。「つまんないから、やめちゃおう」って、1話を見ても2話目には行かないんですよ。何となくこういう話なんでしょとか、人に聞いたらもう見なくていいとか、そういうのが嫌だった。個人だからこそ、この画面で見てるからこそ、集中できるものはなんだろうっていうのが、意図だったかもしれないですね。それがちゃんと届いたのかなと。

 −−そもそもケータイで映像作品を発表することに興味はありましたか。

 興味はないです。いちばん大きく思うのは、今、映画館で「映画」といって流れているヒット作の大半はテレビドラマ出身の監督で、プロデューサーにこだわりがあって、それを上手に撮る監督たち、テレビで鍛えられた人たちが大半を占めている。映画にこだわりを持っている人たちはどんどんスクリーン数が減っていて、拡大されない。(テレビ出身の)彼らがいないと映画界はダメで、僕らの(映画界という)フィールドは政権交代しちゃってる。でも(映画監督もテレビ出身の監督も)観客にとっては同じなんですよね。面白ければいい。携帯のフィールドは始まったばっかり。前例がないところほど自由なところはない。僕としては(テレビ局のディレクターが映画界に進出しているように)僕も同じようにもうひとつのフィールドを持ったら、どういう気分になるのか知りたかったんです。

 −−今作には豪華な女優陣が出演しています。相武さん、水川さんの起用の意図は。

 相武紗季ちゃんはCMで見て、かわいかった(笑い)。愛くるしいけど、きっとこの人、男っぽいサバサバした子なんだろうなというのも分かって、あのCMのスマイルを逆手にとれないかなって。水川さんは、巧みな女優さん。現場では、人に気を使って、みんなを笑わせて、自分から率先して笑ってる。映画慣れしてるし、映画のスタッフからもかわいがられるキャラクターなんです。そんな彼女が(現場で)ぼーっとしてる瞬間があるんですよ。それがこの映画のキャラクターの背景になっています。

 −−小雪さん、優香さん、長谷川さんはいかがですか。

 小雪さんは世界的な基準で美人。みんな本当の美人って苦手なんです。踏み込めない領域があるような気がする、高いところにいる、浮世離れしてるっていうか。本人はものすごくフレンドリーな人なんですけど、小雪さんの内面じゃなくて醸し出してるもので勝負したいと思った。優香ちゃんは、雰囲気や声とか、とにかく好きで。かわいいし、人気があるんだろうけど、取るに足らないよくある女をやらせてみたかった。ものすごくよかったですね。怖い女ができました。女の業っていう感じ。長谷川さんはいろんな作品を見ても、彼女の親近感とか、コメディエンヌぶりが非常に光ってる。自分が引っ張っていく役じゃなくて、受け手としてのコメディエンヌ。それに合わせてシナリオを書いて。それがうまく反映されたかなと思います。

 −−ユースケさん演じる小説家が登場しますが。

 「BeeTV」側からの要望で、ナビゲーターがほしいと。最初に言われたときには、「世にも奇妙な物語」のタモリさんみたいなキャラクターを作っても映画じゃなくなるよねとなって、(ナビゲーターも)一つの物語としてうまく完結できないかというアイデアを脚本家が考えてきた。(小説家は)喫茶店で人の忘れられない女の話を聞いていて、もしかしたらみなさん(観客)が見るその女の話は、途中からは作家の妄想にもなっていて、それを僕らが見たとか(も考えられる)。いろんな男の経験を聞いて作家は、自分はどうなんだって思い返したときに自分の奥さんはつまらない女だとオチがついたら、一つの作品になるなって。夏目漱石の『夢十夜』みたいな発想ですよね。

 −−携帯ドラマでは分割されていた作品が、映画館では一度に見られることになります。

 (一気に見せられないことへの抵抗は)本来はあるんだけど、これだけの結果が出て、みんなは小出しに見ることもあんまり問題はないんだなと(分かった)。(携帯ドラマが)映画とひとつ大きく違うのは、すごく気に入った人たちは「通しで見てみたいな」と思う発想がある。それが面白い。(一度見たものを)通しで見るっていうのは、また違うもの。通しで見るから全体像が見えてくる。(携帯ドラマを)映画館でやるっていう、“前例”になれて、よかったなと思いますね。

 −−今後も携帯ドラマにチャレンジすることはある?

 アイデアは(ある)。(携帯ドラマの)勝ちパターンみたいなものがあるのかどうかっていうのは1回ぐらいじゃ分からない。世の中、物珍しいと盛り上がるし。本当にこれが定着するかどうかは、これからなんです。ユーチューブとか、ニコニコ動画とかが世の中にあふれていって、短編の需要は増えてるし、みんなに勝負権があると思ってる。今回のドラマも5編を切り売りしたり、地上波で放送することもできる。日本は短編っていう国家じゃないけど、今回のようなコンテンツが増えていけば変わっていくと思う。

 <プロフィル>

 ゆきさだ・いさお。68年8月3日、熊本生まれ。97年に「OPEN HOUSE」で長編劇場映画デビュー。第2作「ひまわり」で第5回釜山映画祭で国際批評家連盟賞を受賞し、「GO」(01年)で日本アカデミー賞監督賞をはじめ、数々の映画賞を受賞。「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)、「北の零年」(04年)、「春の雪」(05年)、「クローズト・ノート」(07年)などのヒット作を生み出した。「女たちは二度遊ぶ」は9日、DVD発売される。

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