黒川文雄のサブカル黙示録:ファストゲームの隆盛とエンタメの神髄

 新聞の経済面に並ぶキーワードは「新興国」「低価格化」「再編成」。成長曲線が望めない現状に対し、新しいニーズが醸成可能な「新興国」の市場開拓と生産拠点のシフトが始まっている。低価格路線は、ゴールなきチキンレースの様相だ。「再編成」と言えば、パナソニックなどに代表されるナショナルブランドの統合も始まっている。

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 その世相を象徴しているのがファッション業界で、ファストファションがそれだ。流行をすぐに取り入れ、低価格で、短いサイクルで製造し、世界規模で販売する。簡単に言えばファッションのファストフード化である。

 エンタメ市場にも、「ファストゲーム」「ファストエンタメ」的な流れは確実に来ている。ゲームでも、従来の作り込みや、やりこみ要素は徐々に敬遠されており、GREEやモバゲー、ミクシィのSNSゲームのように短時間で簡単に遊べるものが受けている。原稿を書いている最中に日本の開発会社「ウノウ」を買収したという速報も耳にした。

 人間関係が希薄だからこそ、誰かとかぶっても構わないし、安価ゆえに自分なりの着回しが自在にできる。そこそこオシャレだからウケる……のがファストファッション。時代はファストゲーム。テレビCMでは、見ない日がないほど。そして身の回りでもそれらコンテンツに時間と労力を消費している知人も多い。

 しかし、断言しよう。それらはすべて一時的な現象に過ぎない。自分たちで何かを作らず、単にプラットフォームだけを提供して、そこの集客を元に商売をしようということは長く続くはずがない。ちょっと前まで、あれだけ持てはやされたSNSに一時期の勢いはない。SNSゲームとて、人間関係を確認する、疲れを生むだけのものになってしまった。

 ファストファッション、ファストフードに慣れるのは、ある種の文化の危機ではないだろうか。ブランドとか、ホンモノとは何かを知ったうえで付き合うのであれば良いが、入り口がファストというところは警鐘を鳴らしたい。

 最後に残るのはまじめにコンテンツを作っているものであるということは、いつの時代にも証明されてきたはずだ。ゲームメーカーよ、謙虚であれ、モノつくりに真摯(しんし)であれ。再編成、低価格、新興国というキーワードはあれど、エンタメの神髄は「すべて(世界)のお客様へのサービス精神」だ。それさえ忘れなければファストゲーム、ファストエンタメは恐るに足らない。

◇筆者プロフィル

くろかわ・ふみお=1960年、東京都生まれ。84年アポロン音楽工業(バンダイミュージック)入社。ギャガコミュニケーションズ、セガエンタープライゼス(現セガ)、デジキューブを経て、03年にデックスエンタテインメントを設立、社長に就任した。08年に退任後、ブシロード副社長に就任したが10年7月に退く。音楽、映画、ゲーム業界などの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。

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