黒川文雄のサブカル黙示録:HMV渋谷店閉店 音楽を“壊した”のは…

 8月22日、渋谷センター街のHMV渋谷店が閉店した。英国系音楽CDの販売チェーンとして90年に開業し、開業から12年を経て「渋谷系」と呼ばれた音楽発信店舗の歴史が幕を閉じた。

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 私が音楽業界に身を置いたのは84~89年。当時も就職氷河期で、特に音楽関係は狭き門だった。当時はCBSソニー(現ソニー・ミュ−ジック)やキティレコード(解散)、フォーライフなどが全盛期だった。中でも、CBSソニーのニューミュージック系アーティストがヒットを連発していた。当時のソニーはSDというチームが、地方の営業所にも配属され、レベッカ、尾崎豊、渡辺美里、バービーボーイズなどの素晴らしい才能を世に出し続けた。

 この高収益を元にビニール盤のレコードからCD機器とCDメディアへの橋渡しを行ったことがソニーの功績である。しかし、一方ではレコード産業は斜陽だった。そのきっかけは貸しレコードなどの出現もあり、安定した業種ではなかった。それは今も昔もあまり変わりはない。

 さて、売れセンのアーティストがいないレコード会社の悲哀たるや、筆舌に尽くしがたい。新入社員の私は、名古屋営業所に配属になった。まず初めに、担当先のレコード店にあいさつ回りに行くのだが、行く先々でエサ箱(レコードの陳列してある機器)の下にある不良在庫を大量に見せられ、「これを返品受領しない限りは新作の発注はしない」という声ばかりであった。

 これには相当参った……。当時は月末近くなり、担当ごとに売り上げが足りないと、担当店舗に商品を勝手に「送りつけて」いたのである。注文など出していないにもかかわらずだ。店にしてみれば、勝手に注文をしていない商品を送るわ、その分の売り上げも請求するわで……それは商売としてどうなの?という慣習がまかり通っていた。だから、店舗側がおかしくなるのも無理はない。

 80年代の後半には既にそのような状況だったが、その後、エイベックスがダンス系ミュージックを立ち上げたことにより状況は若干好転する。それはジュリアナ東京などのディスコなどを拠点としたサウンドのライブ感の醸成で、その延長線として、ジュリアナを体験できない地方在住者にCDを販売するという手法だった。その流れの中からTRFや小室哲哉サウンド、安室奈美恵などのスターが生まれていった……というのが私の考えだ。

 時は移り、音楽は所有するものから消費する感覚のものになった。ゲームもしかりだが、フリープレーで遊んでみて、面白そうならばダウンロードして購入するという考え方が主流になった。音楽も話題になれば試聴して、その後ダウンロード……というものだ。「もうお店に行くのも面倒くさい。ネットで注文すれば明日には配送されるじゃん」というのが今のティーン層の声だという。

 振り返ってみると、音楽を“壊した”のは他ならない音楽業界なのである。タコが自分の足を食うように生きてきたのだから。

 ◇プロフィル

くろかわ・ふみお=1960年、東京都生まれ。84年アポロン音楽工業(バンダイミュージック)入社。ギャガコミュニケーションズ、セガエンタープライゼス(現セガ)、デジキューブを経て、03年にデックスエンタテインメントを設立、社長に就任した。08年に退任後、ブシロード副社長に就任したが10年7月に退く。音楽、映画、ゲーム業界などの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。

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