09年は8万8000人以上の来場者でにぎわった「したまちコメディ映画祭in台東」(「したコメ」)が今年もまた16~20日の5日間、東京都台東区の上野地区と浅草地区で開催される。マンガ家の吉田戦車さんのポスターが街に飾られ、16日の前夜祭に向けて、盛り上がりを見せている。「この緊縮財政の中、昨年同様5日にわたって開催できることの意義は大きい」と話す総合プロデューサーのいとうせいこうさんに、昨年から進化した点や今年の見どころなどを聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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今年のテーマは「映画と笑いと音楽」。普段から「コメディアンにはミュージシャンの才能があるものだと思っていた」といういとうさんらしい発想だ。
「優秀なコメディアンは絶対的にリズム感がある。テンポがいいし、同じ意味の言葉でも、音感の面白いほうを選ぶ。だからこそ、クレージーキャッツはミュージシャンであり、優れた笑いを作ってきた」と語るいとうさん。
そのクレージーキャッツへのリスペクトの気持ちを表したのが17日の「クレージー・ナイト」だ。「ニッポン無責任時代」(62年)や「日本一のゴリガン男」(66年)などのクレージーキャッツの傑作4作品(72年の「喜劇 負けてたまるか!」と63年の「イチかバチか」の2本は未ソフト化)をオールナイトで特集上映する。さらに、彼らの楽曲を豪華アーティストがカバーする「クレージーキャッツ リスペクトライブ」がクロージングセレモニー内のイベントとして行われる。また、クレージーキャッツのメンバーで11日に急逝した谷啓さんに「コメディ栄誉賞」が授与される。これは亡くなる以前から予定されていたもので、最終日のクロージングセレモニーには谷さんのご子息が出席する。
今年で3回目となり、したコメ独自のカラーも際立ってきた。「業界の人たちに、『したコメ』の人間はいいかげんなことはやらないと信頼された。面白いことがあると『したコメ』と組もうと思ってもらえるようになった」といとうさんは自信をみせる。
布石となったのは16日の前夜祭で行われる「映画秘宝まつり」だ。昨年、この枠で、「ハングオーバー 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」が上映された。当初、劇場公開されずにすぐにDVD化されるはずだったが、この上映によって口コミで面白さが広まり、劇場公開にこぎつけた(公開中)。
いとうさん自身、「『映画秘宝まつり』で上映することで、埋もれていた映画がきちんとスクリーン化されるという道筋ができた。DVD化すらされないコメディー映画がたくさんある中で、スクリーンにかける機会ができたり、DVD化されるチャンスを作ることに、この映画祭をやる意義があると当初考えていたが、割と早い時期に実現できた」と満足げだ。今年、同じ枠では「キック・アス(原題)」(マシュー・ヴォーン監督)が上映される。
日本でコメディー映画がウケなくなって久しい。「(コメディーの)筋肉がなくなると笑い自体が沈下していく。僕は面白いことが好きだからそれは困る。だから、せめてここでは、世界の、例えばインドやロシアでの人の笑わせ方を知ることはとても大きなこと」と話すいとうさん。期間中に上映される特別招待作品には、韓国映画「国家代表!?」をはじめ、ポーランド映画「CIACHO(原題)」といった他国の映画も見ることができる。中でも注目は「コーカサスの虜」や、米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた浅野忠信さん主演作「モンゴル」で知られるセルゲイ・ボドロフさんが共同監督を務めた「ヤクザガール」。荒川ちかさんや六平直政さんといった日本人俳優が出演するロシア映画だ。「これは、もっと大きな映画祭がほしがっていた作品。でも『したコメ』でやったほうがいいんじゃないかと、業界のある方が押してくれた」と胸を張る。
ここまでの充実した内容にするまでに、数々の苦労があったと推察されるが、「いろんな人のアイデアが合わさり、より面白くするために、このゲストを呼ぼうとか、この日にここでこの企画をやったら面白いんじゃないかとか、徐々に形ができてきた。全部が苦労といえば苦労だが、スムーズにいった方」と苦労を苦労と思わないところも、笑いを愛するいとうさんならではだ。
「5日間のうち1日でもいると、誰かカルチャー界の好きな人に会えるいい機会」「祭りの本当の面白さは、祭りのみこしを担いでいる人たちまでを見ると分かる。それ(祭り)を仕切っている町会の人たちを見るのも楽しいし、その周りで休んで、飲んだり食べたりするのも楽しい。来たら必ず楽しいことがある映画祭だと思う。ぜひ、フラっと来て、街ごと楽しんでいただきたい」とメッセージを送った。
*……なお、谷啓さんの訃報(ふほう)を受け、いとうさんは「ショックです。『コメディ栄誉賞』を差し上げようとしていた矢先でした。間に合わなかったという慚愧(ざんき)の念と、恥ずかしがり屋で有名な谷さんが照れて隠れてしまったような感覚とがあります。心よりお悔やみ申し上げます」とコメントを寄せた。
<プロフィル>
1961年3月19日、東京都出身。88年、小説「ノーライフキング」で作家デビュー。以来、小説やルポルタージュ、エッセーなど数々の著書を発表。99年「ボタニカル・ライフ」では第15回講談社エッセイ賞を受賞。執筆活動を続けながら、宮沢章夫さん、竹中直人さん、シティボーイズさんらと数多くの舞台やライブをこなす。また、みうらじゅんさんとは仏像の見聞録「見仏記」を共作し新たな仏像の鑑賞法を発信するなど、クリエーターとしてマルチな才能を発揮。音楽家としてもジャパニーズヒップホップの先駆者として活躍している。レギュラー番組に「シルシルミシル」「天才テレビくんMAX・ピットワールド」などがある。初めてハマったポップカルチャーは、ゲームなら「ゼルダの伝説」、マンガはみなもと太郎さんの「ホモホモセブン」。
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