黒川文雄のサブカル黙示録:「モンハン」「ヤマト」……今年末のコンテンツ

 一休さんは言いました「門松は冥土の旅の一里塚」と。「めでたくもありめでたくもなし」と続く狂歌は、正月を祝うめでたい門松も、年を重ね死に近づいている印でもある……と皮肉ったものです。古来、正月とは1月の別名で、豊穣(ほうじょう)と息災をつかさどる歳神(としがみ)様をお迎えする行事でした。門松やしめ飾りは歳神を歓迎するための装飾なのです。

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 そんな年末年始はあらゆる業種にとって消費が活性化します。中でもエンタメ産業は顕著です。それは「なくてもかまわない娯楽」が、ヒマな時期に有意義と思わせるような時間を費やすものとして、世の中にその存在を認めてもらうことができたということになります。

 ここ数年の年末年始の景気は低迷していますが、それでも売れるコンテンツもあります。今年ならば1日に発売されたカプコンのPSP用ソフト「モンスターハンターポータブル 3rd」です。しかし他の作品へのアテンション(注目度)は非常に低くなっています。現に店頭での販売も「12月はモンハンしか商品がなかったのでは?」と思わせるほどの破壊力をもっていますし、逆にここまで来ると「他の商品が弱すぎるのではないか」という疑念を抱かざるを得ません。

 年末年始の映画で、話題になったのは「SPACE BATTLE SHIP ヤマト」です。主演のスターがテレビ番組に出ずっぱりで宣伝したかいもあって注目はされたものの、興行収入で100億円の大台は難しく、トントンの収支という感じでしょうか。厳しい映画業界にあって、数字を保ったのは「宇宙戦艦ヤマト」オリジナル世代の中高年を劇場に向かわせたという作品の力もあったと思います。

 音楽業界はさらに厳しさを増しています。CD専門店の閉店や撤退が相次ぐ中、音楽は「通販」か「配信」で購入するモノに変わってしまいました。「ビートルズ」の音源の配信がiTunesで始まったことがジョン・レノン没後30年の今年の大きなトピックになったことと思います。

 そのジョン・レノン命日である12月8日、「モバゲータウン」を運営するディー・エヌ・エー(DeNA)社に対して公正取引委員会が立ち入り検査を行いました。アプリ開発会社に対して、ライバルのグリーへのアプリ提供をやめるように圧力をかけた疑いがあるためです。この数年で一番伸長した市場はモバイルやスマートフォンでのアプリ販売です。売り上げ至上主義を貫いた結果、開発会社の囲い込みが極端なカタチで表れているのでしょう。ですが、この市場は世相と相まってまだ伸びていく可能性があります。

 2010年もあと半月で終わろうとしています。おそらく、また来年もさまざまな新コンテンツやデバイス、新しいディストリビューション(配信)などが話題になるでしょう。個人的に関心を持っているのは電子書籍端末とその配信方法、オンデマンド映像配信の新しい展開とその急激な普及。フェースブックなどの実名型ソーシャルグラフの日本での受け入れ方などがあります。

 とはいえ、何が起こるかわからないのは世の常です。かつて、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏がインタビュアーに「恐れている挑戦者はいるか?」と問われて……「どこかのガレージで、全く新しい何かを生み出そうとしている連中が怖い」と答えたことが象徴的です。これ以上のものはないと思っていても、どこからか必ず生まれてきます。

 日本では「正月買い」という言葉があります。無駄と思いながらも出費してしまう。年末年始くらいはそれくらいの余裕があってもいいと思います。皆さま、良い年末年始をお過ごしください。

 著者プロフィル

くろかわ・ふみお=60年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。

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