レイン・オブ・アサシン:ジョン・ウー監督らに聞く 「武術映画のすべてを盛り込んだ」

映画「レイン・オブ・アサシン」で製作・共同監督を務めたジョン・ウー監督(左)とスー・チャオピン監督
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映画「レイン・オブ・アサシン」で製作・共同監督を務めたジョン・ウー監督(左)とスー・チャオピン監督

 大ヒットシリーズ「レッドクリフ」のジョン・ウー監督が製作・共同監督を務めた武術映画「レイン・オブ・アサシン」が全国で公開中だ。メーンの監督は宮沢りえさん主演の台湾映画「運転手の恋」(00年)の脚本や、江口洋介さん主演のホラーサスペンス「シルク」(06年)の脚本・監督を務めたスー・チャオピンさん。キャストにはアクションもこなせる美貌のスター、ミシェル・ヨーさんをはじめ、韓国の人気俳優チョン・ウソンさん、「インファナル・アフェア」シリーズのショーン・ユーさん、「花より男子」の台湾版ドラマで人気を博したバービー・スーさんらアジアの人気俳優が顔をそろえている。「武術映画にあるべき要素をすべて盛り込んだ」と胸を張るスー監督と、「昔の人物を描きながら現代性がある」と語るウー監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 「レイン・オブ・アサシン」は、明朝時代の中国を舞台に、組織を裏切り逃走した女刺客(ヨーさん)と、彼女の命を狙う組織との死闘が、女刺客と心優しい“配達人”(チョンさん)との愛とともに描かれている。今作はもともとウー監督の盟友で今作ではプロデューサーを務めるテレンス・チャンさんが、ヨーさんを主役に据えた武術映画を撮りたいとして動き出した企画。そのシノプシスを書いたのが、スー監督だった。それを読んだウー監督が「まさにミシェル・ヨーにぴったりの作品」で、「従来の武術映画とは違い人間を描いている。また、独立心があり、愛のためにすべてを捨てるという女性の英雄の描き方が、現代の女性に通じる」とほれこみ、スー監督の「シルク」を見て以来、その才能を買っていたこともあり、今回はスー監督にメーンを委ね、自身はプロデューサーと共同監督の立場をとることにした。

 メガホンを託されたスー監督は、現場ではウー監督からたくさんのことを学んだという。「ウー監督は、映画作りにおける歩く百科事典のような人。だから困難にぶつかったら監督に聞けばいいという安心感がありました」と話す。例えばそれは、映画のエンディングの場面で、当初は野外で撮る予定だったが大雨でそれができなくなった。そのとき、ウー監督からスタジオでも十分撮れるというアドバイスがあり、それに従ったところ、「想像以上によいエンディングが撮れた」と話す。

 自分に向けられた称賛の言葉を隣で聞いていたウー監督は「(監修的な立場の)共同監督をするにはいい監修と悪い監修がいる」と話し出した。「いい監修は、絶対、予算の範囲内でやる。私は悪い方で予算を超える(笑い)。でも、悪い監修にもいいところがある。それは、監督の才能を一番評価しているということ」。

 実はクライマックスシーンで、ヨーさんふんする刺客のザン・ジンが、師匠ルージュー(リー・ゾンファンさん)からの教えを思い出しながら敵と戦う幻想的なシーンがある。そこは、スー監督が予算オーバーで一旦あきらめたが、ウー監督が出資者を説得して資金を集め、撮らせたシーンだった。ウー監督は「彼がなぜそのように撮りたいか分かっていたし、撮れば素晴らしいものになると予測できた」。ウー監督のいい監修ぶりを実証するエピソードだ。

 ところで、今作にはもう1人、ウー監督にとって大切な人がかかわっている。それは愛娘のアンジェルス・ウーさんだ。アンジェルスさんはザン・ジンの命を狙う刺客の一人として出演している。今作が女優デビュー作となるが、テコンドーで黒帯の実力を持つ彼女は、スー監督からすると「今回の刺客役はぴったりだった」と振り返る。ただ、父親であるウー監督の前で演出するのはスー監督にとってプレッシャーで「アクションシーンをどう撮るかは悩ましかった」と打ち明ける。「幸いなことに」(スー監督)、スケジュールの都合で三つのシーンを同時に撮ることになり、アンジェルスさんのシーンはウー監督がじきじきに演出することになった。

 「僕もすごく緊張した」とウー監督は言う。アンジェルスさんが池を跳び越すシーンでワイヤを使ったが「ワイヤが切れないかと心配で心配で何度もチェックしました。周りのスタッフから大丈夫だといわれ、やっと撮ることができましたが、娘にはカメラの前でウロウロするなとしかられました」と苦笑い。そして「でも、彼女もすごく努力していた」と娘の頑張りをねぎらうとともに、9月末からウー監督が撮影に入る、1949年の上海・台湾・日本を舞台に時代の波に翻弄(ほんろう)される女性3人の新作ラブストーリーに言及しながら、「次回作でも使いたい」と明かした。

 「この作品が失敗して大好きな武術映画が二度と撮れなくなると困るので、剣の達人や宦官(かんがん)、魔術師など、武術映画にあるべき要素をすべて盛り込んだ」とスー監督が解説すると、ウー監督も「武術の世界を制覇することで終わる従来の武術映画と違い、この作品は、愛情やサスペンスが盛り込まれている。そこがスー監督の独自性であり、だからこそ観客は物語に引き込まれる。登場人物にも共感しやすい。昔の人物を描きながら現代にも通じる。そこが特徴です」と太鼓判を押した。「レイン・オブ・アサシン」は、新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国でロードショー中。

 <スー・チャオピン監督のプロフィル>

 1970年台湾出身。00年に水野美紀さん主演作「現実の続き 夢の終わり」、宮沢りえさん出演作「運転手の恋」の脚本を手掛ける。後者は台湾金馬奨最優秀オリジナル脚本賞にノミネートされ注目される。02年には「ダブル・ビジョン」の脚本を担当。その一方で、「愛情霊薬B.T.S.」(01年)で監督デビューを果たし、06年には江口洋介さん、チャン・チェンさん主演のホラーサスペンス「シルク」を脚本・監督。この作品は台湾金馬奨最優秀作品賞、監督賞などにノミネートされた。

 <ジョン・ウー監督のプロフィル>

 1946年、中国・広州で生まれ、その後、香港に移住。73年「カラテ愚連隊」で監督デビューし、86年の「男たちの挽歌」で一躍有名に。93年、「ハード・ターゲット」でハリウッドデビューを果たし、以来、米ロサンゼルスを拠点に数々のアクション大作を手掛けてきた。主な作品に「フェイス/オフ」(97年)、「M:I‐2」(00年)、「レッドクリフ」2部作(08、09年)などがある。

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