ランゴ:ゴア・ヴァービンスキー監督に聞く 「この企画はジョニーをなしではあり得なかった」

映画「ランゴ」の製作秘話を語るゴア・ヴァービンスキー監督(C)Kaori Suzuki
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映画「ランゴ」の製作秘話を語るゴア・ヴァービンスキー監督(C)Kaori Suzuki

 映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのゴア・ヴァービンスキー監督とジョニー・デップさんによる映画「ランゴ」が22日に封切られた。といっても今作は実写映画ではなく“エモーション・キャプチャー”によるアニメーション。ヒーロー願望の強いペットのカメレオン“ランゴ”が、ひょんなことから砂漠の町に迷い込み、保安官に任命され、水不足に苦しむ町の住人のために奮闘する姿を描いた西部劇だ。エモーション・キャプチャーとは、声の収録とともに撮影された俳優の動きや表情をアニメーションに投影させるというもので、俳優のエモーション(感情)がキャラクターに吹き込まれていることから、こう命名された。主人公のカメレオンのランゴは、吹き替えたデップさん自身の動きであり、ほかにも「パイレーツ・オブ・カリビアン」などのビル・ナイさんや「リトル・ミス・サンシャシン」のアビゲイル・ブレスリンさんらが、それぞれのキャラクターを熱演している。一見不気味だが、やがてはいとおしくなるランゴをはじめ、個性豊かなキャラクターたちを“演出”したヴァービンスキー監督に聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−ランゴを、万人受けしづらい爬虫類(はちゅうるい)にしたのはなぜですか。

 有機的な発想から生まれた。もともとのアイデアは、砂漠に生息する生き物を使って西部劇をやるというものだった。西部劇には名前のないアウトサイダーが必要だ。そこを起点に、彼がもしカメレオンだったら? カメレオンなら水に関係する話だな、それにカメレオンなら多分、役者だ。しかも、自分が誰か分からない、アイデンティティーに問題を抱えた神経症の役者だ……というふうに逆に発想していったんだ。

 −−ランゴの外見がユニークです。

 非対称になるようにした。片目が大き過ぎたり、首が曲がっていたり、彼の存在が場違いに感じるようにした。僕は「カッコーの巣の上で」(75年、ミロス・フォアマン監督)が大好きなんだ。この映画の仲間たちは、「カッコーの巣の上で」の彼らのように、どれも実にユニークなんだ。

 −−デップさんの起用は最優先事項ですか?

 この企画は、ジョニーを基にデザインされた。彼なしではあり得なかった。アイデア自体は「パイレーツ・オブ・カリビアン」の1作目の製作中に思いついた。当時から彼にその話をしていたから、彼も会うたびに「トカゲのプロジェクトはどうなってるの?」と聞いてきていたよ。

 −−声の収録の様子を教えてください。

 多くの役者は「これは自分がやった最も奇妙なアニメ映画だ」とか「まるでハイスクールの舞台のリハーサルみたいだ」と言っていた。なぜなら僕らは、カーペットを敷いたスタジオで走り回っていた。照明など全くない中、(マイクがついた)ブームを持った人間が、音をとるために僕らを追いかけていた。役者たちはみな現場に来ては帽子をかぶったり、ガンベルトを着けたりしていたけど、基本的には普段着でやっていた。使うのは音だけだからね。実写はもとより、アニメの吹き替えをやったことのある役者でさえ未体験のこと。誰もがある意味、裸になったような感じだった。だからこそ、そこには信頼があった。

 −−完成した作品を見たときの俳優たちの反応は?

 「とてもハッピーだ」と言っていたよ。それがうそじゃなきゃだけどね(笑い)。

 −−たくさんの名作西部劇のパロディーが見受けられますが、何本の作品が仕込まれているのでしょう?

 分からない。というか、どのフレームにもオマージュをささげている。僕は(西部劇などの)ジャンル映画の大ファンなんだ。ほかの西部劇にあるショットをまねずに新たな西部劇を作ることは難しい。この作品が、そういった関連性をほのめかしているのは、ランゴが役者であることからも明らかだ。役者が、自分が誰かを探すうちにジャンル映画の世界に入っていくんだ。そして、マリアッチたち(ランゴの不吉な運命を歌う謎のふくろう軍団)はカメラに向かって歌い、(観客に話しかけるという映画としての)壁を破る。だから作品全体が、映画と、そこにいる役者についてのものであり、おのずと、映画すべてを祝福していることになるんだ。

 −−あなた自身がオマージュをささげた作品を教えてください。

 西部劇ではないが「チャイナタウン」(74年、ロマン・ポランスキー監督)。この映画は、カリフォルニアにおける水の利権をめぐる実話が基になっている。それから僕はセルジオ・レオーネ(65年、「夕陽のガンマン」など)の大ファンで、構図的にかなり影響を受けている。今作でも、広角レンズを使ったときのような映像や超クローズアップを多用している。また、ジョニーの演技には、少しドン・ノッツ(米国で有名な喜劇俳優)が入っている。それから、最後の撃ち合いは、「真昼の決闘」(52年、フレッド・ジンネマン監督)。それと「リバティ・バランスを射った男」(62年、ジョン・フォード監督)も入っているね。

 <プロフィル>

 1964年、米テネシー州出身。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の演劇・映画・テレビスクール卒業。CMディレクターとして経験を積み、97年、「マウス・ハント」で映画監督デビュー。01年「ザ・メキシカン」、「タイムマシン」「ザ・リング」(ともに02)をへて、3作の「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ(03~07年)を製作し世界的に大ヒットさせた。

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