江角マキコ:観客の心に「小さな革命を起こしたい」 映画「1911」で実写吹き替えに初挑戦

映画「1911」で初挑戦したアフレコについて語った江角マキコさん
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映画「1911」で初挑戦したアフレコについて語った江角マキコさん

 中国が世界に誇るアクションスター、ジャッキー・チェンさんが100本目の出演作として選んだ映画「1911」が全国で公開中だ。タイトルが示す通り、今作は“中国革命の父”と呼ばれたウィンストン・チャオさん演じる孫文が主導した1911年の辛亥革命について描いたものだ。その孫文の右腕として戦ったのがチェンさんが演じる革命軍司令官・黄興であり、黄興を助け、のちに彼と結ばれるのが、リー・ビンビンさん演じる女性革命家・徐宗漢だ。今作の日本語吹き替え版で、徐宗漢の声を担当した江角マキコさんは、これまで、「ボルト」や「ダイナソー」といったアニメーションの吹き替えは経験していたが、生身の人間の声は初挑戦。もとより「(革命の最中の人間の)生きるか死ぬかの声を出すのも初めてだった」と語る江角さんに、収録時の苦労やチェンさんとの“共演”の感想を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 自分の声がキャラクターに命を吹き込むアニメーションと違い、今回はリーさんという生身の女性の吹き替え。だから最初は「彼女(リーさん)の声に、日本語でコピーしたかのように当てればいいと考えていました」と江角さんはいう。ところが実際はそんなに簡単ではなかった。「声だけとはいえ、体全体、心も使って、その状況に入り込んだかのような気持ち」を作る必要があった。また、アルト声の江角さんは、自分より年下の徐宗漢の若さを意識し、普段より高めの声を心掛けた。そして物語が進むにつれ音程を下げていき、「最後は母として、黄興を含め、おなかの子もすべて包み込む……。逆算ではないんですが、そういう声の作り方をしていった」と話す。お陰で莫大(ばくだい)なエネルギーを使い、「今までかいたことのないほどの汗をかいた」ことを、苦笑しながら明かした。

 江角さん自身、これまで“強い女性”の演技を求められることが多かった。それだけに女性革命家としての徐宗漢の「革命という生と死のはざまでの、人を包む力、人を思う力」には大いに共感したという。ただ、彼女の存在については「知らなかった」と打ち明ける。だからといって歴史書などを開き、彼女の情報を得ることは「雑念になってしまうから」としなかった。「私自身が演じるのであれば(勉強は)必要ですが、すでに演じられた方がいらっしゃるのですから、むしろ私自身は白紙の状態でいることが大切だと思ったのです」と説明する。

 スクリーンを介してとはいえ、チェンさんとの共演には「ワクワクした」と話し、「私には手の届かない雲の上の大スター、ジャッキー・チェンさんと夫婦役をやらせていただけるというのは人生の誇りであり宝」と言い切る。今回のチェンさんは、アクションをほとんど封印し、1人の革命家に成り切っている。その演技を見て、「立ち姿そのものに力があり、改めて彼の魅力を感じた」といい、「辛亥革命のテーマを100作目に選んだことが彼の懐の深さと知性の豊かさを証明している」と絶賛する。

 「毎回、この仕事を乗り切ったら(女優という仕事を)辞めよう」と実は思っているという。そして今作が「革命」を扱っていることを踏まえ、女優業は「大好きですが、すごく大変。その意味では、ドラマ収録の3カ月半から4カ月は、私にとってのまさに革命」と笑う。

 95年に女優としてデビューし、当時は「がむしゃらにやっていた」江角さんも今年で44歳。人間とは年齢を重ねると保守的になりがちだ。だが「もうこれでいいと思うのではなく、経験を積み、この年になったからこそ意識して変革していかなければ」と今回の仕事を通じて改めて考えるようになった。そして「革命はどんなときでも、誰の心にも起こる」という劇中の孫文の言葉が、「心にストンと落ちた」ことに触れ、「どんな小さな革命でもいいと思うんです。どんなときでも誰の心にもそれは起きるし、起こさなければいけないと思う。他人を変えることは難しいですが、自分自身が変わっていくことはできる。ぜひたくさんの方に見ていただいて、小さな心の革命を起こしていただきたいです」と締めくくった。

 <プロフィル>

 1966年島根県生まれ。映画「幻の光」(95年)で女優デビュー。その後、数々のテレビドラマや映画に出演。98年、主演のドラマ「ショムニ」が大ヒット。主な出演作に、映画「命」(02年)、「蟲師」(06年)、ドラマ「オーバータイム」(99年)、「ブルドクター」(11年)などがある。アニメーションの吹き替え作に「ダイナソー」(00年)、「ボルト」(08年)。実写映画の吹き替えは「1911」が初めて。

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